第35話 通称GoG
(作者注:前話にて、作者の編集ミスと記憶違いにより途中変なセリフ、およびアサクラが何故かホルスターを所持しているという突然の新設定が登場していました。
現在は微妙に修正済みですが、色々とチャランポランな作者であることを謹んでお詫びします)
――再燃する殺気。
よく、睨み合う二人の間に火花が散るという比喩表現や、それをそのままビジュアライズした漫画的表現があるが、今この二人の視線の間で飛び交っている何かはそんなコミカルなものでは無い。
眉間に深いシワを刻んでいる片方の騎士に至っては、一旦は収めた刀に再び指をかけており、今にも相手の少年貴族に斬りかかってもおかしくは無い。
……ヤバイこれ。どう考えても俺が道化の百や二百演じ倒したところで、この鬼気迫る空気が払拭できる可能性が1㍉も見いだせねー!!
「フフ……どうしたんです? 斬らないのですか騎士団長? 所詮は態度だけがデカいだけのフニャチ○野郎のようですね?」
……などという下品なことは口に出していないとはいえ、暗黒微笑を浮かべる堂々としたアレックス・ウェルズ卿の態度は十分に挑発的だった(セリフはだいぶ俺の方で誇張している)。
だから煽るような態度を取らないでいただきたい。どれだけ火に油を注ぐ気だ。今、結構危険な状況に居るからな君。もう肝が座ってるのを通り越してだんだん君が狂人に見えてきたよアレックスくん……!?
狂人枠なら既に先役が居るだろう。
他ならぬこのチビ助のことである。
しかし、このクソマズイ状況をいかに切り抜けるか。
これはもしかすると、俺に求められているだろうか。
物語が要求する必然。
使われるためにある小道具。
いざとなれば、こちらから先に仕掛け、人を……刃を向ける騎士を……殺すことができる、この重い鉄の塊、魔法銃の使用を。
それは、俺の決断一つで可能となる選択肢だった。
最悪の可能性に向けて、俺の手は揺れるように銃へと伸びて……。
……って? え? と、俺は視線を下に下げる。
シーラの頭が俺の両手の中から消失していた。
「
突如、シーラの雄叫びが響く。
いつの間にか俺の両腕を逃れていたシーラは……一体、どんな気配を消すマジックを使ったのか……いつの間にか騎士の背後から出現した。
シーラは全力疾走でそこから駆けると、騎士の体の真横を走り抜けるついでにスライディングで猛烈な足払いを放つ。
運悪くも剣を構え、その重心が乗った軸足の方を蹴り飛ばされたらしく、一気に安定を失った騎士の身体は奇妙なダンスを踊るように崩れ落ちた。
手に持った剣の角度によっては、倒れるついでに持ち主の身体を刺し貫くという非常に笑えない事態になってもおかしくない、それはそれはアクロバティックな転げっぷりだった。
「アレックス! アサクラ! 今のうちに逃げるぞ……!」
シーラ・レオンハートは一瞬だけ立ち止まり、そう言い放つとまた走り出していく。
「よし! 逃げよう、アレックスくん!」
「しかし……!」と、渋る少年の手を引いて、俺はシーラが走り去っていった酒場の出入り口へと駆け出した。
扉を蹴り開けて、通りへと出る。
さて、シーラは何処へ向かったのか。
「アサクラ! こっちだ」
酒場とその隣の店舗との間にある、暗くおそろしく狭い隙間にシーラの身体がすっぽりと収まっている(しかも、何故か三角座りで妙に収まりがいい姿だった)。
俺とアレックスくんもその空間に身体をねじ込ませる。
「ふふふ……まさかこんな近くに隠れているとはヤツも思うまい……!」
『してやったり』的な、悪そうな笑みを浮かべるシーラ。
しばらくそこ息を潜めていると、もはや言語になっていないに等しい怒声を叫びながら、酒場から白金の騎士が飛び出してきた。
俺たちは更に息を潜める。
呪詛をぶちまけるアイツは、感情に身を任せるように、俺達のいる場所とは見当違いな方向へと走り去り、やがてその怒声すら聞こえなくなった。
「よっしゃっーーー!! なんとかなったぁー!!!」
胸をなでおろし、緊張感から解放されたことでむしろハイになっている俺であった。
三人で物陰から身体を出す。
「あーもう! 一時はどうなるかと思ったよ! 二人とももうちょっと見の安全を考えてくれ!」
俺がそう物申すと、二人は同時に口を開いた。
「……アサクラのチキン野郎……」
「……カイの小心者……」
すると、二人からはまたも冷たい視線付きでディスられた。この世界の基準だと己の身の安全は優先されないのだろうか? 何気に恐ろしいぞファンタジー宇宙。
「……にしても」と、俺は小娘の頭をわしわしと鷲掴みにしながら賞賛の言葉を述べようとする。
「よくもまぁ、アイツと襲撃犯が会っていた、なんて分かったもんだな」
「むふぅ」と、シーラは俺の手を払いのけると、
「よく分かったも何も、ありゃー半分はブラフさ」
「……え?」と、俺の背筋が凍る。
「ピンチの時にはハッタリをかましてふてぶてしく笑うのがヒーローの鉄則なのだ!」
「今回ばかりは本気で命の危機だったじゃねぇかいい加減にしろ!」
手頃な高さにあるつむじを思いっきりどついてやろうとしたが、身軽にかわされた。
「しかし、思わぬところで言質が取れてしまったのも事実……。まったくレオンハート卿には恐れ入ります……」
一方の貴族は神妙な顔で考えにふけっている。
「しかし、騎士の連中が犯人を匿ってるんじゃ……どうやって捕まえろっていうんだ……?」
俺は頭を抱える。
相手、国家権力だぞ。それも武力付きで市民の生殺与奪の権利を掌握しきっているような連中だ。
……ただのクソ野郎じゃないかソレ。
「そうさなー、凶悪無比な連中のところに殴り込んで、犯人とっ捕まえて、ついでホンモノの騎士の何たるかをこのアタシが教育してやる外あるまい!」
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