第47話 竜角の価値



 エマの右目にある鑑定鏡には以下のステータスが表示されていた。




 品名:邪竜マリーツィアの角

 種別:SSRアクセサリー

 材質:高純度魔法骨質鉱(SSSランク品)

 重量:2.6キルグラン

 装備効果:永続MP値上昇

 価値:判定不能




 おっ、こいつ一応アクセサリー扱いなのか。

 さすが神獣は違うな。

 しかし、それにしてはデカいし、重いし、加工しないと持ち歩けないぞ……。



 まあ、それはともかくとして、これは邪竜を倒したという証拠だからギルドに預けないとな。



「そういう訳だから、これを……」



 俺が角を差し出すと、床にへたり込んでいたエマは、なぜだか怯えたような顔で首を横に振る。



「まっ、待って下さい。とっ、とりあえず、そ……それをしまって下さい……!」

「ん? どうしてだ?」



「それから……とても強力な魔素が溢れ出ていて……近付けただけで……その……腰が抜けてしまったんです……」


「え……」



 そんなことってあるのか?

 確かに、この角には邪竜マリーツィアの魔力の根源たるものが詰まっているが、腰を抜かすほどだなんて……思ってもみなかった。



 じゃあ、ルーシェやアルマは側にいるのに、どうしてそうならないんだ?

 と思ったが、良く考えたらこいつら……精霊王の候補と勇者だし、それなりに耐性があるのかもしれない。



 仕方が無いので俺は一旦、角を荷物の中へしまう。

 するとエマはホッと息を吐いて、ようやく立ち上がった。



「まさか……本当に邪竜を倒されるとは思いませんでした。やはり……マオさんは最初に冒険者適正をお調べした時に感じたような、凄い御方のようですね」



 そこで俺は彼女の耳元へ顔を寄せ、小声で伝える。



「そのことだが、以前言ったように内密に願いたい。今回の邪竜を倒したという事実も俺だとは分からないように処理して欲しい」



 言うだけ言って離れると、エマの頬はほんのりとピンク色に染まっていた。



「は、はいっ、もちろんそのように! ギルドマスターにもそう報告しておきます」



「で、それはそれでいいとして、この角はどうする?」

「それは、マオさんが持っていて頂けますか」

「俺が?」



「私共が預かっても、あまりに強大な魔力すぎて管理仕切れないというか……マオさんのもとにあった方が一番安全な気がしますので……。あとでギルドマスターにも確認を取って参りますが、恐らく同意見かと」



 そりゃそうか。

 ここに置いといたら、みんなエマみたいに引っ繰り返ってしまうだろうし、ギルド職員は毎日気が気でないだろう。



「分かった。では、これは俺が預かっておく。で、報酬の方だが……」



「あ、そうでした。では手続きして参りますね」



 彼女はそう言い残して、またまたカウンターの後ろの部屋へ消えて行った。

 これで三度目である。



 すると間も無くして、俺達の前に麻袋が置かれる。



 ドチャッ、ドチャッ、ドチャッ、ドチャッ、ドチャッ、ドチャッ



 五百万Gの入った袋が六つ。

 計三千万Gだ。



「「……」」



 これには、さすがにルーシェとアルマも声が出ないようだった。



「こちらで全てです」

「確かに」



 これで今回のクエストで手に入れた報酬の合計は四千五百万G。

 一気に充実してきたな。



 その内、三千万Gは家の購入費として、この場で支払った。

 ギルドが家主との仲介をしてくれるのだ。

 尚、手数料込み。



 これであの丘の上の家は俺のものになった。

 あとは残りの金で、家の中のものを揃えよう。



「じゃあ、また何かあったら宜しく」

「あ、はい。お気を付けて」



 エマに別れを告げてギルドを出る。



 ルーシェとアルマの二人は、そんな俺の後をトコトコと付いてくる。



「マオ様、どこへ行かれるんです?」

「家財を揃えたいと思うのだが、色々回るのは大変だから一度で済むような店があったらいいんだが……」



 机や椅子など家具から、調理器具や農機具まで、全部を取り揃えている何でも屋みたいな店……。

 って、思うけど、そんな都合の良い店があるわけ………………あるじゃねえか!



 人の良い、おっさんの顔が浮かぶ。

 骨董屋、ジモンの店だ。



 あそこなら、全部一遍に揃いそうだ。



「決まった、ジモンの店に向かう」

「あ、マオ様に剣を譲ってくれた方ですね」



「そうだ。理解したのなら行くぞ」

「はいっ」

「あ、待って下さーい」



 俺とルーシェが歩き出すと、遅れたアルマが慌てて追ってくる。



「皆さん、歩くの速いで……ぶべっ!?」

「ん?」



 変な悲鳴がしたので振り返ると、アルマが地面にうつ伏せに倒れていた。

 どうやら小石に蹴躓いたっぽい。



「おいおい、大丈夫か?」



 おっちょこちょいだなあ。

 なんて思いながら近付くと、ただ転んだにしては様子がおかしい。

 気を失って、体が痙攣しているのだ。



「む……」



 異変に気付いた俺は、すかさず鑑定鏡を取り出して彼女を覗いてみた。




 HP:0

 MP:0

 攻撃力:0

 防御力:0(魔法耐性+00)

 知力:0

 器用さ:0

 素早さ:0

 精神力:0

 特殊スキル:魔力転成Lv100(聖刻の耳飾り、装備効果)




 防御力がゼロに戻ってる!?



 邪竜の灼熱の吐息ファイアブレスを浴びたことで魔力転化が作用し、防御力が上昇してたはずだが……。

 今は物理防御ゼロなので、転んだだけで死にかけてる。



 脆弱すぎるっ!



 とか言ってる場合じゃなかった。

 とにかく今は、アルマの体をなんとかしなくては。



「ルーシェ、回復ヒールだ」


「は、はいっ」


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