第10話 爆発騒ぎ



 受付嬢が割れた鑑定鏡を片付けようとしている時だった。



「おいおい、こいつは何の騒ぎだ?」



 分け入ってきたその声の主は、ついさっき俺に絡んできたバルドとかいう冒険者だ。



 まあ、あれだけの爆発音を上げておいて気付かない奴はこのフロアにいないと思うので、そうなるのも必然だった。



 そこで受付嬢が彼に事情を説明すると――。



「ははっ、ギルドも鑑定鏡の粗悪品を掴まされるようになっちゃあお仕舞いだな。もしくはあれか? そいつの適正値が余りに低すぎて誤動作を起こしたとか?」



 バルドは蔑むような目で俺を見てくる。



「なんなら俺の鑑定鏡で見てやってもいいぜ? 表示できるほどの適正値があればの話だが」



 そこで彼は、ベルトポーチから片眼鏡モノクル型の鑑定鏡を取り出し始めた。



 いやいや、俺まだ何も返事してないんだけど?

 ていうか、止めといた方がいいって。

 結果はなんとなく分かるし。



「冒険者ってのは、柔な人間には務まらねえ仕事だ。これで現実を知って田舎に帰った方が身の為だと思うぞ」



 言いながらバルドは鑑定鏡を掛ける。

 直後――。




 ボンッ




「どわぁっ!?」



 ほら、言わんこっちゃない。



 バルドは爆発に驚いて近くにあった椅子を倒してしまったが、尻餅までは突かなかった。

 そこは一応、冒険者ってことか。



 しかし、騒ぎはそれでは収まらなかった。



 彼の鑑定鏡が爆発したことで、他の冒険者にも興味の火を付けてしまったらしく、そこかしこで爆発の音が上がり始めたのだ。




「なんだよ、面白そうじゃねえか。俺も見てみ……どわぁっ!?」



「おいマジかよ。そんな事ってあるのか……どっはっ!?」



「どれどれ、俺も……ぶほぉあっ!!」



「これだから男共は……うひゃっ!?」




「……」



 俺はそんな光景を呆れた様子で見ていた。



 冒険者ってのは好奇心旺盛な奴ばっかみたいだな……。

 つーか、二人目ぐらいで学習しても良さそうなもんだが……。



 だがここで、事態に変化が訪れる。



 俺を見たことで悉く爆発する鑑定鏡。

 ということは、これはもう鑑定鏡の不具合とかそういった問題ではなく、俺自体に原因があるのだと、周囲の皆が薄々勘付き始めたのだ。



 冒険者達のざわつく声が聞こえてくる。




「おい……見たか? 適正値の上限を振り切ってたぜ」



「ああ……すぐに爆発しちまって確認できたのは一瞬だったが、適正値900オーバーだったぞ……」



「ってことは……まさかとは思うが……」



「うむ……俺も今、それが頭に浮かんだ……」



「やはりアイツは……伝説の…………SSSランクじゃないか!?」




 SSSランク。そんな単語が聞こえてくる。

 なんだそれは?

 受付嬢が説明してくれたランクの中にはそんなのなかったぞ。

 つーか、その前に間のSSランクはどこ行った?



 名称から察するに、Sランクの更に上の上を行く位だってのは推測できる。

 しかも伝説の――なんていう言葉が頭に付いている時点で普通じゃないことは容易に想像が可能だ。



 そりゃ魔王のステータスだしな。

 普通じゃない結果が出てもおかしくはない。



 しかし、そんなものに俺が認知され始めていることは、今後どういった影響が出てくるだろうか?

 確かめておいた方がいいだろうな。



「おい、SSSランクとは、一体どういったものなんだ?」

「へっ……?」



 尋ねると受付嬢は我に返る。

 どうやら周囲の爆発騒ぎに呆然となっていたらしい。



「は、はいっ……SSSランクというのは通常の冒険者ランクには存在しない特別なランクでして……。なんでも、世界が厄災に見舞われる時に現れると言われている最強の救世主らしいのです。またの名を――――勇者とも」



「勇者……」



「もしかして、あなたは……その……」



 受付嬢は心なしか頬を紅潮させ、憧れるような視線を俺に向けてくる。



 おいおい、変な冗談は止めてくれ。

 俺が勇者だって? そんな訳ないだろ。

 正真正銘の魔王だぞ。



 もしそんなことになったら色々おかしな事になる。

 勇者の敵って言ったら魔王だからな。

 魔王が魔王を倒すのか?



 いや、魔王は俺だから、俺が俺を倒すのか。



 訳が分からないことになるな……。



 それとも厄災と言われているものが魔王ではなく、別にあるのか?



 何はともあれ、俺が勇者でないことは分かり切っている。

 このまま変な勘違いがエスカレートしてしまうと、憧れていた平穏な生活が遠退いてしまう可能性がある。



 それだけは避けねば。

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