第28話 さじ加減
俺は剣を腰に差すと、盗賊達がアジトにしている家の前に戻った。
少女を救出するという目的は果たしたが、このまま人を殺めるような悪党を野放しにさせておくわけにもいかない。
やはり捕縛する必要はあると思う。
なので当初の予定通り、事を遂行することにした。
奴らは室内の闇が晴れて目が慣れれば、俺達がいないことに気付き、外へ出てくるだろう。
そこを待ち構えていた俺が背後から近付き、一撃で気絶させて終了だ。
魔王としての力を相手に見せずに処理するには、その方法がいい。
家の壁に張り付き、扉の真横で待機する。
すると早速、中から声が聞こえてた。
「くっそ、なんだ今のは……っと、あいつらどこ行った?」
「あーっ! 捕まえてたあの女もいないじゃないか!」
「外だ、外っ! 追えっ!」
ドタドタと足音が近付いてくる。
予定通りだ。
直後、玄関から盗賊達が飛び出した。
俺はすかさず、風が吹き抜けるような素早さで背後に近付き、手刀を食らわせる。
ドサッ
ドサッ
連撃が決まり、地面に気絶したゲッツとグンターが倒れ込む。
これで良しっと……あれ? 一人足りないぞ?
そう思った直後、家の裏手の方から人影が現れる。
それはまさに残りの一人、ギードだ。
まさか奴だけ裏口から出てくるとはな……。
そこは盗賊達のリーダーだけあって、用心深いというか、危険を察知する能力が高いということか。
ギードは気絶している仲間達と俺とを見比べて渋い顔をする。
「今の立ち回り……お前、本当にFランクか?」
ちっ、見られちまったか。
「それについては、お前が今掛けている鑑定鏡で立証済みじゃないのか?」
冒険者カードに細工してもらったことで、鑑定鏡での結果にもちゃんと反映されているようなので、そこは強気に出られる。
「ということは、特殊なスキル持ちってところか」
ギードは訝しげな表情を浮かべながらも、自身の鑑定鏡に手をやる。
ステータス表示を能力値に切り替える為だ。
「あっ、それは……」
すぐに気付いて声に出すも……。
ボンッ
「どぅあっ!?」
鑑定鏡が火花を上げて砕け散った。
これって鑑定鏡で見られる度に毎回こうなるんだろうな……。
今後のことを想像して、やや遠い目になる。
その最中、ギードはというと、
「な……なんだ? どうして爆発した??」
意味が分からず呆然としていた。
当たり障りの無い嘘でも吐いとくか。
「最近、鑑定鏡の不良品が出回ってるらしいぞ」
「そ、そうなのか……」
彼は俺の言ったことに一旦同調するも、すぐに気を取り直す。
「っと、そんな話をしている場合じゃない。どんな特殊スキルを持っていようが、所詮はFランク。Cランクである俺の敵ではない。お前にはここで死んでもらう」
ギードは
穏やかじゃないなあ……。
しかし、どうやってやり合うか?
前にAランクのバルドと戦った時にやり過ぎてしまった例があるから、気を付けないとな。
「剣を抜かないのか? それとも、もう死ぬ覚悟ができたということか?」
ギードはクククッと余裕のある笑みを見せる。
おっと、言われてから気付いた。
この場面で剣を抜かないのは不自然だよな。
ここは格上に果敢に挑むFランク冒険者を演じるより他は無い。
そう思い立って、気合いを入れて剣を抜き放った。
途端、
ヒュンッ
突風が吹き抜けたかと思うと、ギードが持っていた
それだけじゃない。彼の脳天の髪の毛もカミソリで剃ったように何も無くなっていたのだ。
どうやら剣を抜いた際に巻き起こった風が、刃のようになって鋭く切り裂いたらしい。
何気ない動作にも気を配らなければならんのか……。
カランッ
折れた
「ひっ……」
それ以上は声も出ず、足を震わせその場にへたり込んでしまった。
圧倒的な力を見せつけられて萎縮してしまっている。
完全に戦意喪失状態だ。
あー……また、やっちまった。
だが、考えようによってはこの状況、使えなくも無い。
あの怯えっぷりだからな。
彼が放心状態でいるのをいいことにササッとロープで縛り上げてしまう。
そこで気絶している仲間達も同様に。
三人まとめて括り上げたところで、ようやくギードが口を利けるくらいになったようで、恐る恐る尋ねてくる。
「あ……あんたは……一体……」
「知ってるだろ。ただのFランク冒険者だ」
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