第19話(何でバレ……)
僕が彼女の手を捕まえながら告げると、彼女はすっと目を細めて探るように見る。
明らかに警戒されていると僕は思う。
そこでこの女性は僕を上から下まで見てから、
「貴方、誰?」
「あ、ユウトといいます」
「……聞かれて素直に答えてしまう純朴さは好感が持てるけれど、どうして私の顔を知っているのかしら? 絵にしろ何にしろ気を付けていたはずだけれど」
そんな何処か冷たい声で問う彼女の顔を見つつ、僕は空いている片手で先ほどの写真の場所を指でさしながら、
「あそこにドヤ顔で映っている写真が飾られています」
「……」
その一言で彼女は沈黙した。
恐らくは凍りついたのだろう。
今の会話の範囲ではこの答えが来るとは予想していなかったに違いない。
何しろ自分の正体が気付かれないと彼女は思っていたようだったから。
しばらく静かな時が流れる。
無表情になって微動だにしなかった彼女は、そこで唐突に勢いよく僕が指さす方を見ながら走りだした。
あまりにも早く走るので引っ張られるように僕もそちらに向かう。
そして彼女は真っ青な顔になってアオイ達を退けるようにしてその写真の前にやってきて、
「な、何でこれがこんな所に……。他の人には見せないって約束で、持ち主が死んだら燃やしてくれって……」
わなわな震えている彼女。
どうやら、必ず写真は燃やしておくといった話になっていたらしい。
だが、現に写真は残っていて、今回展示されている。
そこで丁度写真の下にある説明文を読み終えたらしいミナトが、
「えっと……下の方にこの写真について説明が書いてあります。
“小説家マユタ氏が生前に所蔵していた日記帳に張り付けられた写真を複製したもの。
氏は生前、この日記帳の他にも未公開の小説を複数所持しており、それを友人に預けていて自分が死んだら燃やして欲しいと言っていた。
だが、氏の死後、こんな素晴らしい物を燃やしてしまうとはもったいないとその親友が思い、氏の家族の了承の元これらは出版された。
その内の一ページに記載された話と写真から、魔女エーデルの本当の姿をうつした貴重な写真といえる”
だそうです」
「な、なんで、こんなので身バレ……」
真っ蒼どころか、砂になって崩れ落ちてしまいそうなくらいに魔女エーデルは凍りついていた。
よほど自分の姿が残らないよう気を付けていたのだろう。
そこで、はっと魔女エーデルは、そのミナトの顔を見てアオイを見て次にリンを見てぎょっとしながらも、その次にはっとしたように僕を見た。
しかも僕の方は念入りに、何かを探るように見てから僕に、
「貴方、何で私の本当の姿を認識できるの?」
「? さあ」
「……背中になんだかすごい武器っぽい何かを感じるわ。それのせい!?」
「あ、これ伝説の“万能スコップ”なんです。女神様に貰いました」
「お姉ちゃんに!? 何時も何時も何時も余計な事ばかりしやがって、あのババ……」
そこで何処からともなく蒼い色で金色の装飾がされた高そうな本が降ってきて、魔女エーデルの頭上に落ちた。
「いたいぃいいいい」
悲鳴を上げる魔女エーデル。
涙目だがこうやってみると美人だし可愛い感じでそんな凶悪そうに見えない。
そして多分、女神様をババアと言おうとしたから落ちてきたのだろう、ミミカの時のように悪口には厳しいのかもしれないと僕は思う。
そこでアオイ、ミナト、リンがはっとしたように、
「「「魔女エーデル!」」」
「な、何でいきなりばれて……このっ、えいっ」
魔女エーデルは何かをしたようだけれど、僕にはよく分からない。
相変わらず涙目の魔女エーデルがいるだけである。
けれどそこでアオイが目を瞬かせて、
「あ、あれ? 違う人になっちゃった?」
「やっぱりこの魔法は効いているわね。なんでこの坊やには効かないのかしら」
愚痴る様に魔女エーデルはそう呟いて僕を見る。
けれどそこまで人が多いわけでもないがいつまでもここにいると邪魔なので、
「あの、お話を聞きたいのであちらの休憩の所でお話ししてもかまいませんか?」
「そうね、貴方にも私は興味があるからよくってよ」
そう、魔女エーデルは悪戯っぽく笑ったのだった。
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