第26話 闇芝居




「いやあ、かなりの悪霊が住み着いていますね。これは掃除のやり甲斐がある」



 俺とルーシェは家の中を見回しながら廊下を進む。



 そのまま居間のような所へ通された所で、男達の様子が豹変した。



 部屋で待ち構えていた小太りの男、グンター。

 そして後ろから付いてきていたギードとゲッツ。



 三人は懐から短剣ダガーを取り出すと、俺達を取り囲むような形で包囲したのだ。



「さて、洗いざらいしゃべってもらおうか」



 ギードが短剣ダガーの刃をちらつかせながら言う。

 その顔には先程までの微笑の仮面は無い。



「おや、これは一体?」



 俺は肩を竦めて見せた。



 こうなることは織り込み済みだ。

 ようは中に入れれば、それで第一段階は達成なのだから。



「どこで俺達の情報を仕入れた」

「はて、何の事でしょう?」



 仕入れるも何も偶然遭遇したにすぎないし、敢えてこちらが情報を得たように見せかけているだけだからな。

 答えなんてありゃしない。



「まだ惚けるのか? まあいい、何者かはこいつで見れば分かることだ」



 言うと彼らは、それぞれポケットから何かを取り出し、顔へ持って行く。

 右目に嵌まった丸いレンズは、見覚えのあるものだった。



 鑑定鏡か。

 しかもその片眼鏡モノクル型は冒険者に配られる物。



 ということは……こいつら元冒険者?

 落ちぶれて盗賊になったって感じだろうか。



 ってか、これは予想外だったぞ。

 せっかく謎の清掃人のままで穏便に解決しようと思っていたのに、ちょっとプランを練り直さなきゃいけなくなっちまったじゃないか。



 その間に、彼らは鑑定鏡を操作する。



 表示されたステータス。

 その結果に盗賊達は鼻で笑った。



「ははっ、そっちのエルフの小娘はEランクで、兄ちゃんは――Fランクかよ」



「ケッ、雑魚じゃねえか」



「弱ぇー、ダセぇー」



 三人は侮蔑の視線を送ってくる。



 好き勝手言いやがって。

 俺からしたらお前らの方がダサいんだけどな。



「しかも掃除屋だのピコポンだの適当なこと言ってたが、ここには職業、剣士だって出てるぜ? で、そっちのエルフは、職業ダークエルフ……ってなんだそりゃ?」



 当然だが突っ込まれた。

 しかし、残念な子と判断されたのか、ギードはそれ以上、そのことには触れてこなかった。



「一応、適正値に達しているってことは、お前ら冒険者か?」



「……」

「……」



「なるほど」



 彼は無回答を肯定と捉えたようだ。



 と、そこへ小太りのグンターが、少し焦ったようにギードへ問いかける。



「ってことはアニキ……俺達ギルドに手配されちまってるんじゃ」

「可能性は高いな」



 どうやら彼らは自分達に懸賞金が掛けられていて、俺達はそれ目当てにやってきた冒険者だと思い始めているようだ。



「次の山はお預けか。早々に引き上げた方がよさそうだ」



 ゲッツが言う。



「ああ、だがその前に――」



 ギードが俺達を見据えながら呟く。



「こいつらを始末しておかないとな」



 彼がニヤついた顔を浮かべると、残りの二人にもその表情が伝染する。



 さて、機が熟したようだ。

 こっちもそろそろ動いた方がよさそうだな。



 俺は室内を再確認する。



 救出すべき少女は、火の入っていない暖炉の陰で怯えたように壁へ身を寄せていた。



 ターゲット捕捉。

 ミッション遂行には問題無い距離だ。



 あとは隣にいるルーシェに例の燭光トーチを作り出してもらい、その闇に乗じて救出&脱出するだけだ。



「ルーシェ、いつでもいいぞ」



 告げた直後、彼女はぼんやりとしていたが、すぐに理解したようで、



「はっ、はい」



 緊張気味に返事をした。

 そして、胸の前に手を伸ばす。、



「行きます!」



 途端、室内は闇に包まれた。


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