先生は、かわいくない 番外編
先生には、ナイショ① (晴紀視点)
緊張すると目つきが悪くなる。
真剣に考え込んでいる時も目つきが悪くなる。
島の幼馴染みは晴紀のことをそういう。
それを『センセ』が来た初日に、年下の幼馴染みに見抜かれていた。
『ハル兄、美湖先生のこと睨んでいたでしょう。なんかちょっと前から緊張していたもんね』
診療所のナースをすることになった愛美にそう言われ、晴紀が内心ドキリとしたのは内緒だった。
実はその通り。横浜の大学病院から綺麗な女医先生が来る、しかも年上、見るからに大人の女。そんな彼女が来ることをどれだけ身構えていたことか。
晴紀の緊張は最大マックス、その針が振り切れていた。なのに、その先生があのチャラそうな吾妻先生の腕の中にいたのだから仰天するしかないし、もう『どうしてだよ、結局、チャラい先生の後輩だった女医はそんなもんなのかよ』という絶望や、吾妻ドクターに対する不信感も最大マックス、緊張して堅くなっていた目つきに、さらに力が入ってしまったというわけだった。
それをまた、目があった『センセ』が負けずに睨み返してきたのにも驚かされる。しかもその後、堪らなかった晴紀の口悪さに、ずばっと正論でやり返してきた。
うわ、気が強そう。
これは気をつけないと、俺ひとたまりもない。
クールな顔で淡々と言い返されてしまい、大人の女に対抗しようとしたのが、晴紀の口の悪さ最大マックス。ちゃらけんな――なんて初対面の女医先生に言ってしまった。
最悪の初対面。
さらに身構え、気構える日々が始まる。
『晴紀、診療所に来た先生、どうだったの』
母も非常に心配そうだった。
『別に。都会から来たってカンジの女だったよ』
『まあ、そうなの? あの吾妻先生から紹介されたのだからお人柄も良いと思うわよ』
『そんなの会ったばかりだから知らねえよ』
刺々しい言い方になっていたから、すぐに母に気がつかれる。
『あら。晴紀、怒っているの。相良先生となにかあったの……』
『ねえよ。愛美がいるから女同士上手くやるだろ。愛美に任せてるから』
そう? と案ずる母をなんとかかわした初日の思い出。
蜜柑の花の匂いがそこらじゅうに香る季節だった。
彼女が晴紀のことを初めて呼んでくれたのが『ハル君』。
『○○君』なんて、いかにも男の子みたいな呼ばれ方をしてショックだったのも覚えている。
やっぱ俺って、先生から見たら男の子なのかよ、そうなのかよ? 内心混乱していたことなど彼女は知らない。
季節は巡り、蜜柑が実る頃。
吾妻先生の結婚式が行われた。
海が見える式場で、二次会は道後温泉。道後らしい和カフェを貸し切っての賑やかなパーティーになっていた。
晴紀も美湖と参加。美湖が早苗と話している間、晴紀は横浜の心臓外科のドクター達と思いがけず会話が弾んだ。大人のドクターに囲まれて、仕事の話。いつしかの自分を取り返せたように思えるこの頃。
そんな時、美湖が頬を染めてふらっと歩いて来た。
「ハル君、なんか酔っちゃったよ」
紺のシックなワンピーススーツのせいか、いつもより白く見える頬がより紅く見える。
「センセ、大丈夫かよ。待って、冷たい氷水、探してくるな」
『え、いいよ』とちょっと気恥ずかしそうに目線を逸らされた。きっと横浜のドクター達の手前、いつものように甘えてくれないのだと晴紀は悟った。
「いいから」
晴紀がすぐに動くと、美湖はすぐに横浜の心臓外科ドクターに囲まれてしまった。
相良先生も結婚するんだって。
彼、エヒメオーナーの甥っ子なんだろ。
根ほり葉ほり聞かれているのが晴紀にもわかった。急いで氷水をカウンターで頼んでいると、スーツに着替えた吾妻がさっと晴紀の横についた。
「あれもう駄目だ。ハル君、連れて帰ってくれよ」
