38.ラストオーダー
「これな、うちの密柑山で取れたんよ。先生、食べてな。初もんや」
初冬になっても瀬戸内は穏やかで温暖。朝晩の冷え込みだけで、診療時間中はお日様が優しく包んでくれる。
「おー、これは早生蜜柑ですか」
「ほうよ、お父さん先生。取れたてやけん。多めにもってきたけえ、静岡にも持って帰ってな」
「ありがとうございます。いただきます」
しかし受け取ったのもデスクに座っているのも父の博だった。
「美湖、レントゲンを頼む」
「はい。相良先生」
西川のおじいちゃんが、最近は一人で診察に来るようになった。そして父が担当。
「お父さん先生が来てくれるようなって、ほんまようなったわ。ありがとな、博先生」
「いいえ。たまたま娘が赴任していたものですから」
「はよう美湖先生の言うこと聞いとったら……、市街の整形外科行っとったらもっと早うようなっていたかもしれんのにな。美湖先生にも嫁にも世話かけてしもうた。そやけど、お父さん先生が来てくれるから、通院が楽なのも助かるわいね」
父が処方した新薬の効き目が出たようで、手術をしなくてもなんとかなりそうだった。やっと最近、大好きな磯釣りが出来るようになったとのことで、たまにお刺身のお裾分けももらったり、父が来ている時は西川のおじいちゃんから診療所までお誘いが来るようになった。そして父も晴紀から借りた竿を持ってひょいひょいついて行ってしまう。
そのおじいちゃんが、メインデスクを父に座らせて、アシスタントのようにうろうろと父の指示に従って検査準備をしている美湖をじっと見ていた。
「美湖先生、聞いたでー。晴紀と結婚するんやってな」
どきっとした。白衣のまま美湖は固まってしまう。
「美湖先生も博先生も……、全部わかっていて、なんよな?」
ダイレクトに突っ込まれたが、美湖はきちんと西川おじいちゃんの前に立ってしっかり答える。
「はい。なにもかもです」
「ほうなんか。はあ、よかったわー。おめでとうさん! ハルも落ち着けそうで、おいちゃんも嬉しいわ」
「ありがとうございます」
「ほしたら先生、ついに島に永久就職かいね! これでこの診療所にずうっといられるってことやろ!」
これを聞かれると最近非常に困り果てていた。そして美湖の返事も決まっていた。
「上司にあたる横浜の教授と相談中です。私はここにいるつもりなんですけれどね」
「なんや。はっきりせんな。そうや、島民、特にこの西港地区の住民で引き留めたるわ。美湖先生はもうここの嫁さんやからな」
西川おじいちゃんだけではない。このあたりの住民が美湖と晴紀の結婚を知って診察に来ると、必ず美湖に聞いて美湖の返答からの反応も皆決まっていた。
それを父も聞いているのに、なにも感じなかったかのように聞き流して決して言及しなかった。
午前の診療時間を終える。患者が引けて、愛美が昼休憩に帰宅。父と一緒にダイニングへ向かう。
「お疲れ様でした。お父様、美湖先生」
今日も清子がやさしい笑顔で昼食をつくって待ってくれている。
「こんなに早生蜜柑をいただいてしまいました」
父がもらった袋をテーブルにおいた。
「あら、綺麗ねー。毎年思うわ。爽やかな香り。食後にいただきましょうか。西川さんのところのお蜜柑は昔からおいしいのよ」
清子もすっかり明るくなり、父が島にやってくると美湖ともども甲斐甲斐しく世話をしてくれている。
『いただきます』と、父と清子と一緒に美湖も食事をいただく。なのに父が食事の間にスマートフォンを眺めている。
「ちょっとお父さん。私がやっていたら怒るのに。行儀悪いんじゃなかったの」
「おおっ。晴紀君の船が今治の港に着いたぞ」
「え、え、ほんと!?」
船舶位置情報アプリで晴紀が乗船している船をチェックした父の手元を美湖も覗き込んだ。清子まで口元をもぐもぐさせながら『あら、ほんと?』と自分のスマートフォンを眺めている。
