第31話 共闘する?



 全く失念していたが、俺の体の中にある聖剣は言わずもがな勇者の持ち物だ。



 アルマがそれに反応するのも当然と言える。



 だがそうだとしても、こうも度々触られては気が気でない。



「その癖……みたいなのは、なんとかならないのか?」



「気を付けてはいるつもりなんですが……なんというか、いつの間にかそうなっちゃてるんです……ハイ。それに……」



 彼女は何かを言いかけて止めた。



「それに、なんだ?」

「えっと、それはその……ちょっと言い難いことなんですが……」



 アルマはモジモジと体をくねらせる。



「構わない、言ってみろ」

「そうですか……じゃあ」



 彼女は一旦気持ちを整えた上で口を開く。



「マオさんの体に触れていると力が湧いてくるというか……力をもらえるというか……。何にもできなかったこんな私でも、もしかしたら邪竜を倒せるんじゃないか? ってくらいに思えてきてしまうんです。気のせいかもしれないですけど」



 気のせいじゃないと思うぞ。

 寧ろ、それが当然だと思う。



 勇者が聖剣という専用武器を装備すれば、そりゃあ強くもなる。

 本来こいつはアルマが持つべき物だということだ。



 しかし、逆に考えれば彼女は聖剣が無いから弱いのか?



 そういう理由が無かったとしても弱すぎだが、全く関係無いとも言い切れない。



「ちょっと待って下さい」



 いきなりルーシェが分け入ってきた。

 頬を膨らませプンプンしている。



「邪竜はマオ様の獲物なんですからね。なんだかんだと取り入って、報酬を横取りしようなんて考えても無駄ですよ」

「おい、こらっ……」



 ルーシェの奴、余計なことを口走ってくれた。

 わざわざ言わないでいたのに……。



 案の定、アルマが瞠目していた。



「マオさん達って……邪竜討伐に行くんですか?」



 こうなってくると認めざるを得ない。



「ああ……まあな」



 アルマは再度、目を見張った。



 もう彼女がなんと言ってくるかは大体分かる。



「あ、あの……大変厚かましいお願いなのですが……その邪竜討伐に私も連れて行ってもらえないでしょうか?」



「……」



 ほら、予想通り。



「自分でも図々しいお願いだとは分かっています。足手まといになるだけかもしれません。でも邪竜を倒したという実績だけは持ち帰らないといけないんです。もちろん報酬はいりません。ダメでしょうか?」



「答える以前に、それで邪竜を倒したと言えるのかどうかってのが気になるところだが?」



 するとルーシェが、付け加えるように言う。



「そーです、そーです、横にいるだけで何もせず自分の手柄にする。なんてふてぶてしいんでしょう」



「そうならないように努力します」



 アルマが真剣な眼差しで言うので、俺は問い返してみる。



「どうやって?」



「さっきマオさんの胸に触れた時、私にもできるって思えたんです。だから、その時になったら、その……また胸をお借りしたいんです。ハイ」



 胸を借りる……って言っても、そのまんまの意味だがな。



「一つ聞くが、勇者は聖剣を持っているはずだが、それは?」


「えっと……私、持ってないんです」



 となると、彼女がステータス0で生まれてきた理由には、手元に聖剣が無かったからという可能性が高い。



 本来、勇者が死ぬと聖剣も消失し、次世代へと受け継がれる。

 新たな勇者は手に収まるような小さな聖剣を握って生まれてくるのだ。

 そして体の成長と共に聖剣も成長する。



 それが神託を受けた勇者の証なのだ。



 俺が体に取り込んでしまったせいで、それを持たずに生まれてきたわけだから、想像通りのことが起きてそうだ。



 というわけで、彼女がそうなってしまったのには、俺にも責任が無いとは言い切れない。



 だとしたら……無下にはできないか。



「マオ様、今の聞きました?」



 ルーシェが俺に身を寄せ、なんだか楽しそうに言ってくる。



「勇者なのに聖剣を持ってないんですって。笑っちゃいますよね? それで邪竜を倒そうだなんて冗談にもほどが――」



「いいだろう。同行を許可する」



「えええええええぇぇー!?」



 ルーシェの叫び声が近くの山に木霊した。


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