吾妻が肩越しに振り返ると目線は美湖へ。
「あいつそんな強くないから。久しぶりの面々に出会ってちょっとピッチが早かったからな」
「わかりました。最後まで参加できなくて……」
「いいよ。ハル君と相良に祝ってもらえて、俺も早苗もめちゃくちゃ嬉しかったから。二人の婚約もな。今日はありがとう」
晴紀が真実を胸に美湖と共に島に帰ってきてすぐ、母への報告を済ませ、その次に挨拶に出向いたのは美湖を今治まで行かせてくれた吾妻と早苗のところだった。
二人一緒に過去を噛み砕いたことも、それを胸にこれから一緒に生きていくことを報告すると、いつもは余裕の吾妻が号泣したので晴紀も面食らった。
しかも美湖まで泣いている。その時初めて思った。そっか、この二人兄妹みたいに似ているんだと。それから吾妻のことはセンセの兄貴だと思うことにした。
そして彼も今日は笑顔に輝いている。ようやっと手に入れた家庭なんだと美湖から聞かされていて、きっとそんな心境の幸せの笑みなのだと晴紀も微笑ましく眺めていた。
「帰るよ、センセ」
「え、でも……、まだ一時間あるよ」
「吾妻先生がそうしろって言ってくれたんだよ」
美湖が氷水を晴紀から受け取り、また横浜の同僚たちと和気藹々としているのを見つめている。
氷水をごくごくとおいしそうに飲み干すと、彼女も頷いた。
「うん、帰る」
兄貴ならきっとそう言ってくれる。そう通じているようだった。
そんなドクターとしての意思疎通を感じると、晴紀はちょっと羨ましくなる。
・・・◇・◇・◇・・・
美湖と一緒に二人、道後温泉本館から駅へと向かう商店街の道筋を歩いている。今から路面電車で電鉄駅まで、電鉄で港まで行き高速船で島まで帰る。
「すごかったな。吾妻先生の同僚ドクター達の盛り上げ方、賑やかだった。俺、医者ってもっとお堅いのかと思ってた」
「えっと、日頃、抑えているものが地方で出ちゃってるだけだと思う。教授も帰ったしね、吾妻先生の三回目の結婚式だもの。そりゃ、言いたいこと言っておきたいこと羨ましいこといっぱいあるでしょ」
私もあるわ――と美湖が呟いて、晴紀もなんとなくわかると笑った。
「早苗姉ちゃんが結婚できて、俺も安心した」
「私が来た時、すんごい怒っていたもんね。ハル君」
「それ、もう言うなよ。だから、吾妻先生が警戒していたイメージ通りに後輩だっていう美湖さんにちょっかい出していたからだって」
それももうなんか懐かしいなと晴紀は笑ってしまう、それは美湖先生も同じようでくすっと笑ってくれている。
「でも、美湖先生があの時、初対面の俺と愛美に言ったとおりの吾妻先生だった。ちゃんと姉ちゃんも息子のこともきちんとしてくれた」
「私も安心した。もうあの吾妻先生のデレデレした顔。心臓外科のドクター達がからかいたくもなるって。久しぶりにお話しした先輩ドクターが『あいつ、顔つき変わった』と言っていたもの」
そんな美湖先生の顔が、かわいく微笑む。彼女はそうしてふっと表情が急に緩む時がある。いつもツンとしている顔がほわっと優しくなる時のそのかわいらしさをきっと知らないんだと晴紀は思っている。
そしてそれを知れる男もきっと少ないはず。何故なら、このセンセがこの顔をなかなか見せないから。晴紀はその顔が見られる特別な男になれたのだろうかと誇らしくなれる瞬間でもあった。
でも晴紀は観光客で賑わう商店街の道筋を遠く見つめる。
今日も色々あった。晴紀が知らない美湖を、横浜の人々が運んできた。
彼女が留学を望んでいたことも知らなかったし、彼女が島に来るまでどのような医師だったかも――。
「俺も美湖さんも、出会うまでの世界ってものがあったんだよな。俺……、今日、初めて知って……」
どうして美湖が晴紀という重い過去を持った男の中にすんなり入ってきたのかを、今日初めて知った気がした。
