第43話 良い火加減
眼前で地面から炎の柱が上がる。
アルマの体が、邪竜の放った
「アルマっ!!」
ルーシェが悲痛の叫びを上げる。
が――、
「はーい」
炎の中から、なんとも緊張感の無い声が上がる。
見ればアルマが、燃えさかる炎をまるでうざったい蜘蛛の巣でも払うかのように出てきたのだ。
「「!?」」
「あっつつ……あっついですね、これ」
「「……」」
呑気にそんなこと言っている彼女に俺とルーシェは唖然とする。
「ア、アルマ……大丈夫なんですか??」
「ん? 何がです?」
驚くルーシェとは裏腹に、当の本人はあまり自覚が無いようだった。
焚き火の熱風でも浴びたくらいの感じでいる。
服も装備も全く焦げた様子もなく、元のままだ。
あの
実際、地面の岩が溶解しているのだから、見た目ほど威力が無いってことはない。
ということは――。
思い立って、俺は鑑定鏡をかけてアルマを覗いてみる。
すると、
HP:0
MP:0
攻撃力:0
防御力:77(魔法耐性+00)
知力:0
器用さ:0
素早さ:0
精神力:0
特殊スキル:魔力転成Lv100(聖刻の耳飾り、装備効果)
むちゃくちゃ防御力だけ上がってる!?
どういうことだ……?
考えられるのは聖刻の耳飾りの装備効果である魔力転成くらいだ。
魔力転成っていうのもしかして、自身の身に受けた魔力を別の力に変換するっていう意味か。
言わば魔力の塊に等しい。
ということは、そいつを身に受けたアルマは、その魔力をそのまま防御力に転成させたってことか?
それに聖刻の耳飾りのもう一つの装備効果である魔法耐性アップ。
それは、ずっとゼロが一つ増えただけだと思っていたが、実は違うんじゃないかと思う。
本当は桁が大きすぎて表示できないんじゃないだろうか。
例えば+100、または+200とか、それ以上。
それなら魔力転成直後の初撃に耐えられた理由も分かる。
ともかく、あの耳飾りを彼女に渡しておいて良かった。
そんな訳で、アルマが無事だったことに唖然としてしまった俺とルーシェだったが、それ以上に驚いている者がいた。
邪竜マリーツィアである。
奴は目の前でピンピンしているアルマを見詰めたまま、ぼんやりとしている。
それは、自分の吐き出した
そう思うのも、
奴は「しまった!」と言った。
それは普通に考えれば、状況的に予想外だったという意味だ。
アルマに攻撃が当たることが予想外。
当てるつもりはなかった。
そう考えると、やたらと弾速の遅い
わざと誰でも避けられるくらいの速度で放っていたのだ。
しかしながら、アルマのステータスの低さは邪竜には予測仕切れなかった。
何しろ、素早さゼロだからな。
普通の人間が避けられそうな攻撃も彼女には避けられない可能性が大いにある。
だから故の「しまった!」なのだ。
となると、邪竜に対しての対応も変わってくるな。
俺は未だ呆然としている邪竜に話しかけた。
「おい、お前。本当は邪竜じゃないな?」
「な……ななな何を言っている!? 私は邪竜マリーツィア、そこに偽りは無い」
あからさまに動揺してんじゃねえか。
「別にお前がマリーツィアを語った別のドラゴンだとは言ってない。ただ、邪竜という肩書きに見合った邪悪さは無いんじゃないかと言ってるんだ」
「そ、そそそそんな事があるわけがない。わ……私は最強最悪の邪竜。数多の生き物を阿鼻叫喚の地獄に堕とす者なりっ!」
邪竜は翼を大きく広げ威嚇のポーズを取ってみるが、今となっては然程威圧感を感じない。
「じゃあなんだ、さっきアルマに
「む……あ、あれは……そ、その……しまった……死待った……あ、そ、そうだ! お前はもう、死待ったなし! っていう意味で言ったのだ。うむ」
うむ……って、無理があり過ぎる言い訳だな!
「さあ、そういうことだから、かかってくるがい」
どういうことだよ!
奴は一方的に戦う気満々だが……ん? なんだかこの感じ、覚えがあるぞ。
邪竜は大袈裟に爪を地面に突き立て威圧する。
「はっはっはっ、怖じ気づいたか! 貴様達に私は倒せない! 何故なら、破壊神から授かった不死の心臓をこの身に二つ持っているからだ! それを同時に突かない限り、私は倒せはせぬぞ! ふはははははは……」
「えっ……」
「……え?」
「……」
「……」
変な間と空気が漂った。
む……このわざとらしい感じ……。
これも覚えがあるぞ。
あっ、分かった。
これって、俺が勇者と対峙してた時と同じだ。
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