第23話 作戦会議〜アサクラ・カイの推理
「そうだ。一度ここで俺の考えをまとめてみようと思うんだ」
ビックマウス演説をしたことのいささかの気恥ずかしさを誤魔化すように、食後になって俺は提案した。
この場には何人かの黒髪も同席していて、さながら解放戦線の第一回会合みたいだ。
「ええ、カイ。先程から思っていましたが、君には何か考えがあるようですね」
考え、それも少し正気じゃない考えが一つあった。
「俺の推理はまず、『あるとてつもない前提』を必要としている。信じられないだろうが、その前提があれば筋が通る」
「なにをもったいぶっているのだ探偵助手? さっさと話せ」
なにももったいぶっているわけではない。その前提を信用させるにはどう話せばいいのか俺は悩んでいる。
いっそ結論から話すやり方は分かりやすくはあるが、いかんせん俺の仮説はトンデモ説なのだ。
「まず襲撃に使われた銃だが、一般的なものではない」
「と、言いますと?」
「この世界で流通している一般的なパーカッションロック銃ではないことはアレックスくんと調べた通りだ」
「シーラ、火薬の匂いを嗅いだことは?」
「花火ぐらいは見たことがあるが、お前が言いたいのは襲撃現場でした匂いのことだろう、間違いなく匂ったのは覚えている。……いや、襲撃は花火の打ち上げが行われていたのと同時だ、そっちの匂いかも……」
おっと、そういえばそうだった。
「この匂いを嗅いでみてくれるか?」
「む。なんだよ怪しいな……」、少し嫌な顔を浮かべる。
俺は例の薬莢を彼女に差し出した。
「くんくん……、む、臭いな……それも、なにか焦げ臭い焼けたような匂い……?
アサクラ、アタシは犬じゃないんだからこの匂いを頼りに犯人探せなんて言われても困るぞ?」
「厳密にはそれは花火に使われる『黒色火薬』とは違うのだろうけど、これは俺たちが探す『特殊な銃』が発砲された後の匂いだ。
つまり……俺が言いたいのは、犯行に用いられたのは火薬式の銃。そして、これはその銃の一部、それも弾丸の一部だってこと」
アレックスくんも薬莢を鼻に近づける。
「カラス少年が持っているのも同じ、たぶん、式場を探せばまだ出てくると思う。
この焦げ臭い筒……『薬莢』が犯行に無関係だとは考えにくい。魔法式銃であればこんなパーツは存在しないんだろ、アレックスくん?」
「そうですね。このようなものは正直初めて見ます。しかし、『未知の銃』による犯行だと分かっただけでは……」
「……それが、『未知』じゃないんだわ……」
「と、おっしゃいますと?」キョトンとした顔を浮かべるアレックスくん。
ここからがトンデモ理論だ。
「これは『俺の世界』で一般的に用いられる銃の弾丸に酷似している……というか、まるで同じ」
「ハハ……!」シーラが笑う。
「いやいや、アサクラ探偵助手はギャグのセンスがあるなー!」
まぁ、こうなるわな。
「犯行に使われた銃はおそらく、俺の世界で『オートマティック』と言われる銃だ。まぁ聞いてくれ、詳しく説明する」
俺は、実包のメカニズム。パーカッションキャップを底部に内蔵し、筒の中に火薬を詰め、弾頭だけが射出される原理を説明した。
また、オートマティックは薬莢の自動排出機構を備えていることも。
……それも、説得力を持たせ分かりやすく説明する為に紙とペンを借りて詳細な図解を挟みながら……!!
「俺の世界……の、俺の国では一般に手に入らないんだけど……ある国では割と簡単に手に入るらしい。俺が居た世界では長らく戦争の道具にはこの火薬銃が使われてきた。射程距離、命中の問題も簡単にクリアできる」
俺の話を聞いていた一同は不穏なまでに黙りこくっていた。
「……にわかには……信じがたい……」と、アレックスくん。笑われなかっただけマシかも知れない。
「信じられないだろうがな……、じゃあ、俺から一つ『予言』をしておこう……。
発射された銃弾をよく調べてみるといい。螺旋形の溝が刻まれてあるはずだ」
「螺旋状の溝?」
やはり、銃に詳しいアレックスくんでも知らないらしい。
「ライフリングといって、銃身に溝が刻まれている。これで銃弾に回転を与えることで軌道が安定する。この溝の後が銃弾側にも残る。
俺の世界の火薬銃は、おもちゃじゃない」
いわゆる線状痕、科学捜査ではこれで銃の特定まで行うが、そこまでは期待していない。
既に無茶な理論だが、いよいよ俺はこの推理で一番無理のある結論部分を言う時が来た。
「よって、犯人は……」
全員が息を呑むのを感じた。
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