第13話 祭りの日は一番の稼ぎ時なんだむぐぅ! 〜レオンハートの買い食いの流儀
たしかに、昨日と比べて羽振りの良さそうな連中の姿が多かった。
「祭り?」
「国王陛下の生誕祭だとさ。アタシらから巻き上げた血税で遊びやがってまったく!」
「……お前には恐ろしいものがないのか?」
不敬発言な上に、絶対お前血税納めてないだろ。
「それにしたって……まぁ、アタシらにとっちゃ良い日なのかもなぁ……」
またコイツはやましさ溢れる視線を道行く人に向け始める……。
シーラは目ぼしい裕福そうな男を見つけると何気なく近寄り、すれ違う瞬間に、その懐から小銭入れをスリ取る。……のだが、少々目測を誤ったのか、それは地面へと落下した。
……こら、露骨に「ヤバイ」って顔をするんじゃない。
「気を付けろ!」と怒鳴りつけるが自分が落としたものには気づいていない男。シーラがしてやったり、と言った顔をした。
「落としましたよ?」
と、俺はそれを拾い上げると男に渡す。
「ばっバカ! 祭りの日は一番の稼ぎ時なんだむぐぅ!」
思わず盗っ人の口を封じる。バカはどっちだ。
「……ご親切にどうも……」
その声色は穏やかったったのだが、どこか嫌悪感が混じっているような……実際こっちはスリなわけだが……何か嫌な感じがした。
「……! 黒髪……! これで足りるか? 少ないが取っておきたまえ……!」
人の顔を見るなり態度はもっと酷いものになった。無理やり小銭を押し付けられる。
感謝の意を表して分け与えるという意味ではないだろう、それは「これで手切れだからな」だ。
それは、こっちが貧しそうに見えるからだし、もちろん俺の黒髪や顔の傷なんかもそうさせているのだろう。
しかし、ひとまず受け取っておくこととする。乞食か俺は。
「お前……!」と突っかかろうとするシーラ。いや、今お前が行くのが一番ダメだから。
「おい、ほら、行くぞ。シーラ・レオンハート三世?」
あまり気にしないように俺はその場を立ち去る。
とくに目的地があるわけではないのだが、シーラのそばを付かず離れず俺は歩く。
「アサクラ騎士見習いは式典に興味があるのか?」
「お前が仕事を始めないか見張ってるんだよ」
被差別階級の黒髪がまたスリの片棒を担がされては、今度は命を取られる事態にもなりかねない。
目の色も問題らしく、さっきから俺と目が合った人間はことごとく視線を逸らすし。
おまけにこの娘は金持ち集団を見かけると見境なく突っ込んで行こうとするんだからどこかで俺が止めないといけない。
「祭りの日ぐらい仕事はやめろよ。甘いものでも食おうぜ。奢ってやるから」
ポフポフとやけに低い位置にある頭を叩く。
「子供扱いをするんじゃない! 部下に奢られてはアタシの立場がぁ……!」
しかし、しっかり物欲しそうな目をしている。基本的にコイツはゲンキンなやつである。
祭りとあってか、日本の夜店とはまた違った趣の屋台が街には並んでいる。
見慣れているようで微妙に違う楽器を鳴らす大道芸人からは聞きなれない調べが流れていた。
「うーむ! よし、こうしよう! アサクラ騎士見習いには知識が不足している! ここはアタシが最もお得な地元グルメを教えてやる! ぼったくり価格で何か売り付けられてはたまったものでは無い!」
さあ付いて来いと言わんばかりだ。
「言ってることが一々セコイなお前……」
それにしても、やけに楽しげだった。一応、祭りを楽しむ気はあるようだ。
「りんご飴かな、これ?」
串に刺さった赤い果実はツヤツヤとした光沢に身を包み艶やかに光っている。
「よし、試しに買ってみるか……」
手に取った矢先シーラに妨害された。
「おお〜っとアサクラくん、あまり大きく育たなかった上、萎びかけているのを誤魔化そうと砂糖で固めただけのソイツに飛びつくとは……『まだまだ』だね! アタシたちが飛びつくべきお菓子はそっちではない!」
また偉そうに……。しかし、コイツ乗ってきたな。いつにも増してテンションが高い。
あと店の人が「お前のようなカンのいいガキは嫌いだ」と言いたげなキツイ目線送ってるからやめてやれ。
「さあ! 五感を研ぎ澄ませたまえよアサクラ騎士見習い! 耳に聞き、鼻で感づき目で追うのだ!」
キョロキョロと辺りを見回すレオンハート三世。芝居掛かったいつものノリが今日は胡散臭さ5割り増しだった。
「今日は当たりの予感がする……! こっちだ!」と、俺の手を取ると走り出す。犯人の匂い追ってる警察犬並みに動きがキビキビしていた。
引っ張られて行き着いた先は人混みがエアスポット的に空いた地味な屋台の前。
「くんくん。……この、わかる奴にだけ分かればいいとでも言わんばかりの繊細なスパイスの匂い、ここだ、ここだよ。
アサクラの持つ小銭だけでは少し足が出る値段設定は消してお得感は無い。しかし、店主よ、これはそれだけでは無いな?」
消してこちらに目線を合わせようとはしないのだが、店主の男の口元が笑みを浮かべたように見えた。
確かにシナモンとかスパイシー系の匂いがする。大鍋が店先に置いてあって、中には熱々の油がいっぱいに入っている。チュロスとかドーナツのようなのような揚げ菓子かな?
「二つ、頂こう」
注文をするシーラに彼はあくまで憮然としている。接客としてはこれ、いかがなものなのだろうか。
スティック状の生地を男は慣れた手つきで油に浸すと、付近には香ばしい香りが立ち上る。菓子は二つセットのようで、揚げ終わったものを計4個に分ける。
揚げ終わった片側にだけ粉末……これがたぶんスパイスだろう……と甘い匂いのするソースをかけた。もう片方には別の味付けをして、それを互い違いにしてラッピングすれば完成。
「シンプルながら生地にナッツを盛り込んでいるな、心憎い。はむっ……ん、しょっぱい……?」
アツアツにかぶりつくシーラ、釣られて俺も口に運んだ。
「え……? めっちゃ甘いんだけど?」
顔を見合す二人。口をつけていなかったもう一本を口に運んでみると、そっちはしょっぱかった。
甘い、しょっぱい、甘い、しょっぱい……。
うん。こちらは甘いしスパイシーだし、一方は香ばしく塩気が効いている……。
交互に齧り続けると、俺たちはある重要な事実に気づいた。
……なんてことだ! ハメられた! ループしている……!
「「これは……、永遠に食べられるっ!!!!??」」
甘い菓子に飽きれば口中が塩気によってリセットされ、もう一方の甘みがより引き立ち、それに飽きれば……。
「「お、おそろしいお菓子だ……」」
そこには見事に店主の術中にかかった二人の自称騎士の姿があった。
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