第18話(魔女と遭遇)
“歴史の動乱に、彼女の姿あり! 伝説の災厄! 魔女と呼ばれた彼女の軌跡を描く特別展示”。
白い看板に大きくそういった文字が描かれている。
しかも飾りまで付けられている特別な感じである。
目玉展示であるらしく、とても気合が入っているようだ。
これでは途中まで歩いて行っても、必ず気づくだろう。だが、
「入館料、五コールド」
入り口付近に張ってある白い料金の書かれたそれを見ながら、僕は呻いた。
この料金であれば先ほどのジュースが、二つ飲める。
アイスクリームと炭酸のコラボはやはり美味しい。
あれ二つ分と展示物。
僕の中でその二つが天秤に乗り、グラグラと揺れる。
どうしようかと僕が迷っていると、アオイがそこで僕に、
「別の料金設定がされているのよね。どうする? 行く? 行かないなら、ユウトに私から先ほどの魔法関係の説明の続きをさせてもらうけれど」
「せひ見に行きましょう!」
「……」
アオイが冷たい目で僕を見ているが、あの苦痛……ではなかった、大変な感じな目に遭うよりはずっとましである。
リンとミナトはプッとおかしそうに噴き出している。
だったら少しでも止めてください、本当に大変だったんだと思いながら、お金を支払い特別展の中へ。
中はオレンジ色の光りに包まれた薄暗い場所。
古い本や手紙のようなもの、説明のボード、魔道具などが展示されている。
なんでも日の光で焼けてしまうのを抑えるためにこうしているらしい。
ここにつけられている明かりも古い本などを傷めないような特別な明かりであるそうだ。
そういった説明が初めにあり、更に中に入る。
そこには大きく紙がはられていて、“あの魔女の悪役っぷりを描く! そう、それはあの夏に始まった……”と赤や青などで花などが装飾された手作り感あふれる大きな文字が入っていて、その隣にに年表が書かれているらしい。
何行にもわたって文字と数字が並んでいるからそれが年表なのだろう。
だがそれよりも気になるのは、その前でプルプルしている人がいることである。
以前、都市にきてすぐの頃にすれ違いざまに見た、あの妙な格好をした女性だ。
僕を変な物でも見るように一瞬見た女性。
そう、黒いとんがり帽子に星型のアクセサリー、長い金髪。
震えているためか前髪が揺れて、青い瞳が見える。
とても美人。
都会はやっぱりヒナタ姫と良い美人が多いなと思いつつ、一か所に立ち止まっているので、この人はどうしたんだろうなと思っているとそこで、
「ほら、ユウト、早くこっちにこいよ」
何故か目を輝かせてミナトが僕を呼んで手招きする。
彼の目の前には一枚の絵が飾られている。
横から見るとよく見えないが、近づいて正面から見ると、
「すごい美人。これが魔女エーデルを正面から見た姿……」
「だろう! 伝説の魔女ならぬ美女! それは正しそうだ!」
といったように僕が喜んでミナトと見ていると、そこで冷たい声でアオイが、
「その絵は偽物よ」
「……え?」
無抜けな声を上げたのは、僕とミナトだった。
そして、そんな僕達にアオイはまったく分かっていないわねと嘆息して、
「その魔女は自分が美しく描かれないと許せなかったらしいの。だから相当美化されていると言われているわ。一般論だけれど」
「……でも今回の展示では、魔女を写した貴重な写真の複製もあるんだろう? 今回の展示物、その本当の姿を収めた写真だな、それに合わせた絵を持ってきたって入り口でもらったパンフレットに書いてあったぞ?」
「……ふ、じゃあその写真を見てみましょう」
何やらミナトとアオイの間で何かの戦いが始まったようだ。
そしてそんな二人に僕とリンは様子の推移を観察しながら、黙っていついていくとそこには黒白写真がある。
黒いとんがり帽子をかぶった女性が、ドヤ顔でこちらを見ている。
とても美人ではあるのだが、
「な、やっぱり美人じゃないか」
「う、うぐっ」
「自分の持つ知識に溺れたな、アオイ」
「うぎゅっ」
といった会話をしているのを聞いた僕はその二人は放っておいて振り返り、代わりに元きた道を歩いて戻る。
展示物は目玉ではあるらしいけれど、今はそれほど人がいなかった。
けれどその僕が目的とする人物、彼女はまだそこにいた。
なのでとりあえず腕を掴んで逃げられないようにすると、
「きゃあ、な、何するのよ」
「えっと、魔女エーデルさんですよね? 写真と同じ姿だし。ちょっとお話を聞いていいですか?」
その言葉に彼女は、さっと顔を青ざめさせたのだった。
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