第18話 クエスト受注
ともかくこれでクエストとやらを受けることができる。
早速、始めようじゃないか。
受けるのは、前に話題に出ていたドラゴン退治だ。
何より報酬額が家の購入資金と同額というのが手っ取り早い。
なので、その旨をエマに伝えた。
「ドラゴン退治ですか……。確かに依頼はありますが……あのクエストはSランク級の冒険者でも厳しいと聞いています。未だに依頼が残っているのもそういった事情がある故の……。だから、マオさんがお強くても、私はお勧めできません……」
どうやら彼女は俺の身を心配してくれているようだ。
小さいクエストでコツコツと金を貯めるという方法もある。
俺もそういう地道な生き方が人間らしくて憧れるとも言った。
実際、そうしたいと思っているが……家だけは、どうしても欲しいのだ。
安住の地。
それを得る為に死んだふりまでした訳だから、まずはそれを手に入れてから、ゆっくりしたいと思っている。
と、そこで側にいたルーシェが、カウンターから身を乗り出し、エマに詰め寄る。
「あなたは何も分かっていませんねえ。マオ様がドラゴンごときにやられる訳がないでしょう。あんなデカいだけのトカゲなんて、偉大なるお力を使わずとも小指一本であの世行きでのわっ!?」
「お前はちょっと黙ってろ」
「ぎゃふっ」
俺はルーシェの首根っこを掴んで後ろへ放り捨てた。
まったく……こいつは口が軽くて敵わない。
尻餅を突いて臀部を擦っている彼女を尻目に、俺はエマに向き直る。
「大丈夫だ。行ってみてマズそうだったら止める」
「……」
すると彼女は、俺が折れそうにないと思ったのか溜息混じりに呟いた。
「……分かりました。今言ったこと、約束ですよ?」
「ああ」
募集中のクエストはギルドの壁一面に貼り出されている。
大繁殖したスライムが村を襲い困っている。
コボルトが納屋に棲み着いたので駆除して欲しい。
という魔物関連の依頼から、
追い剥ぎが出没して安心して道を歩けない。
空き巣に大事なものを盗まれたので取り返して欲しい。
など、人間が引き起こす事件の依頼もある。
冒険者達は、そこから自分に合ったクエストを選び、冒険の旅に出るのだ。
しかし、俺が受けたいドラゴン退治は、そこには貼り出されていない。
なんというか特別枠らしく、奥から出て来た。
実際、貼ってあっても限られた冒険者しか受注することはないと思うので、そんな感じになるのは当然といえばそうだった。
そしてエマが見せてくれた依頼内容はこんなのだった。
クエスト名:邪竜討伐
推奨ランク:Sランク
場所:ツオル山、山頂付近
詳細:邪竜から放たれる邪気の影響により、周辺の魔物の動きが活発化。山中を通り抜けるペタム街道で通行人への被害が出ている。
クエスト達成条件:邪竜マリーツィアの討伐
報酬額:3000万G
「この被害というのは具体的どんな?」
「ツオル山に巣穴を持つゴブリンの群れが邪竜の影響で凶暴化してまして、そのゴブリンに襲われて亡くなった方が多数います。怪我人も含めますと、かなりの数に……」
「ふむ……」
おかしいな。
俺が知るゴブリンは元々臆病な奴らで、邪竜の邪気に当てられたところで萎縮することはあっても、血気盛んになったりすることはないと思うんだが……。
「邪竜そのものによる被害はないのか?」
「排除を試みた冒険者が返り討ちに遭ったとの報告は受けています」
「……」
邪竜は地上を適正化する為に破壊神が遣わした者とされている。
それが山に居座り続けている理由はなんだろうか?
「とにかく、その邪竜がいることで多岐に渡り影響が出ているということか」
「ええ、ツオル山を通り抜けるペタム街道は、このゲニール地方から北の王国へと向かう唯一の道です。ここの治安が不安定ですと、人や物の流通面で大きく影響が出てしまいます。西側を大きく迂回する手もありますが、物流に於いてはコストが高くついてしまいますから、危険を承知でペタム街道を選ぶ商人も多いと聞きます」
報奨金の出所も王国や周辺の町から集められたものらしい。
それは皆が逸早い邪竜の排除を願っている現れだ。
ん……ちょっと待てよ。
今更だが、大事なことに気付いてしまった。
それだけ多くの人間が注目しているということは、そのクエストに係わるだけで目茶苦茶目立ってしまうんじゃないか?
そいつはまずいな。
しかもだ、せっかくFランクにしてもらったのに、それだけのクエストをクリアしてしまったら、いきなり冒険者ランクが上がってしまいかねない。
でも、家はすぐに欲しいし……うーん、悩ましい。
む……そうか。
俺がそのクエストを受けたか、そうでないかなんて、ここでのやり取りの記録でしかない。
ということは、エマに黙っていてもらえば済むことじゃないか?
「話は飛ぶが……このクエスト、匿名で受けることは可能か?」
「はい?」
エマは最初こそ目を丸くしたが、すぐに俺が身分を隠して行動していることを思い出してくれた。
「そうでしたね、そういった事情がありますものね……。分かりました、ちょっと聞いてみます」
彼女はそう言い残すと、カウンターの端で一杯やってる老齢の男の元へと向かう。
その男の正体はギルドマスターのホレス。
ってか、あんた、まだそこにいたのかよ。
エマは彼と小声で話し合っていた。
その短いやり取りを終えると、彼女はすぐに戻ってきて俺に笑顔を見せる。
「OK出ましたー」
相変わらず、軽いな……。
というわけで邪竜討伐クエスト、開始だ。
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