第20話(酷い話ですね~)

 そんなわけで、先ほどジュースを飲んでいた休憩所にすぐに向かった僕達だが、


「な、何よこれ! こんなのやっていな……うぎゅ」

「はいはい」


 先ほどから五度目になる魔女エーデルの悲鳴を聞きながら僕は手を引っ張って行く。

 特別展という事もあり、大量の今までの歴史的出来事が並べられているのだが、そのボードを全部気になってちらちら見ている魔女エーデルは時々そんな風に悲鳴を上げている。

 なんでも、事実とは全く違うことが書かれていたらしい。


 その度にこうして魔女エーデルはまるでそのパネルに掴みかかる様に(実際に幾つか掴みかかった)足を止めてわなわな怒りに震えていた。

 毎回足を止めるのでいつまでも休憩所に向かえない。

 仕方がないのでその度にこうやって僕は手をひいていたのだが、魔女エーデルが涙目になりながら、


「酷い、酷いわ。途中関係の無い事も全部私のせいにされてる」

「酷い話ですね~」


 とりあえず僕は適当に相槌を打った。

 それに魔女エーデルが、


「しかも私の名前をかたって悪いことした奴らを全部ぶっ潰していたのに、その悪い奴らがやった事も私のせいにされてる!」

「酷い話ですね~」


 再度、とりあえず僕は適当に相槌を打った。

 すると魔女エーデルが恨めしそうな声で、


「……こんな特別展示なんて代物、消し去ってやる」

「どうやって?」

「……脅迫状を送る?」

「燃やしたりしないんですか? 絵とかそういうものを」

「それをやると怪我人が出ちゃうかもしれないし。でも地味な嫌がらせだと、悪臭を振りまいておいたり、やってきた人達に猫耳が生える呪いとかになるのよね。……まずは悪臭でいくか」


 魔女エーデルが一人頷いていたのは置いておくとして。

 どうにか展示物の部屋から外に出る事が出来た。

 空いている席の一つに座り、それから何も食べないのにここにいるのも居心地が悪いので、とりあえず飲み物を購入してから再び席に着く。


 そこで彼女の帽子のツバが僕の頭に当たった。


「痛いです」

「し、仕方無いじゃない」

「その帽子暑そうですし脱いだらいかがですか?」

「! 熱くないわよ! 冷房も効くし魔法防御だって出来ておしゃれな時代を越えた一品なんだから!」

「……そうですか」


 とりあえず大事らしいので適当に受け流し、魔女エーデルのその帽子に当たらない場所に移動した僕はそれから、


「所でどうしてここに? そういえば魔女エーデルは都市にいるわよ、っと女神様は言っていましたが」

「あのバ……そう、お姉ちゃんがそんな事を言っていたの」


 ババアと言いかけて周りを見回してから魔女エーデルはそう言う。

 先ほどの様に魔道書が落ちてくるのが嫌なのだろう。

 因みに先ほど落ちてきた魔道書はアオイが手に入れた。


 コピー本なので良いんじゃないと魔女エーデルに言われたので。

 アオイはとても嬉しそうだ。

 ただコピー本というと何となく、違う物をイメージしそうになるが。

 さて、それはいいとして。


「それで私をどうして探していたの?」

「お姫様の呪いを解くためです」

「どうして赤の他人である貴方がそんな事をするのかしら」

「春休みに何かでっかい事がしたいと言ったら女神様にとても凄い伝説の万能スコップをもらって、そう誘導されました」

「……」


 無言で魔女エーデルは僕とスコップを見比べて、


「このなんだかすごい魔力を感じるスコップをくれたの? お姉ちゃんが? 坊やに?」


 納得がいかないというかのようにまじまじと僕を見る魔女エーデル。

 そんな風に綺麗な女の人に見られると何だか照れるな~と僕が思っているとそこで、


「うーん、普通に見える。良く分からない。誰か特別な人の血をひいているから手を貸したのかしら。待てよ? ……ねえ、貴方、ユウトといったかしら。何処が出身地?」


 そこで冷や汗をたらす様に魔女エーデルが僕に聞いてきた。なので、隠しているわけではない僕は、


「アルバ村です」


 その一言で魔女エーデルは凍りついた。

 どういうわけか石かなにかにになってしまったかのように動かない。

 一分程度微動だにしなかった彼女だがそこで、


「あのドS共の村じゃない! あんな無茶苦茶な人達の相手なんてしてられるかぁあああ」


 魔女エーデルが悲鳴を上げて逃げようとしたので僕は、とりあえずまだ話す事があるので彼女の手を握り逃げられないようにしたのだった。


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