それを婚約した後の今になって知ることになり、晴紀は悔しく思いくちびるを噛んでしまう。なのに美湖が『どうしたの』とまた彼女らしい強い瞳で覗き込んできた。
「広瀬教授と話している時……。呼吸器外科で担当していた男の子を亡くした経験が美湖さんにあったんだって。その後、先生、『ど正論』で周りにぶつかったって」
「あー、もうそこらへんから聞こえちゃっていたんだ……」
「先生、空が喘息の発作を起こして急患で来た時、俺がさ『ありがとうは先生に言え』と伝えた時、すげえ怒ったじゃん」
「ああ、うん……あったね、」
彼女も思い出したくない経験なのか、晴紀の肩の下へとうつむいて顔が見えなくなる。
「わかったようなこと言わないで――と美湖サンが怒ったの、いまならわかるよ。子供にあって当たり前のことが『なかったから』ありがとうに結びつけて感謝はされたくないし、亡くなった子を看取ったことがある先生には診療所ができたことは『ただの始まり』で『まったく解決したわけではない』からありがとうなど言われても、まったく感謝される謂われもないことだったんだよな」
「あの時はごめん。ちょっと、弱いところ触れられちゃったというか。空君は亡くなった男の子よりずっと小さいものだから、ありがとうを言われると辛い。全然、ありがとうじゃないんだよね、私にとっては」
「それを。俺が、素人の俺がわかったふうな顔で、小さな空に言わせようとした――。そういうことだったんだって。俺こそ、ごめん。美湖先生」
もういいじゃないと美湖が微笑む。
俺はいいじゃない――じゃない。彼女も自分と同じような気の強さで周りにぶつかったことがあって、命を失ったこともある。だから、だからセンセは俺が閉ざしていた心の、本当は誰かにわかって欲しいという隙間を見つけて入ってきてしまった? それとも俺が入れてしまった?
そう思い返すと、この半年、美湖センセと本当に真っ正面向きあってぶつかり合って、そして理解しあってきたんだなあと感慨深い。
二人一緒に引き出物を片手に、道後温泉駅から路面電車に乗り、市駅がある電鉄の駅まで。乗り換えて夕暮れの城下町をゆっくりと港がある駅まで。
城山が見える街並みが流れていく車窓を、彼女と並んで座ってじっと眺めている。
晴紀は新調した黒いスーツ姿で、彼女もフォーマルな紺のワンピーススーツ。引き出物を持っていかにも結婚式の帰り道の姿で港へ向かう。
ゆっくりのんびりオレンジ色のローカル線、白い天守閣が晴れた夕暮れに映えているのを見つめながら、ぴったりと肩を寄せ合っている美湖の瞳がこちら晴紀へと向いている。
「どうしたの、センセ」
「いいよね。のんびりした城下町。ここで子供、育てていくのかな」
晴紀は驚いて、隣にいる美湖を見た。美湖サンとの子供、いつ――という気持ちを何度か口にしてしまったことがある。でも彼女は医師という仕事をしているからとあまり言わないようにも心がけていたのに。
「その気になってくれたのかよ、センセ」
「うん。アメリカで産んじゃおうかな」
「え! いや、俺、欲しいけど、急がないし!」
「え、自分は若いから? 私はタイムリミットあるんだけれどー。留学から帰ってきて島で出産となると何年後よ」
「そうじゃなくて。先生、今からシアトルでいろいろ勉強するんだろ」
「だから、シアトルで落ち着いたらそれもありかなって。ね、私とハル君の子供、アメリカ生まれになるんだよ。どう、どう!」
どうって、いきなりそんなこと言われても困ると晴紀が本気で困ってしまう。この先生、唐突にものを言う時があって、晴紀はいつもびっくりさせられる。でも、少し考えて……、晴紀も思う。
「うん、いいかもな。アメリカ生まれで島育ちの子供も」
