第46話 お待ちかねの報酬
無事、邪竜マリーツィアを討伐(したことに)した俺達は、レムリスの町へ戻ってきていた。
通りを歩きながら町の風景を見渡すと、ほんの少しの間だけ出掛けていただけだというのに懐かしい気分がする。
それだけこの町が自分にとって馴染み易い町だということだろうか?
故郷でもないのに郷愁にも似た感覚を覚えながらギルドへと向かう。
ついこの間、くぐったことのある扉を通り抜け、中へと入る。
すると、正面の受付にいたエマが早速、俺のことを見つけてくれたようだ。
「あっ、マオさん! 戻られたんですね。よかったー……心配してましたよ」
彼女は俺の姿を見てホッと胸を撫で下ろす。
最初から俺が邪竜討伐に行くことに、あまり賛成ではなかったからな。
「どうでした?」と聞かないあたり、約束通り途中で諦めて帰ってきたと思っているのだろう。
それに彼女は、俺の隣にいるルーシェとは違う少女が気になる様子。
「あの……そちらの方は?」
「ああ、こいつはアルマ。クエストの途中で知り合って、俺達のパーティに加わることになったんだ」
「アルマ・ヴォーヴェライトと申します。よろしくお願い致します」
「あ……こ、こちらこそ、よろしくお願いします」
アルマが丁寧にお辞儀をする。
対するエマは「なんか聞き覚えがあるなー」みたいな顔をしていたが、それ以上は詮索しないようだった。
一応、これでも勇者だからな。それなりに名が通っていてもおかしくない。
しかし、それをわざわざここで説明するのも厄介なことになりそうだから、完全に気付かれるまで放って置くことにした。
それにエマは、そんなことよりも気掛かりなことがあるようだ。
なんだか不機嫌そうに、俺の両隣にいるルーシェとアルマを交互に見遣っている。
「どうかしたか?」
「へっ? あっ……い、いえ、なななんでもありませんっ」
「そうか」
彼女は焦ったように取り繕う。
おかしな奴だ。
「そ、それより、衛兵の方達から報告を受けていますよ」
「衛兵?」
衛兵との関わりといえば、あの物件を根城にしていた盗賊を明け渡した時だ。
そういえばあの時、衛兵から、
「この盗賊達は指名手配犯だから報酬が出る。後でギルドに取りに来るように」
と言われていたことを思い出す。
「なんでも指名手配犯のギード一味を捕らえたそうですね。凄いです! ギルドにもクエスト登録されている案件ですから早速、報酬が出ていますよ。今、お支払いしますから、少々お待ち下さい」
「ああ、そいつは助かる」
言い残すとエマはカウンターの後ろにある部屋に入って行く。
そこに金庫か何かがあるのだろう。
しばらくすると彼女は、人の頭ほどに膨れた麻袋を重そうに抱えて持ってきた。
そいつをカウンターの上に置くと、ドチャッと音がする。
「こちらが報酬の500万Gです。どうぞお納め下さい」
「「おおぉー……」」
俺よりも先にルーシェとアルマが感嘆の声を漏らした。
500万か……案外多いのな。
あいつら、そんなに高い懸賞金だったのかよ。
「いいのか? こんなにもらって」
「決められている正当報酬ですから。それとギード一味の被害に遭った方々は沢山おられますので、それだけ逮捕が待ち望まれていたというのもあります。それに盗賊三人分の報酬ですからね」
「なるほど」
そう考えると結構妥当な線なのか?
にしても、狙ったわけではないのに結構な臨時収入になったな。
こいつはラッキーだ。
家に置く家財購入の足しにしよう。
ん? そういえば、臨時収入で思い出した。
あの傀儡師も懸賞金が掛けられているようなことを言ってたな。
それもここで調べてもらおう。
「そうそう、これも見てもらいたいのだが」
そう言って俺は、傀儡師の髪の毛をエマの前に差し出した。
掴んだ時に抜けたもの。ほんの数本である。
「髪の毛……ですか?」
「この髪の持ち主にも懸賞金が掛けられてるみたいなんでな」
エマは不思議そうにしながらも自分の鑑定鏡を出してきて、髪の毛を覗いてみる。
「ええーと、故人・傀儡師ザシャの髪……ですか。えっ…………ザシャって……まさか、あのザシャですか……!?」
彼女は慌てたようにクエスト台帳を持ち出してきて、内容を照らし合わせる。
そして、あんぐりと口を開けて固まった。
「どうした?」
「い、いえ……た、確かに……。でも、本当に……倒されたんですか? あっ……いえ、疑っているわけじゃないんですよ? ちゃんと証拠がここにありますし……。ただ、傀儡師ザシャはSランク級の指名手配犯ですので……その……驚いてしまったというか……」
「なんか恨んでる奴、多そうだったからな。ぶっ飛ばしておいた」
「……」
エマは気が抜けたように立ち尽くしていた。
だが、思い立ったように我に返ると、またもや後の部屋に行って、さっきと同じ大きさの麻袋を二つ持って帰ってきた。
ドチャッ、ドチャッ
「傀儡師ザシャの討伐報酬、一千万Gです。どうぞ、お受け取り下さい」
「「おおぉぉぉぉぉぉー……」」
またまた俺より先にルーシェとアルマが驚きの声を上げた。
ってか、さっきの倍になったぞ!?
しかし、これは嬉しい誤算だ。
家財を増やせるぞ。
新生活への想像が広がったところで、そろそろ、その家の購入資金である邪竜討伐クエストの報酬の話に移るとしよう。
「じゃあ最後に、邪竜討伐クエストの報酬をもらいたいのだが」
「ん??」
エマは俺が何を言い出したのか受け止め切れず、きょとんとしていた。
それでも遅れて理解したようで、穏やかな笑みを零す。
「またー、そういう冗談はよして下さいよー。私はマオさんが無事に戻られたことだけで安心してるんですから。また討伐に行くだなんて言わないで下さいよね」
なんて言って、全然本気にしていない様子。
仕方が無いな……。
なら、こいつを見せるしかない。
邪竜からもらった角だ。
俺は荷物からそいつを取り出すと、エマの目の前に差し出す。
「ほれ、これが証拠だ」
角を出した瞬間、彼女は人形のように固まった。
「……」
数瞬の間があって――。
「ひっ…………ひえええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?」
エマは掠れたような悲鳴を上げると、腰を抜かして床に引っ繰り返っていた。
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