第33話 騎士(鬼)vs騎士(自称)

「って、え? カンナさん?」


 突如押し入ってきたのは誰であろう、酒場のセクシー担当カンナ嬢だった。


「アレックスくん! 大変なの、急いで店まで来て!」

「な、一体どうしたっていうんです?」

「王子が大変なことに……! ……って、王子につきまとう変態ストーカー男までなぜアレックスくんの家に!?」


 とうとう俺の身分、変態の上ストーカーにまで下がったか。


「シーラのことだよな。アイツ、またなにかしでかしたのか?」

「あなたはいいの! どうせアンタではラチがあかないから! そんな事よりアレックスくん!」

「当たり前のように俺は戦力外だと!?」

「……いいから落ち着いてください。レオンハート卿に一体何が?」

「王子ったら、酒場で居合わせたあのクソ忌々しい騎士に向かって突然立ち向かって行って……!」


 立ち向かって行った? よく分からんが、シーラの事だ、また訳のわからない理由で喧嘩を売りに行ったのだろう。相手のクソ忌々しい騎士というと、いつぞやのやたら暴力的な『白銀の聖騎士』に違いない。


 ……それは非常にマズイ。ヤツの腕っぷしの強さと残忍さは俺が経験済である。


「マズイな。早くシーラを助けないと」


 自業自得の様な気もするが、これでも一応は友人である人間の不始末は、俺がどうにか……どうにかってどうすればいいんだ?……しなければ!


「お願いアレックスくん! 王子を助けて……!」


 ……うん。やっぱり俺は戦力に含まれないんですね。知ってたけど。


 とにかく、俺達は酒場まで急行するのだった。



 酒場は昼間から飲んでいるような奴らで混み合っていた。

 思えばあの、一応は本職の(クソ野郎)騎士様もこんな真っ昼間から飲んでいたのだろうか? いいご身分である。

 酒場はにらみ合うシーラと聖騎士を中心にして野次馬で人だかりができていた。


「シーラ!」

「王子!」


 人だかりの中へ俺たちは飛び込む。


「何だ貴様ら? ……チッ、よく見るとこの間の小僧ではないか、なんだ、貴様らもまとめて法の下に裁かれたいとでもいうのか、黒髪よ?」


 騎士は口元にサディスティックな笑みを浮かべて答えた。


「何を偉そうに! 法と権力を盾にこの横暴、真の騎士たるこのアタシが成敗してくれる!」


 そこには、いつになく勝ち気というか、無謀というか知れないが、国家権力に突っかかっていく自称騎士の小娘ドンキホーテの姿があった。

 ……マズイ、これは非常にマズイ。

 この阿呆は誰を相手にしているか理解しているのだろうか?


「おいシーラ。ちょっとお前は落ち着いてだな……」

「止めるなアサクラ騎士見習い! こいつは……!」


 まぁ、俺もこの騎士には大量の恨みがあるが、相手が悪すぎるだろ。


「今まで多めに見てやってはいたが、こそ泥風情がこの私に噛み付くとはいい度胸だ。そこの黒髪もまとめて逮捕……いや、一足飛ばしてあの世に送ってやろう……!」


 白銀の聖騎士は懐の剣を抜く。状況は悪化の一途を辿っている。あと、あの世行きリストの頭数に当然のように俺が加えられていた。


「……店主よ。清掃代は騎士団へと請求してくれ給え」


 完全に流血沙汰を辞さない構えか!?


「待ってくれ! 話せば分かる!」


 あれ? 前も俺はこんな事を言っていたような。


「脅しとは汚いぞ貴様……! それに、アタシは知っているのだ、お前……例の大臣殺害犯とも密かに会っていたらしいな!」


 シーラの口からとんでもない発言が飛び出した。


「なっ!?」

「なんだと!?」


 なぜかシンクロする俺と騎士の反応。


「シーラ? その情報はどこから?」

「黒髪探偵団の情報網を舐めてもらっては困るぞアサクラ助手!」


 いつの間に結成したのだ、探偵団? また妙な団体名が増えている。


「探偵王レオンハート様の人徳にかかれば黒髪はダイタイ全員マブダチだ!」

「いつの間に仲良くなったのか知らんが一応スゲェわそのスキル……」


 ちょっと目を離していた間に一体何があった? 悪そうなやつはだいたい友達みたいになってるぞお前。


「さあさあ白状するがいいこの暴力騎士! いや、アタシはお前が騎士だなどと 一秒たりとも認めた事は無かったがな!」


 よし、これはまさかの形勢逆転……、


「……さて、言い残すことはそれで十分か? 刀のサビとなる心の準備はできたようだな……!」


 ……するわけが無かった!


「いやいや! 今の話聞いてただろあんたも! 批判意見は切り捨てる(物理)って横暴すぎない!?」

「そうだぞ! 己の悪行を今ここで白状するがいいこのニセ騎士! ここに居る皆が証人になってくれるだろう!」


 周囲を巻き込もうとする、地味に上手いシーラの煽りに辺りの空気が少し変わる。取り囲む人々がざわつき始めた。


「大臣殺害って、あの事件?」「犯人はまだ捕まってないとか……」「でも、なんで騎士様が……?」


 この状況、オーディエンス味方につけたら、これもしかしてワンチャンあるか?


「どうした? この偽りの騎士よ? まさか今この場にいる全員を切り捨てる訳にはいくまい?」

「そうだなシーラ。この『騎士団による国家転覆行為』の『真相』を『ここでハッキリ』させよう! 『ここにいるみんな』が『証人』だ!」


 俺は話を盛れるだけ盛る。重要部分は特に声に力を込める。

 ……しかし、国家転覆は言い過ぎたかもしれない。


 ざわめく人混みの中、中心で人々の視線が騎士に注がれる。

 抜かれた剣の切っ先が不安げに彷徨った。

 ……イケるか? これ?

 騎士は腹立たしいほどに済んだ青い瞳を俺たちへと向け直すと、言った。


「貴様ら……。

 よくもまぁぬけぬけと……!」


 いや、やっぱ切られる!?

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