「もう、これほんと便利ねー。早くこれにすればよかったわー」
清子は最近、ガラケーからスマートフォンに変えたばかり。父と美湖がこれを見ているのを知って、いままで『私は決して使いこなせない』と怖じ気づいていたのに、『晴紀、私もほしい』と言いだして、息子と一緒に機種変にでかけたほどだった。
「おー、そうしたら今夜ぐらいか。晴紀君が今治から帰ってくるのは」
「車で行ったし、漁船を向こうの港に置いてでかけているから、フェリーみたいに時間も関係なく、ハル君は自分で海を渡って帰ってこられるしね」
美湖もつい頬が緩んだ。きゃー、ハル君が帰ってくる。あ、部屋を片づけておかないとまた怒られるとも思ってしまった。
「おまえ、やっぱり嬉しそうだな」
父に言われて、美湖は照れ隠しにムッとする。
「お父さんだって、食事中なのにハル君の帰りが気になってお行儀悪いことしてるじゃないの。ハル君にまた船釣りねだって疲れさせないでよね」
「なんだって。おまえだって、晴紀君とこの家で一緒に生活するようになって、頼りっぱなしなの知っているんだからな」
「ちゃんと朝ご飯作ってるし、休日だって私がランチを作るもの」
「おまえの初心者な手料理を食わされるとは、可哀想な婿殿だ」
「お父さんなんか料理もできないくせに」
父と娘の火花が散って、清子がハラハラしている。
「よろしいではありませんか。いまの時代、出来るほうが出来ることをしたほうがよろしいと思いますよ。晴紀は島にいる間は暇な子なんですから、どんどん使ってやってください」
「まったく。こんなに甘くしていては、重見の家を守る嫁になれんぞ。おまえ」
また説教が始まった。美湖が顔をしかめると、父と美湖と清子のスマートフォンから次々に同時に通知音が鳴る。三人一緒に眺めると。
【 ただいま帰港しました。夕方には島に着きます 】
乗船していた船の写真が送られてきた。三人ともおなじもの。
三人いっしょに顔を見合わせて微笑む。
「ほんとうによくできた息子さんですな。舅になる私にも、妻になる美湖にも、母親の清子さんにもきちんとお知らせするところ」
だけれど次に届いたメッセージもまた同時だったが、それは三人それぞれ違う内容。
【 お父さん、いらっしゃいませ。帰ったら船釣りしましょう 】
【 母さん、ただいま。どう、スマホ。俺の船、わかった? 伯父さんに顔を見せてから帰ります 】
【 美湖さん、ただいま。部屋、片づけておいてくれよな 】
美湖だけちょっと違うメッセージが来て、それを知った父が大笑いをした。
「ほらみろ。おまえ、食べたら片づけてこい」
「はーい。というか、お父さん、また御殿場の病院を放っておいていいの?」
「そろそろ息子ふたりに譲ってもいいと思っているからな。私はこうして手の足りないところの手伝いをしていくよ」
「うそ、ハル君と遊びたいだけなんだから」
また父娘で火花散ったが、清子の困った目線に気がついて、今度こそ大人しく二人で食事をする。
「そちらに今年中にご挨拶に行きたいと思っております。結納としてお伺いしたいのですが、お父様、御殿場の美湖先生のお母様にもそうお伝えください」
「結納、ですか。いや、そんなこの時代、そこまでしていただかなくても。結婚式も二人の好きなようにさせるおつもりなんですよね」
「それはもちろんでございます。しかし晴紀は長男、結納は当家のしきたりですから」
しきたり! 初めてそんな言葉を聞いて、父と一緒に美湖は飛び上がった。
やっぱりそうなのかな。やっぱりきちんとお嫁さんをしなくちゃいけないのかもしれないと初めて思った。
・・・◇・◇・◇・・・
夕方と言っても、日が落ちてから晴紀が帰ってきた。
「ただいま帰りました」
