第33話 ゴブリンパーティ
俺達はいつの間にか無数のゴブリン達に取り囲まれていた。
その数、三十一体。
奴らは皆、飢えた野犬のように口元から涎を垂らし、金色の目で睨みを利かせながら俺達に襲い掛かろうとしている。
到底、話の通じる相手でないのは、すぐに見て取れた。
ギルドのエマから、邪竜から放たれる邪気の影響でゴブリンが凶暴化し、街道を行く人間を襲う事案が多発していると聞いていたが、恐らくこいつらがそうなのだろう。
しかし、妙だ。
本来、ゴブリンというものは、ずる賢くはあるものの、基本的には臆病で警戒心の強い魔物だ。
邪竜の邪気に当てられたからといって、怯えて巣穴に引き籠もることはあっても、攻撃性が強くなるとは考え難い。
精神を乗っ取り、操るような魔術にかけられているのなら別だが、ドラゴンともあろう者がそんなセコい真似をするだろうか?
ともあれ、今は目の前のことを対処せねばならない。
そう思って剣の柄に手を掛けた時だった。
「マオ様、ここは私にお任せ下さい!」
そう言ってルーシェが前に進み出た。
「大丈夫なのか?」
「はい! マオ様の配下としての役割、今こそ果たす時です」
彼女は自信たっぷりに返事をすると、両手を胸の前に持ってくる。
「見てて下さい、私の闇魔法」
直後、彼女の前に巨大な黒炎が燃え上がる。
メラメラと紫色の火花を散らしながら揺らめく姿は実におどろおどろしく、かなりの威圧感がある。
おお、なかなか様になってるじゃないか。
良い感じにダークエルフっぽいぞ。
だが、その見た目とは裏腹に、嫌な予感しかしないんだが……。
「
なんだか自己陶酔のど真ん中みたいな技名を叫びながら、彼女はその黒炎を放った。
巨大な炎の塊がゴブリン達の群れを包み込む。
が、それはすぐに煙のように霧散して消えてしまった。
分かってはいたが、見た目に振り切りすぎだろ……。
魔法としての実際の効果は、一番先頭にいたゴブリンの頬にある産毛を一本焦がしただけだった。
「ふははは、我が魔の力、思い知ったか」
とか言いながら、その足は小刻みに震えている。
「ビビってんじゃねえか」
「ビ……ビビってないですよ? よ……?」
「……」
全然、説得力が無い。
まあ、最初から期待してなかったから別にいいんだけど。
で、アルマはというと、俺の側で恐怖に打ち震えているだけだった。
無理も無い。
彼女のステータスでは、ゴブリンに引っ掻かれただけでも重傷になりそうだからな。
仕方が無い。
俺がやるしかないか。
しかし、今度は盗賊を相手にした時のことを思い出して、力の調整に気を付けないとな。
ちょっと加減を間違うと周囲の山肌を削ってしまいかねない。
それを意識しながら剣を抜く。
そして、そのまま薙いだ。
直後、周囲のゴブリン達は刈られた雑草のように根こそぎ倒れた。
それで万事解決。
と、思ったのだが……。
「ん……」
なんだ、この感じ……。
斬った時の感触がおかしい。
確かに肉ではあるが、生命力を感じないというか、人形を斬ったような感覚だ。
違和感を覚えたその時だった。
ガサガサッ
草木が擦れる音がした。
揺れる草葉の方を見ると、ゴブリンではない人影が林の奥へと消えて行くのを捉えた。
あれが違和感の正体か。
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