第20話 恐喝



 街路を真っ直ぐに歩くと、すぐに武器屋が見えてきた。

 冒険者ギルドからは然程離れていない距離。

 まさに冒険者御用達と言わんばかりの立地だ。



 中に入ると早速、壁際にずらりと並んでいる剣に目が行く。



 オーソドックスなロングソードから、重量級のグレートソード、魔法が付与されている少々値が張りそうなマジックソードまで色々取り揃えている。



 それらを物色していると、奥から店主と思しき男が出てくる。



「剣をお探しですか?」



 荒くれ者の多い冒険者相手の店にしては丁寧な物言いで、身形も小綺麗な感じだ。



「ああ、そうだ。この店で一番安い剣はどれだ?」



 そう尋ねると店主は一瞬、変な顔をしつつも一振りの剣を持ってきてくれた。



「こちらが当店で最安値の剣です」



 彼が持ってきてくれたのは、飾り気の無い極普通のショートソード。

 ドラゴンの硬い鱗に斬り付けたら簡単に折れそうな気がするが、見た目だけなので俺にはこれで充分だ。



「いくらだ?」

「丁度、一万Gになります」

「そうか」



 価格は尋ねたが、金は持っていない。

 冒険者で稼ごうとしているくらいだ、無いのは分かってる。

 では、どうする気なのか?



 一応のあてが無いわけではない。



 そこで俺はルーシェに向き直り、一言告げる。



「金を出せ」

「!」



 彼女は瞠目するも、何故だかその瞳は輝いていた。



「もしかしてカツアゲですか!? 悪の極みですね! その言葉に痺れる、憧れるぅぅっ! いっ、今、出しますから、お待ち下さい!」

「……」



 ルーシェは、そそくさと自分の荷物を探り始める。

 こんなに嬉しそうに金を出す奴も珍しい。



 彼女だって、ここまで旅をしてきたわけだから、いくらかの金を持っているはず。

 食費や宿代だってかかるのだし。

 だから、さすがに一番安い剣を買うだけの金は持っているだろうと踏んだのだ。



 ともかく、側に置いておいた意味がここで発揮されるわけだ。



「はい、どうぞ! マオ様」



 そう言って彼女は俺に手の平を差し向けてくる。

 その上には、くすんだ色の銅貨が二枚載っていた。



 この時代の貨幣価値をなんとなく理解し始めたばかりの俺でもすぐ分かる。

 それが剣を買うには程遠い額の小銭であると。



「まさかとは思うが……これが有り金全部か?」

「そうですよ、これで私は無一文! 明日からどうやって生きて行くか、それを考えるだけでゾクゾクしますねっ!」



 彼女は金を奪われたのにも係わらず、武者震いを起こしていた。

 どんだけマゾなんだよ……。



 というか、そんなんで今までどうやって暮らしてきたんだ?

 謎すぎる……。



 とにかく、こいつに期待したのが間違いだった。



 ああ、このポケットの中には勇者が落としていった時価一億Gの耳飾りがあるのにも係わらず、目の前にある安物の剣が買えないとは……。



 ふと、そこで俺は、この耳飾りを鑑定してもらった骨董屋のことを思い出す。

 このレムリスの町にやってきて最初に入った、あの骨董屋だ。



 そういや、あの山と積まれたガラクタの中に、ボロボロの剣もあったな……。

 あんな錆びたり刃こぼれしている剣を買う奴なんて、そうそういない。

 あれなら銅貨二枚でも譲ってもらえるかもしれない。



 行ってみるか。



 思い立った俺は、店主に断りの意志を伝える。



「すまない、一番安い剣っていうのを見てみたかっただけなんだ」

「そ、そうですか……」



 彼はやや困惑した様子だったが、手にしている剣を仕舞いに戻って行った。

 すると、ルーシェが不思議そうな表情で言ってくる。



「あれ? もしかして買うつもりだったんですか?」

「それ以外に何がある」



「え、私はてっきり店内の剣をごっそり強奪するのかと思ってましたよ」

「するか!」



 叫ぶと、奥にいた店主がこちらを訝しげに見ている。



「えー……しないんですか? マオ様らしいと思うんですけどねえ」

「勝手な〝俺らしさ〟をお前の中で作り上げるな」



 魔王なら物を盗んで当たり前とか思ってんじゃないだろうな。



 とにかく、ここにこうしていても仕方が無い。

 不満そうにしている彼女に告げる。



「行くぞ」

「っえ!? ど、どこにですか!?」



 慌てて付いてくる彼女を背後に感じながら、俺は骨董屋に向かった。


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