夕食前、父と一緒に診察室でその日のまとめの雑務を片づけていると、晴紀が制服姿で診察室に現れた。
白衣姿の父と娘を見つけて、晴紀が笑顔になる。そして、美湖と父も一緒に出迎えた。
「おかえり、晴紀君。航海、お疲れ様」
「お父さん、いらっしゃいませ」
冬の紺色のジャケットの制服姿で帰宅した晴紀を見るのは、父は初めてだったので惚れ惚れとした顔をしていた。
晴紀が潔白と納得して御殿場に帰宅した翌月、父は広瀬教授と定期的に診療所に通う契約をしっかり固め、再度瀬戸内にやってきた。
晴紀と二度目の再会。晴紀と清子が揃って、父に向かって挨拶をしてくれた。
『相良先生、お嬢様の美湖先生と結婚させてください。医師は続けてもらうつもりです。夫になる自分がしっかり支えます』
父にきちんと挨拶してくれた。清子も同じく。
『私も姑として、母親として、美湖さんをいただく以上、そちらの親御様の代わりとなってお守りします』
とまで言ってくれて美湖も涙が出てしまったほどだった。
父も同様に。『ご存じの通り、医師という仕事以外なにも出来ない娘です。由緒あるお家の嫁が務まるか不安ではありますが、どうぞお家を守れるよう育ててください。晴紀君と清子さんにお任せ致します』
厳かに返答してくれると、今度は晴紀が涙に震えていた。
『晴紀君だからだよ、晴紀君だから結婚をして欲しいと思っているからね』
納得できなかったら娘は返してもらうつもり。そう言いきっていた父からの心からの許しの言葉だからこそ、晴紀もとても嬉しそうだった。
その結婚の許しを得てからの、再度の再会だった。もう美湖よりも、晴紀に会いに来ているのではないかというほど、父は晴紀のことばかり気にしている。
「いやー、かっこいいな晴紀君。そうか、これが航海士の制服か」
紺のジャケットに金ボタン、袖口には金のライン。白いシャツに紺のネクタイ、そして白黒の制帽。凛々しい晴紀に父は大感激で大興奮。
「美湖、これで撮ってくれ。母さんに送ってやるんだ」
父がスマートフォンを差し出してきた。美湖も仕方がないなあと言いながらも、父の出迎えに嬉しそうな晴紀の笑顔と、婿殿が好きでたまらない父を見てしまったら、やっぱり自分も嬉しい。
白衣姿の父と船乗り制服姿の晴紀のツーショットを撮影する。父が御殿場に帰ったらあちこちにこれを見せて晴紀君を紹介するんだと張りきっていて、美湖は心の中で『落ち着け、父』と結婚する娘より舞い上がっていて苦笑いしか出てこない。
「お父さん。吾妻先生の結婚式が終わったら、船釣り行きましょう」
「もちろん。それを楽しみにしてきたんだ。いま瀬戸内で何が釣れるか雑誌を見て勉強してきた」
月刊・釣り人を買って飛行機の中でわくわくして読んできたんだと父が嬉々として晴紀に見せてる。
「あ、この雑誌。俺も時々参考にしますよ」
お父さんのバカ。ハル君は海のプロで、この海域を知り尽くしている島の男なんだから、そんな雑誌なんて役に立つか――と美湖は食ってかかりたかったが、そんなことはわかっていても父のすることを晴紀が優しく受け止めているので、男同士盛り上がっている時は美湖は間に入らないようにしていた。
婿殿が帰ってきてもう嬉しくて楽しくて興奮している父がやっと満足して、ひとまず二人一緒に二階のベッドルームへ上がった。
「おかえり、ハル君。疲れているのにお父さんの相手大変でしょう。ごめんね。なんか凄いテンションなの」
「俺はぜんぜん平気だよ。あんなに喜んでくれて、俺も嬉しいから。それに娘が結婚するんだからあんなに喜んでいるんだろ。有り難いよ」
ハル君はほんと清いなと思ってしまう。清い母親が育てたからなんだろうなと最近美湖はよくそう思っているし、その素直な気持ちに随分といままでやさぐれてしまったいた美湖の心も慰められている。
いつものベッドルームで、やっと紺のジャケットを晴紀が脱いだ。
