第3話 魔王死す?


「倒した……だと?」



 勇者は優勢な立場でありながらも、やや動揺していた。



「そうだ。二つの心臓の位置を見抜き、よもや一度に突き刺すとは……」



「……」



「敵ながら見事だ……」



「えっ…………あっ……そ、そうさ!」



 勇者は戸惑いつつも誇らしげに言い放った。



 おいおい、普通に自分の手柄にしやがったぞ……。

 まあ、そうなるように仕組んだのは俺なんだから別にいいけどさ。



 それにしたって、ちょっとは謙虚さがあってもいいんじゃないか?

 曲がりなりにも勇者な訳だし。



 ま、いいや。



 そろそろ仕上げと行くか。



「ぐぉぉぉっ……聖剣から放たれる力が我を滅しようとしているのかぁぁ……」

「!」



 俺は大袈裟に叫んでみせる。



 それを見た勇者は、ここで剣を抜いては、滅する効果が消え去ってしまうと思ったのか、そのままの状態でいた。



 そこで俺は、〝死んだふり〟を完璧なものにする為に、最後の演出を発動させる。




 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……。




 突如、地響きがして、魔王城全体が揺れ始める。



「なっ……なんだ!?」



 異変を感じ取った勇者は、探るように周囲を見回す。

 そして、最終的には俺に目を向け、問うた。



「貴様、何をした!」

「くっくっくっ……」



 俺は企みに満ちた笑みを浮かべる。



「我はただでは死なん、お前も道連れにしてくれよう」

「な、なんだと!?」



 勇者は血の気が引いたような表情を見せた。



 やはり倒された魔王は、勇者を道連れにしようとするのがそれっぽい演出だろう。

 それには魔王城の崩壊が一番分かり易いし、世間的にも城が無くなった方が、



『ああ、魔王って死んだのね』



 ってのが見た目で伝わり説得力が増す。



 しかし、本当に崩壊させたりはしない。



 魔力を使って魔王城全体を地下へ潜らせ、隠そうとしているのだ。

 その際の振動が、崩壊っぽく感じられるだけのこと。



 実際に壊したりしたら勿体ないし、この後、俺の居場所に困るからな。

 今は、あくまで勇者に命の危険を感じさせ、この場から避難することを促す為にやっている。



 なので、ここからの演技がとても重要。

 俺は試すような口調で勇者に投げ掛ける。



「果たして、ここから生きて脱出できるかな? 我はお前の最後を見届けることはできないが、精々最後まで足掻くがいい。はっはっはっはっ」


「くっ……」



 俺は〝もう死ぬ感〟を出す為に床に膝を突き、嘲笑い続ける。

 それを見た勇者は顔に苛立ちと焦りを滲ませ、そのまま踵を返して玉座の間を走って出て行く。



 聖剣は俺の胸に刺さったままだ。



 あ、これは置いて行くのね?

 ま、いいけど。



 玉座の間から勇者の後ろ姿が見えなくなり、完全に気配が感じられなくなったのを確認すると――。



「はっはっはっはっはっ……はっ…………はー……あーあ」



 溜息を吐いて、笑うのを止めた。



 しばらくして――。



 さて……と、勇者も無事脱出したようだ。

 城も地下に格納完了。



 あとは魔王の存在が風化して完全に忘れ去られるまで寝るだけだ。

 時間にしたら、そうだな……三百年位でいけそうか?

 睡魔スリープの魔法を自分にかければ、それくらいなんてことはないだろう。



 よし、そうと決まれば自室に戻って寝る準備だ。

 ふかふかのベッドが俺を待っている。



 とりあえず歯磨きをして、パジャマに着替える。



 そしてシーツを整えたら――



 仰向けでベッドにダイビング!



「ふぅ……」



 思わず安堵の吐息が漏れる。



「おっと、忘れずに目覚ましをセットしないとな」



 空中に魔法時計を呼び出すと、その針を三百年後にセットして閉じる。



「これでよし……っと」



 全ての準備を終えたところで、胸元辺りの視界に違和感を覚える。

 見ればそこには、聖剣が突き刺さったままになっていた。



 あ、抜くの忘れてた……。



 刺さってる感覚が無いから、完全に意識から外れてた。

 つーか俺、この状態でどうやってパジャマに着替えたんだ?


 気付かない自分が怖い!



 ともかく、こいつは寝るのに邪魔だから抜いておこう。



 そう思って柄に手をかけようとしたのだが……そこで急に眠気が襲ってくる。

 しかも、物凄い眠気だ。



 ……なんだこれ? まだ睡魔スリープの魔法はかけてないぞ?



 おかしいとは思いつつも、抜く作業より、眠さと面倒臭さの方が勝ってしまった。



 ま、いっか……。

 このまま寝てしまおう……。



 抗うことを諦めたら、急激に眠気が強くなる。



 自然と瞼が下り――、



 意識が闇に包まれた。

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