「晴紀パパみたいに、船も乗れるし、外国にも行けるし、漁もできるし、島のことを受け継ぐ、なんでも愛せる子にしたいね。ただ、私とハル君の子だから。負けん気は注意しようか」
負けん気は注意に晴紀は噴き出した。
「なんか息子が産まれる前提みたいなこと言ってる」
「女の子だったら、清子さんみたいな朗らかで優しい子に育てたい。私みたいなのは絶対ダメ、わかるよね、ハル君」
「そうだな。そこ、注意しておかないとな。俺も先生も、気が強くて」
「そう、生意気で」
『口が悪い』
二人一緒にそう言って、笑い出す。
でも、晴紀は思っている。先生のような凛とした女の子でもいいんじゃないか。きっとこれからの時代を生きていける女性になれるのではないかと、密かに思っている。
そんな想いも、いまはナイショだ。
うっかり言葉にすると、センセの強い口が思わぬ言葉で言い返してくるから。
さっきもなんだよ。いままで子供のことちょっと晴紀が気にして言葉にしても、なんとも思っていないような顔で聞き流しておいて、人の目がいっぱいある電車の中でいきなり『ここで子育てもいいね』なんて女らしい顔で言ってくれたと思ったら『アメリカ生まれにしちゃおう』とか唐突に言う。晴紀の予測の超斜め上を突き破っていく先生の大胆さに晴紀はいつも振りまわされている気がしていた。
そんなふうに心が大騒ぎにしているのも、顔や態度に出すと『男の子』だと思われそうで、晴紀は常に先生以上に冷静であろうと、あろうと……頑張っているつもりだった。
そんな彼女の頬の赤さも引いてきて、港の駅を降りて高速船乗り場へ向かった。
夕暮れの高速船に乗っていると、一緒に並んで座っていた彼女がこっくりと眠そうにしている。
そのうちに晴紀の肩に頬を預けて眠ってしまった。晴紀も船室に入るために脱いだコートを彼女の身体にかけてあげる。
気持ちよさそうに居眠りをする先生がぎゅっと晴紀の腕に抱きついて、ぐったりと身体を預けてうとうとしている顔。つんとしていない顔で眠っている美湖の優しい顔を、晴紀はじっと見つめてしまう。
彼女の匂い、柔らかさ、温かさ。それが伝わってきて……。いつもは強気で負けん気の先生だけれど、本当は華奢で頼りなげないんだよな――と、彼女のそばにいて思う。そんな彼女が晴紀の腕にしがみつくように眠っているだけで、たまらなく愛おしかった。
吾妻先生が今日はやっぱり羨ましい。好きで好きで堪らない女を妻にして、今日から一緒に生きてくのだから。
晴紀も美湖先生と早くそうなりたい。婚約したけれど、はやく大人の男に、夫に、父親になりたい。
・・・◇・◇・◇・・・
島の診療所に帰宅する。まずは向かいにある実家へと出向いて、母のご機嫌伺い。
「あら、思ったより早かったのね」
久しぶりに島の外に出て大勢の人に囲まれた母だったが、思いの外元気だった。むしろとても嬉しそうで、とても楽しい時間を過ごせたんだと晴紀も安心した。
「お母さん、もう披露宴のお料理でおなかいっぱいなの。今夜は遅い時間に軽く食べるから、晴紀と美湖さんは好きにしてくれる?」
「わかった。俺たちも二次会でいろいろ食べたから、今日の夕飯は適当にする」
「美湖先生はどう? あんないきなり留学のお話が来たり、久しぶりに横浜のドクターに囲まれたりして気疲れしていないかしら」
「うん、ちょっと飲み過ぎたみたいでいま休んでる。吾妻先生が連れて帰ってくれというから途中だったけれど帰ってきたんだ」
「あらまあ、そうだったの。まあ、美湖先生も気が張っていて飲まずにいられなかったのかもしれないわね……。ちゃんと見てあげてね、晴紀」
『わかってる』と晴紀も微笑む。しかし、母の言葉を聞いて『そうか。先生もいろいろあって飲んでしまっていたのかも』と初めて気がついた。