白いシャツと紺のネクタイ、スラックス。その姿のまま、晴紀がまだ白衣を脱がない美湖へと近づいてきた。
頬をそっと撫でてくれる。十日ぶりの彼の感触だったので、美湖もうっとり目をつむった。
そのまま、晴紀が『ただいま』のキスをしてくれる。
「白衣を着た私にはなにもしないんじゃなかったの」
「ここ、俺と先生の部屋だから」
付き合い始めの頃より、晴紀の罪に縛られていた心もだいぶほぐれてきているんだと思って、美湖もそのまま彼の口づけに甘んじて、暫く愛しあった。
晴紀がぎゅっときつく抱きしめてくれると、やっぱり制服から潮の匂いがした。お父さんの漁船で波しぶきを浴びながら帰ってきたからなのか、長く潮の世界で仕事をしていたからなのか、海の男の匂いだった。
「留守の間、なにもなかった?」
紺のネクタイをほどく晴紀に聞かれ、美湖も『うん、大丈夫』と答える。
やっぱり晴紀は制服が似合うなあと美湖もぼうっと眺めてしまう。そんな美湖に晴紀が気がついた。
「なに、センセ」
「え、冬の制服もかっこいいなと思って」
「……やっと、島でも堂々と着て歩けるようになったかな」
晴紀が船乗りとして島を出て行く。島民も『晴紀君、また船乗りになったの。事件は終わったの』と感じるようになったのか、以前のような遠巻きに敬遠するような目を美湖も感じなくなった。
「美湖先生と、お父さんのおかげだよ。大事にしていくから」
「私も、なにもできない女だけれど。ハル君と清子さんが大事にしてきたお家、大事にするからね」
「母ちゃんも言っていただろ、嫁の手際より、嫁の気持ちだって。センセなら出来るよ。医者になった根性も島に来た度胸もあったんだから、嫁もできるって」
確かに仕事を持っていることで、なにかと自分の立場を助けてもらっているこの頃ではある。
「吾妻先生の結婚式、いよいよ明後日だな」
晴紀もその日に合わせて、派遣から帰ってきた。
そして父もその日に合わせて瀬戸内にやってきた。
明日、広瀬教授が松山入りする予定で、美湖ひとりだけ、密かに違う緊張をしていた。
・・・◇・◇・◇・・・
霜月も下旬の大安。島の山は橙の水玉模様、蜜柑が最盛期。
島ではなく市街の港にある海辺の式場で、吾妻と早苗の結婚式が行われた。
穏やかな初冬、青い晴天の日。きらめく海がガラスの向こうに見える港の式場で、お互い再婚同士の二人の結婚だったが、しっかりと盛大なものだった。
横浜から吾妻の心臓外科の同僚も呼ばれ、早苗側もナースの友人、そして島の面々。とりわけ、きちんとスーツにおめかしした中学生の息子が、結婚する新郎と新婦の間に常にいることがとても微笑ましく、式がとても温かいものになった。
美湖も、父と晴紀と清子とおなじテーブルで祝福した。
お料理も瀬戸内の海の幸をいかしたフレンチのフルコースで、横浜から来たドクターにナースも満足していたようだった。
式と披露宴が終わり、皆が海辺の結婚式会場から道後温泉の二次会会場へと向かう。
「ハル君、二次会行くでしょう」
「もちろん。でも母さんは島に帰りたいって」
「うちのお父さんもそうするって」
「じゃあ、岡ちゃんに連れて帰ってもらう。頼みに行くから先生、待ってて」
賑やかで吾妻を散々からかう同僚ドクターが盛り上げてくれて、美湖もほっとひと息。久しぶりにドクターたちに囲まれた気分だった。
美湖が待っている少し向こうに、清子と志津と芳子が談笑しているのが見えた。
芳子はフォーマルの黒スーツで志津は着物姿、清子は美湖とおなじ紺色のドレスだった。
『まあ、清子さん。素敵。いいわねえ、こういうふうに着られるのね』
『ほんまやわ。清子さん、いつも着物だけれど、ドレスもええねえ』
『うふふ。外商さんと美湖先生がドレスも似合うはずって、選んでくれたの』
