第12話 資格を取ろう
ここは冒険者ギルド裏に併設されている演習場。
とは言っても見た目は何も無い、空き地。
ただの空き地と違う点は、周囲に魔法による防御結界が張られているということくらいだ。
ギルドに登録している冒険者達は、この場所を自由に使えるらしく、クエストの予行練習に使ったり、魔法の試し打ちをしたり、冒険者同士の手合わせなどに利用されているのだとか。
俺とバルドは、この場所でギルドマスター立ち会いの下、対戦をすることになった。
演習場の中央で対峙する俺達。
その周囲を取り巻くように防御結界の外側で冒険者達の人集りができている。
興味本位で集まった奴らばかりだ。
そんな冒険者達の間から会話が漏れ聞こえてくる。
「おい、バルドって……もしかして……あの『ゴーレム殺しのバルド』か!?」
「お前、今頃気付いたのかよ。王都に攻め入ってきた百体のゴーレムを全て一人で叩き殺したっていう、あのバルドだよ」
「マジかよ! じゃあAランク冒険者じゃねえか。そんな奴相手で、あの坊ちゃん大丈夫か?」
「さあな」
その話の内容から、バルドって奴は結構有名人らしいことが分かった。
しかもAランク冒険者らしい。
人は見かけによらないな。
でもゴーレムって、あの泥人形みたいなやつだろ?
吹けば飛んでしまうようなあれを百体倒した所で、そこまで有名人になるものなのか?
あ、もしかしてゴーレムはゴーレムでもゴーレムマスターのことか。
複数のゴーレムを操れるゴーレムマスターが百人。
そうなってくると一人のゴーレムマスターで大体十体くらいのゴーレムを同時に操れるから、単純計算でも千体。
結構な数だ。
それを一人で倒したと言うのなら、Aランクじゃないか? という気はしてくる。
多分、そうだ。
遠くの会話だから聞き間違えだったんだろう。
そんなふうに納得する。
そういえば気になることがある。
さっきから俺とバルドの間に一人の老人が立っているのだ。
白髪の頭髪と髭を蓄えたその老人は、大分痩せこけていて、服の外に出ている部分は骨と皮ばかりが目立つ。
杖を持った手などはプルプルと震えていた。
明らかに、この場に似使わない人物である。
誰なんだろう? この人は……。
「この方ですか?」
そんな思いが伝わったのか、老人の陰から小柄な女性が飛び出した。
さっきまで話していたギルドの受付嬢だ。
「フゴ……フゴ……」
「あっ、ちょっと待って下さい」
老人が声にならない声でフゴフゴ言い出した。
受付嬢はそれに耳を傾け「ふむふむ」と小さく頷いている。
どうやら彼女には理解できるらしい。
「えー……『ワシは、この冒険者ギルド・レムリス支部のギルドマスター、ホレス・エッカートである』と言っております」
「……」
ギルドマスター!? この人が??
全くそんなふうには見えないが、彼らがそう言うのだからそうなのだろう。
支部とはいえ、ギルドを取りまとめるくらいの人物だ。
実はこう見えても昔は一線で活躍する凄腕の冒険者だった!
とか、そういう感じ……には見えないな……。
いや……そういうことにしておこう。
するとホレスと名乗ったギルドマスターが、また何か言い出した。
「フゴフゴ……フゴ……フゴゴ……」
「ふむふむ……『話は受付のエマから聞いている。この勝負、冒険者登録の特例として認めよう。但し、この私が立ち会い人として見届けることが条件だ。戦いのルールだが、武器、魔法の使用は自由。勝敗の判定は先に地面に手を突いた方が負け。それで宜しいか?』だそうです」
「ああ、それでいい。さっさと始めようぜ」
バルドは、「お前もその条件でいいだろ? 早く了承しろ」とでも言いたげな視線を俺に送ってくる。
彼は初対面じゃないんだろうな。ホレスに対して普通の対応だった。
てか、あの受付嬢、エマっていう名前だったんだな。
俺に良くしてくれた人だから、名前を覚えておこう。
それにしても彼女、ほぼホレスの専属通訳って感じだな。
これが祖父と孫の姿にも見えるから微笑ましい。
そんな中、ホレスも俺に返答を求めるような視線を送ってきたので答える。
「了解した」
「『では、両者とも準備は宜しいか?』とのことです」
エマが告げると、バルドは背負っている極太の両手剣を抜く。
が、すぐにそいつを肩に担ぎ直し、呆れたような表情で言ってくる。
「おい、お前、武器は?」
「あ……」
指摘されて思い出す。
そういや俺、丸腰だったんだっけ。
忘れてた。
とは言っても、実際どうするか……。
周囲を見渡せば、勝負の行方を見守っている冒険者達がいる。
彼らに借りることはできないだろうか?
いや、それは無理そうだな。
冒険者にとって武器は大事な仕事道具だろうから、ちゃんとしている奴ほど他人に貸したりはしないだろう。
じゃあ素手でやるか……。
ってことにしたら、バルドのあの気性では「馬鹿にしてんのか!」ってな具合で逆ギレしそうだし、それに素手で勝利してしまっては、さっきみたいに素性を怪しまれる……。
やはり新米冒険者っぽく装い、僅差で勝利するように見せかけなければいけない。
その為には、それなりの武器は必要だ。
何か良い物はないかな。
そんな思いで今一度、辺りを見回すと、演習場の入口付近に立て掛けてある木剣を発見する。
恐らく冒険者の練習用として置いてあるものだろう。
お、あれがいい。
俺はそこへスタスタと歩いて行き、そいつを持ってくる。
「これを使わせてもらう」
「……正気か?」
木剣を見たバルドは、唖然とした表情で言った。
「ルールは先に地面へ手を突いた方が負けだっただろ? だったら切れるか切れないかは、あまり関係無いんじゃないかと思ってな」
するとバルドは頬を引き攣らせる。
「……どこまでも舐めた奴だ。まあいい、後悔するのはお前の方だからな」
今までの彼にしては珍しく、感情を抑え、余裕の笑みを見せる。
その辺はAランクらしいと言えば、らしいのか?
そんなことを考えていると、ホレスが問うてくる。
「フゴ……」
「『改めて聞く、準備は宜しいか?』と言っております」
「おう」
「ああ」
ほぼ同時に答えると、ホレスとエマは距離を取るように後ろに下がった。
そして彼女が手を掲げて叫ぶ。
「フゴ……」
「では、始め!」
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