こういうところ、まだ俺は若輩なのかなと情けなくなることもある。
大人の先生の、年上の先生の、晴紀よりずっと積み重ねてきた経験は、彼女の年齢にならないと晴紀にはわからないのかもしれないと思うこともよくある。
だから。いま俺ができることで支えられることがあるなら、充分にそうしてあげたいと思っている。
こんなふうに母と笑顔の毎日を迎えられたのも、母が一緒にシアトルへ行くとケロッと言えるようになったのも、着たこともないドレスに挑戦したり、怖じ気づいていたスマホを欲しいと言い出したのも、外へと目線が向いたのもすべてあの先生のおかげだから。
美人で綺麗な顔をしているくせに気取らなくて、ボサッとしてることがあって、ちっとも女らしくなくて。彼女からどんどん隙間をつくって、晴紀も清子もするっと彼女の目の前に懐に入ってしまった感覚なのだ。
「あ、そうだわ。伝えておかなくちゃ。相良のお父様ね、今日は岡さんのところに泊まるそうよ」
「え! そうなんだ。えらく親しくなったな」
「すごく気があったみたいで、もっと一緒に呑みましょうになったみたい。あと、明日の朝の漁についていくんですって、博お父様」
「まじかよ……、ああ、でもお父さんと岡ちゃん気が合いそうだもんな」
「そうね、楽しそうだったからそっとしておいてあげなさい。美湖先生にもそう伝えてね」
頷いて、晴紀は実家を後にして、診療所ハウスへと戻った。
二階の二人のベッドルームへ向かうと、美湖先生はもうおおざっぱにスーツを脱いで、下着だけで眠っていたので、また晴紀は呆気にとられる。
すうすう眠っている彼女を見て、晴紀はスーツ姿のまま彼女の足下のそば、ベッドのふちに腰をかけて溜め息をつく。
いっぱいいっぱいだったかもな、センセ。
ネクタイをほどきながら、毛布の下にある彼女の小さな足をそっと撫でた。
吾妻の結婚式に併せて論文を仕上げ、教授に渡したら留学を言い渡され――。そのあと何食わぬ顔で、吾妻先生を祝福することに努め、いちばん相談したい先輩だっただろうに今日はひとこともそんなことを美湖は伝えなかった。
「おやすみ、先生」
日が短い秋の夕暮れはすぐに終わり、もう島の海は夜の色。
さざ波の音を聞きながら、晴紀は先に一人でシャワーを浴びた。
遅い時間に彼女が目覚めたら、今日はなにを食べよう、作ってやろう。冷蔵庫になにが残っていたか。そんなことを考えながら汗を流して、晴紀は部屋着でベッドルームへ戻った。
また仰天する。あんなに疲れ切って眠っていた美湖がいない。
まるで飛び起きたかのように毛布がはね除けられている。脱いでいたワンピースにジャケットもない。先生が常に枕元に置いているスマートフォンがないことに気がついた。
もしかして――。晴紀は慌てて階段を下り、診療所ハウスの一階へ。ダイニングを抜けて診療所へ向かうドアを開けると、案の定、診察室に灯りがついている。
だけれどもぬけの殻。そしてドクターバッグがなかった。
「え、急患?」
さらにハッとする。慌てて診療所の外を見ると車があって晴紀はほっとする。まさか飲酒運転で出掛けたのかと案じたから。
だったら? もしかして走ってる!
それにもびっくりして、晴紀は慌てて二階のベッドルームに戻り、自分のスマートフォンを確かめる。
メッセージはなにもない。きっと電話がかかってきて一直線に向かっている。先生は周りが見えなくなって、そこにまっすぐに熱くなって目指すところがあるから気がつかないだろうけれど、それでも晴紀はメッセージを打った。
【 急患? どこの家? 車なしでどこにいるんだよ 】
五分待ったがなにも返答がない。
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