第38話 聖刻の耳飾り
指輪ではないにしろ、男が女に宝飾品の類いをプレゼントする。
それが人間の間で何を意味するかは魔王の俺でもなんとなく理解しているつもりだった。
俺はモジモジと言い難そうにしているアルマに伝える。
「その耳飾りは、それなりに能力の高い装備品だ。これからもこういった危険な場面に遭遇するかもしれないからな。防御力の底上げに使ってくれ」
すると彼女は、自分が何を勘違いしているのか気付いたようで……。
「あ……そ、そういうことですか……あは、あはは……そ、そうですよね……」
照れ隠しの笑みを浮かべながら、それを左耳に付ける。
そして、何を思ったのか、こう聞いてきた。
「どうです?」
その表情は少し悪戯っぽく見えた。
どう……って言われても……こういう場合、どう答えりゃいいんだ?
普通に考えれば「似合ってるぞ」だろうか?
でも、それは着飾る為の
しかしながら、何か言わないといけない衝動に駆られる。
「い……いいんじゃないか?」
咄嗟に出たのはそんな答えだった。
それでも彼女は、とても嬉しそうな顔をして、
「ありがとうございます!」
と、大事そうに耳飾りを撫でた。
さて、この聖刻の耳飾り、実際にはどれくらいの装備効果があるのだろうか。
気になったので、こっそり鑑定鏡でアルマを覗いてみた。
HP:0
MP:0
攻撃力:0
防御力:0(魔法耐性+00)
知力:0
器用さ:0
素早さ:0
精神力:0
特殊スキル:魔力転成Lv100(聖刻の耳飾り、装備効果)
変わってねえぇっ!
一応、魔法耐性が付いたみたいだが、+00ってなんだよ!
0一つ増えただけで結局ゼロじゃねえか!
魔力転化ってのが特殊スキルに追加されてるが、実際どういった能力なのかは分からない。
Lv100だから、能力によっては高い効果を発揮しそうだが、今のところはなんとも……。
とりあえず何も無いより、なんか付いたということだけで良しとしよう。
「アルマだけ……アルマだけ……アルマだけ……」
「む……」
なんだか地の底からしてくるような低い声が俺の背後からする。
見ればルーシェが恨めしそうに、こちらを見ていた。
「……」
なんか私にもくれサインだな、あれは……。
仕方が無い。
俺は自分のポケットをまさぐり、掴んだそいつを彼女に手渡す。
「ほれ、お前にはこれだ」
彼女の手の平の載ったもの。
それは二枚の銅貨だった。
ただの銅貨じゃない。
そいつは以前、剣を買おうとした時、彼女からカツアゲしたものだ。
だから、正確には彼女に返したにすぎない。
だが――、
「わーい、わーい、ありがとうございますぅ! マオ様からもらった初めてのプレゼントです! 大切にしますっ!」
大喜びだった!
俺からもらったものなら何でもいいらしい。
「あとでケースに入れて、いつも持ち歩けるようにしようっと」
「……」
ちょっと不憫に思えてきたが、本人が喜んでるならそれでいっか……。
水を差さないでおこう。
「さて、予定外の場所で時間を取り過ぎてしまった。日が暮れてしまう前に行ける所まで行くぞ」
「はい」
「了解しました!」
元気良く返事をした彼女達を連れ、俺は洞窟を出た。
その際、死者を弔う。
あのままにしておいても動物や魔獣に荒らされるだけだからな。
横穴と洞窟の入り口を魔力で破壊して塞ぎ、それを墓地とした。
「そういえば、マオさんて剣士なのに魔法も使えるんですね」
「えっ……ま、まあな」
どうやら俺の魔王としての魔力は、アルマにとって魔法に見えるらしい。
「魔法剣士ってところですか」
「そうだな……」
そういうことにしておく。
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