第2話 魔王は演技派
俺は早速、死んだふりをすることにした。
勇者に聖剣で貫かれ、死んだことにするのだ。
しかし、魔王が不老不死であることは人間達も知っている。
だからこそ封印という手段を取っている訳で……。
なので、ここは俺の演技力が試される時だ。
実は魔王には誰も知らない弱点(嘘)があったことにして、そこを突かれると永久に消滅してしまうのだということを、それとなく勇者に伝える。
すると奴は当然その弱点を狙ってくるだろう。
俺はその攻撃にわざと当たり、消滅したふりをするのだ。
もちろん、そんな攻撃、受けたところで全然効かない。
でも勇者は、この世から葬り去ることが不可能とされていた魔王を完全に消し去った訳だから、喜び勇んで帰るだろう。
そして民衆に伝えるのだ。
もう、魔王はこの世に存在しないと。
そんな噂が世界全体に広がり、そして魔王がいたことすら忘れ去られるくらいの時が流れた頃を見計らって、俺は目を覚ます。
その頃には魔王なんて誰も知らないだろうから、俺が普通に外に出て行っても気付かれることはないだろう。
それまで長い長い眠りに就くのだ。
そうすることで俺は、生まれ変わったに等しい新しい人生を手に入れることができる。
完璧な計画だ。
ならば実行に移そう。
俺は目の前の勇者に向かって、大袈裟に見得を切って見せた。
そして、いつもの決まり文句を言う。
「ふははは、勇者よ! 我を封じようとは愚かなり」
「愚かかどうかは私が決めることだ。大人しく封印されよ! 魔王!」
「そんなことをしても我は何度でも蘇るぞ」
「ならば何度でも封じるまでだ」
「まさに愚かな行いだな。我の弱点を突けば二度と蘇らないというのに」
「えっ……」
「……え?」
「……」
「……」
場に変な空気が流れた。
ま、まずい……ストレートに言い過ぎたか?
不自然にならないように言うのは難しいな……。
「ああー……それはあれだ、弱点を晒してもお前ごときに我は倒せぬと言いたかったのだ」
「なんだと。その余裕、あとで後悔することになるぞ」
勇者は鋭い目付きで睨み付けてくる。
どうやら、まだ不審には思っていないようだ。
今のが大丈夫なら、ここで大きく出ても平気だろう。
「はっはっはっ、ならばやってみるがいい。この胸にある二つの心臓、それを突かなければ我は滅びぬぞ」
「ふっ、自らそれを口にするとは、随分と舐められたものだな」
勇者の奴……今、してやったり、みたいな顔をしたが、こっちはわざと教えてやってるんだからな?
ついでに言うと、俺に心臓は二つも無いし、そもそも弱点も無い。
ただ、それっぽい演出ができればそれでいいのだ。
「さあ、かかってくるがいい」
「言われなくても、そうするさ!」
勇者は剣を構え、突っ込んできた。
しかし、目の前で身を翻し、方向転換する。
フェイントをかけたつもりだろうが、俺にはバレバレ。
しかも羽虫が飛ぶような遅さだ。
でも、当たってやるには丁度良いタイミング。
俺は反応が遅れたように見せかけて、聖剣をこの胸で受けた。
ドスッ
鈍い音がして、切っ先がズブズブっと肉体に吸い込まれて行くのを感じる。
だけどまあ、全然痛くも痒くもないんだけど。
さて、これでお膳立てはOK。
じゃあ、ここらで断末魔の叫びでも上げておこうか。
俺は、すぅーっと息を吸い込む。
そして――、
「うごぉぉぉわぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
「!?」
剣を持ったまま勇者がビクッと体を震わせる。
え? そんなに効いてるの? みたいな顔をしている。
俺は苦悶の表情を作りながら、そんな彼に告げる。
「ま、まさか……我が敗れようとは……」
「えっ……」
勇者は思わぬ展開に呆然とするのだった。
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