第47話 薬莢事件 エピローグ2

「アレックスくん」


「フフ……今日もお二人は楽しそうですね。ボクなんかがご一緒して良いものやら……」


 この貴族には俺らの関係はどう見えてるのか。


「いやいや、ご一緒していいから。断る理由ねーから」


 と、俺が答えるとアレックスくんは俺の隣の席へと座った。


「お二人とも、今日は本当にお見事でした。天に帰ったエルドリッチも喜んでいることと思います」

「んにゃー。聖刻騎士団の力を持ってすればこれくりゃいのことヨユーのヨユーにゃ」


 ヘベレケ……って言葉はこういう状態の人間を形容してるんだろうなと、俺はどうでもいいことを思う。呂律回ってないからなお前。


「モチロン。カイ、あなたもです。

 あなた無しにはこの勝利は無かった」

「いや、俺は……何も……できなかったよ……」


 正直、居なくてよかったのではないかと思う。


「な……!? 何をいうのです!?

 現場に残った薬莢から犯人の特定、そして、相手の武器の押収から、イザというときのためのその複製まで……、今回の捜査を先頭に立って指揮したのはあなたではありませんか……!」

「それは……」


 そんなことを、確かに俺はやった。

 根回し、というか、事前準備というか、舞台を整えたというか。

 ……それでも、犯人と対峙して、いざ相手を目の前にして、その時に、俺が何をできたというのだろう。


 所詮は一般的な高校生でしかない人間には何もできなかった。

 事前の準備、作戦の計画など、机上の空論でしか無かった。

 事前の作戦通りにならない展開を迎えた瞬間に、この男はただフリーズするしかなかったのだ。


 ポリポリ。

 グビグビ。


 ああ、ドクペが進むなぁ今夜は。


「先程、犯人の検死にボクは付き合ってきました」

 アレックスくんが、とても陽気とは言えない表情で言った。


「なぁ……やっぱ、犯人が死んでしまった……って事は……」


 今まで考えなかった訳ではなかった。確率が高そうな可能性がある。


「あの騎士団長。エドワードとかに消された……ってことだよな……?」


 事前に仕込んだ毒物やらなんやらで。

 真相を知る人間を消し去ってしまえ。なんて、本当の悪人なら考えそうだ。


「その可能性は高いでしょう。しかし……どうやって殺したのか? 検死を終えても結果は分かりませんでした」

「毒を盛られたとか」

「既知の毒物による反応はありませんでした。有りうりとすれば、未知の毒物による反応……」


 そもそも、この世界の検死解剖の制度がどのようであるのか俺は知らない。


「それと、犯人の身元の特定ができました」


 身元の特定? ……いや、それはおかしい。


「ロイ・ベイティ。出身は首都郊外にあるアーカム村……」

「おい待て、そんなはず無いだろ」


 なんだぞ。


「しかし……、犯人の遺体の特徴は、アーカム村から失踪した彼のものと一致しました。100%そうである、とまでは言えないのですが……」


 酔いが、急激に冷めていくのを感じる……。


「カイの言うとおり、あの銃は我々が知るものではありませんでした。……しかし、不思議なのは……」


 アレックスくんは、何かレポートのような紙面を俺の前へと出した。


「カイが押収した銃の『オリジナル』。これが、その鑑定結果です」


 その紙面にある文字は俺には見慣れないものだったが、相変わらず謎の力により、俺にはその文面の意味を読み取ることができた。


Type:copy

Quality:AAA


「あの銃が……そもそも複製品だった?」

「そして、これと同等クオリティの複製品が他にも存在しました。それも……思いがけない物です」


 アレックスくんの眼光が鋭くなる。

 俺は、この事態が全く理解できずに、ただ戸惑う。


「カイがグリモアに預けたという機械。その分析の結果……」


 アレックスくんがもう一枚の鑑定書を俺に見せる。


Type:copy

Quality:AAA


 ……それは、俺があの婆さんに預けたスマートフォンの分析結果だった。


「カイ……? 貴方は一体、何者なんですか……?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る