第30話 勇者遭遇
反射的に飛び退かなかった俺を褒めて欲しい。
というか、最初は冗談かと思った。
こんな真面目そうな女の子でも、ギャグの一つでも言うんだなあくらいにしか思わなかったのだ。
一応、念の為に彼女を鑑定鏡で覗いてみると――。
名前:アルマ・ヴォーヴェライト
性別:女
種族:人間
職業:勇者
冒険者適正:SSSランク(適正値0)
マジもんの勇者だった!!
「ほ、本当に勇者なのか……? そうは見えないが……」
「ですね……良く言われます。ハイ」
アルマという名の勇者は、綺麗な金髪を指先に絡めて照れ臭そうにしている。
「しかもSSSランクなのに適正値0というのは一体……?」
「ああ、それですか。それは能力値の方を見て頂くと分かるかと思います。ハイ」
能力値?
そこに説得力のある何かがあるというのか?
ともかく実際に鑑定鏡のスイッチを切り替えてみた。
すると、そこに表示されたのは――、
HP:0
MP:0
攻撃力:0
防御力:0
知力:0
器用さ:0
素早さ:0
精神力:0
特殊スキル:無し
オールゼロだった!
ってか、攻撃力とか防御力とか、そういう能力値はまだしも、HPが0って死んでんじゃないか!?
ゆ、幽霊じゃないよな?
悪霊退治の真似事してたら本物出て来たってオチは嫌だぞ?
側で同じように自分の鑑定鏡で彼女を覗いていたルーシェは、青い顔で震えていた。
俺と同じような想像をしたらしい。
案外、ビビりだよな。こいつは。
しかしながら一応、尋ねてみる。
「ちゃんと生きてるよな?」
「ええ、辛うじてですが」
アルマはてへっと笑う。
笑ってる場合じゃないと思うんだが……。
HPについては表示ができないだけで、1には満たないが0以上であるとかそういうことか? そうじゃないと完全に死人だものな。
それでも襲われれば簡単に死んでしまいそうなことは確かだ。
「適正が0な理由は分かったが、それでSSSランクなのはどうしてだ?」
「それはですね、神託を受け勇者に選ばれた時点でSSSランクなんです。ですが、私は生まれつきそんな素質も無く……というか普通以下で……。自分でもどうして選ばれたのか分からないんです。ハイ」
「なら、勇者を返上すればいいんじゃないか?」
「できないんですよ」
アルマの眼差しが下を向く。
「勇者に選ばれたら、絶対に勇者でなくてはならない。それが例え才能が無くとも……です」
大変だな……。
にしても、適正が無いのもほどがあるだろう。
だが、改めて思うところもある。
過去に俺を討伐にやってきた勇者の中にも、アルマほどではないにしろ、色々考えるところあって勇者をやってたのかなあと。
「それで邪竜の討伐に?」
「ええ、私があまりに不甲斐ないので邪竜を倒して箔を付けてこいとの命を受けまして……」
その任務の途中で盗賊に襲われ捕まった。
そこを俺達が助けた。
なるほど。
しかし俺達は本来、相反する存在。
例えるなら水と油、氷と炭、犬と猿、光と闇、白と黒。
魔王と勇者ってのは、そういう関係だ。
不本意ながら出会ってしまったが、街道の横でこんなふうに立ち話をしてていいもんでもない。
そのことも気になるのだが……今は一先ず置いといてだ……。
何よりも胸元にむず痒さを感じて仕方が無い。
言うしかないだろうな……。
「あー……こちらとしてはまた指摘するのもなんなんだが……気になるのでな……」
それとなく、やんわりと告げる。
アルマがまた俺の胸を触ってきていたのだ。
それに気付いた彼女は、
「あっ……す、すすすすみません!」
慌てて手を離し、顔を赤くして団子のように縮こまってしまった。
相変わらず無意識にやってしまうようだが、どういうことだろうか?
そうすると落ち着くとか言ってたが……。
だからと言ってなんで俺の胸が……って……ん?
もしかして……。
俺は改めて自分の胸の中を意識する。
そこには微弱だが、十字の形をした光の力を感じる。
そうか……そういえば、ここには聖剣が取り込まれているんだった。
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