第9話 冒険者適正



「待った!」



 俺は咄嗟に制止の声を上げた。



 だが、ただ見るだけという行為が、そう簡単に止められるはずもなく、受付嬢が掛けた片眼鏡モノクル型の鑑定鏡には次々と文字が表示されてゆく。



 が、しかし――、




 名前:閲覧不可

 性別:閲覧不可

 種族:閲覧不可

 職業:閲覧不可

(神力による保護の為、全項目閲覧不可)




「え…………何これ……」



 現れた結果に彼女は唖然としていた。



 俺もびっくり。



 その内容は、俺側からでは文字が逆さまになってしまうが、レンズを透過して一応判別できるくらいには見えていた。



 閲覧不可って、どういうことだ?

 表示通りに受け取るなら、神力ってモノのお陰で見えなくなっているらしいが。



 っていうか、神力って知ってるぞ。

 勇者が持つ聖剣に宿るとされている神々の力のことだ。



 ということは、聖剣をこの身に取り込んでしまったことでステータスが保護された状態になっているということか。



 なんでそんな現象が起きているのかは分からないが、こいつは運がいい。



「うーん……これは一体どういうことでしょう。魔道具が壊れるなんてことは、物理的に破壊される以外では有り得ないんですが……」



 受付嬢は、鑑定鏡の表示を見つめながら困惑していた。



「仕方がありませんね……。とりあえず適正値の方を見てみましょう」

「適正値?」



「はい、冒険者適正のことです。この数値が40未満ですと、冒険者としての適正無しと判断され、ギルドに登録することはできません。これは適正が無い人を無闇に危険に晒さない為でもあるんですよ。そしてこの適正値によって初期の冒険者ランクが決まってくるんです」



「で、あるか」

「で……あるか??」



 彼女が困惑した目で俺を見ている。



 なんだろう?

 もしかして、しゃべり方が庶民っぽくなかったとか?

 となると、このままにして置くわけにもいかないか。



 そこから、それとなく言葉を繋げるとなると……えーと……であるか……であるか……であるか………………おっ。



 これで行くか。



「で……であるかなくても、近くのギルドで冒険者になれるなんて、いい世の中になったなあ……」



「……」



 む……これは、ちょっと話が唐突で無理があり過ぎたか?



 なんて思っていると、彼女はふと笑みを浮かべる。



「そうですね。今では、どんなに小さい町でも出張所くらいはありますが、昔は主要都市にしかギルドはなかったそうですから。便利になったものです」



 とりあえず、セーフ!



「ええーと、それでどこまでお話ししましたっけ?」

「ランクがあるって話だが」



「あ、そうでした。そのランクについてですが、40でFランク、50でEランクと、それ以降10ごとにランクアップしてゆき、最終的に100のSランクが最高値となっています。このランクはクエストを受注する際の目安にもなったりします」



「なるほど。そのランクというのは一度決まるとずっと変わらないのか?」



「いいえ、そんな事はありません。ある程度クエストをこなすと、その難易度とギルドの評価によってランクアップすることもできます」

「ほう」



 そういうシステムだということは分かったが、プロフィールが不明な俺をどうやって登録するのか気になる所。



 そんな俺の気持ちを知ってか知らずか、彼女は真剣な面持ちで言ってくる。



「大丈夫ですよ。名前や年齢はともかく、登録に大事なのは適正値の方ですからね。それさえ分かれば、なんとか話を進めることができると思います」



 この人、何者かも分からない俺を冒険者にする為に、親身になって考えてくれている。

 いい人だな。



「では、見ていきますね」



 彼女はそう言うと、鑑定鏡の横に付いているスイッチのようなものを切り替える。



 適正値っていうのも、やっぱりそいつで見るのか。



 一応、注意深く見守っていると、鑑定鏡のレンズに次々と項目が羅列される。



 それは適正値だけでなく、HPやMPだったり、素早さや防御力、知力など、多岐に渡っていた。



 全ての項目が出揃うと、その横に数値が表示され始める。



 あれ、こっちはちゃんと数字が出るんだな。



 そんなことを思いながら、特に適正値に注目していると――、



「あ、数値出ましたね。えっと……40……50……まだ上がりますね……。60……100…………300!? えっ、あああれ!? そ、そんな……表示限界は100までしかないはずなのに……って、ああっもう500!? ……800……900…………999!?」



 有り得ない数値に彼女が瞠目していると、事は起きた。




 ボンッ




「きゃっ!?」



 小さな爆発音と共に、鑑定鏡が粉々に砕け散ったのだ。



「なっ……なななな……何が起きたんですかっ??」



 その衝撃と驚きで彼女は床に尻餅を突き、目を白黒させていた。



「おい、大丈夫か?」



 俺はすぐさまカウンターを飛び越え、彼女の様子を窺う。

 見た所、特に怪我はなさそうだが……。



「あ、はい……私はなんとも……」



 俺が手を差し伸べると、彼女は照れ臭そうにその手を取り、立ち上がる。



「ですが……鑑定鏡が爆発するだなんて……驚きました。どこか不具合があったのでしょうか……。あ、でも、心配なさらないで下さい。すぐに予備の鑑定鏡を用意しますから」



「いや、止めといた方がいい」

「へ?」



 それは魔王とか見ちゃダメなやつなんだと思う。

 多分、また爆発するぞ。



 そう言いたいが、言えないもどかしさ。



 彼女は合点がいかない様子で立ち尽くしていた。


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