最近、清子も前向きになっているのを美湖も感じていた。いままでお式やパーティには着物か堅い礼服がほとんどだったという清子に、外商でついてきたアパレルショップの店長さんと一緒に『ドレスが楽だし華やか』だと『品が良いから似合う』と勧めたら、清子もすんなり試着していつもと違う自分を知って嬉しそうだった。
じゃあ、お姑さんとお揃いにしちゃおうかな――と美湖はシックな紺色のワンピーススーツを仕立ててもらった。これから姑と嫁になる二人が紺色で華やかに装った姿は、島の皆が驚き、そして絶賛してくれ、晴紀も嬉しそうだった。
吾妻はまだ横浜の同僚に取り囲まれ、そのまま二次会行きのバスに乗りそう。今日はゆっくり話すなら二次会が落ち着いてからかと美湖もそっとしていた。
父はもう岡氏や成夫に圭二と愛美と一緒に楽しそうにしていて、すっかり島の一員に見えるほどに溶け込んでいる。
「相良君」
はっとして、美湖はその声へと振り返る。
「広瀬教授」
「たくさんの人に祝福されて賑やかな式だったね。久しぶりに楽しかったよ」
少し恰幅の良い、福神様のような穏和な顔立ちの男性。品のある礼服を着込んだ紳士がそこにいた。
白髪交じりの眼鏡の男性の笑顔でも、美湖は畏れ多い気持ちで一礼をする。
式が始まる前に挨拶をしていたが、横浜の心臓外科ドクターたちと近い席にいたため、式と披露宴の間は離れて過ごしていた。
「料理もおいしかったよ。来て良かった」
「私も瀬戸内のフルコースは初めてで楽しめました」
「さっそくだけれど、ちょっといいかな」
ホールで談笑中の招待客から遠ざかり、海が見える通路奥のソファーへと人目を避けて連れて行かれる。
そのソファーに共に腰をかけると、広瀬教授から口火を切った。
「論文、出来上がったのだね。早速だけれど見せてもらおうかな」
「はい。こちらです」
ファイルと制作した資料に書類とまとめてパッキングしたものを差し出した。広瀬教授もそれを受け取ったがすぐに中身の確認はせず、そのまま座っている脇、ソファーの上に置いてしまった。その仕草に美湖は妙なものを感じた。
「離島の医療、赴任してくれてご苦労様だったね」
急に、胸騒ぎがした。いや、ずっと心の奥で少しざわついていた。でもそんなことはないと美湖は自分で抑えて否定し続けた。
「助かったよ。地元での評判も良いし、院内でも評価があった。なによりも、これから君を通してエヒメオーナーの野間氏とのパイプができた感謝している」
やはり、私はそういう『駒』だったかと愕然としたものが襲ってきたが、なんとか堪えた。
「あの、これからの私の赴任についてなのですけれど……」
はっきり聞いておきたいし、美湖も伝えておきたい。
「結婚はかまわないよ。島のお嫁さんになるのもかなまわない。ただ、あとひとつ、クリアしてもらいたいものがある」
来た。広瀬教授の、おそらくこれが『美湖を動かす狙い』だと。いったいなに?
「シアトルに留学してみないか。準備はできている。あとは君がアメリカへ行くための資格を取得してくれたらいい。私がすべてバックアップする」
目を見開くしかなかった。
「留学……ですか。あの島は……島の診療所は……」
仕上げた論文は見もせず、そして福神様のような顔をしながらも、眼鏡の教授はそんな時だけ険しく海を射ぬいている。
「君の後任はもう決めている。君にはシアトルに行ってもらいたい」
まるで最初から決まっていたかのように……。
でもいまから美湖は結婚して、重見の嫁、島のお嫁さんになるし、美湖が結婚しなければエヒメオーナーの伯父様との繋がりもなくなる。
なのに、いまから留学? 断ったらどうなるの。それに島の診療所は誰にも渡したくない! それが美湖の想いだから。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます