第8話(カップケーキのお礼)

 そんなこんなで、そこからは彼女達と楽しく移動……とはならなかった。

 先ほど掘った時、ガラクタというかただのガラスの置物? しか出てこなかったのがアオイには許せなかったらしい。

 確かに僕も真っ先に外れを引いてしまったのは悲しい。


 だがアオイの不機嫌さは僕以上だった。

 そんな彼女だが、先ほどの硝子を掘った後はこんな事を言っていた。


「ふん、女神様から貰った“万能スコップ”といっていたけれど、ガラクタしか掘り起こせないんじゃない。それならただのスコップとそんなに変わらないわ」

「……そうなんですかね? まあ、スライムは撃ち返せるし、普通に穴も掘れるし、金属だから硬いから棒にもなるし、十分といえば十分かな」


 僕は、深く考えずに背負おうとスコップを持ちあげる。

 とりあえずこれがスコップであることには変わりはなくて、普段のスコップと同じように十分使えそうではあるのだ。

 だから今回はもういいかと僕は思った。


 そして軽くスコップの土を払い、このまま持ち歩くのも大変なので、背中に背負えるようにスコップ袋を持ってきたのでそれに入れようとする。

 そこでアオイがむっとしたように、


「女神様に貰った貴重なスコップを否定されて、悔しくないの?」

「ん? 今回は調子が悪かっただけかもしれないし、特には。その能力が無くてもよくよく考えたら、そこまで困らないし」

「……」


 アオイが沈黙して、何か言いたそうに僕を見ている。

  どうしたんだろうなと僕が思っていると、リンがおかしそうに笑いだした。


「あはははは、本当に最高! ユウトって面白いわね」

「はあ……」

「えっとね、多分、アオイはそのスコップが魔石やら何やら凄い物を掘りあてるのが見たかったのよ。やっぱり女神様が特別な加護をつけているらしいスコップだし、それなら凄いシーンを見たいじゃない?」

「そうなのですが? それならそう言ってくれればいいのに」

「素直じゃないからね。でも魔法使いのはしくれとしては、そんな凄そうな魔法道具があったら、使える所が見たいんでしょう?」

「だったらそう言って下さいよ。十回くらい掘れば、謳い文句通りなら流石に魔石の一つでも掘り上げるでしょうし」


 そうアオイの方を嘆息して僕が見ると、プイっとそっぽを向かれた。

 何だこの子、素直じゃない。

 そんな子の言う事をこの僕が聞くと思っているのか、と思いつつアオイに僕は、


「……掘って欲しいんですか?」

「べ、別に興味なんて無いし」

「もう一度聞くので答えて下さい。もし、興味がないようなら、掘りません」

「……掘って欲しいです」


 小さな声で、顔を真っ赤にしながら僕に言うアオイ。

 何だろう、何となくいけない気分になる気もしたが、それは置いておくとして。


「じゃあ掘ってみましょうか。せーの!」


 背中からスコップを取り出して地面を掘る。

 正確には地面につ突き立てる、ではあった。

 同時に、再びガツンとスコップの先に何かが当たる。


 先ほどと感触は似ているが、スコップの当たった時の音が少し違う気がした。

 今度はさっきのガラクタとは違うものではあるらしい。

 とりあえずはそれを目指して掘っていくと茶色の石が表れる。


 四角錐の形をしているのに何か意味はあるのだろうかと僕はしばし考え、無いだろうという結論に達した。

 それを掘り出して周りについた土を手で簡単に払い、日に透かす。

 これもまた曇りのない硝子の塊のように見える。


「綺麗な紅茶の色みたいな石か。……魔石だな。結構純度が良いみたいだ」

「結構って……それ凄く純度が良いわよ!」


 僕がそう呟くと、アオイ両手を前で振りながら焦った様に反論した。

 その石を憧れるかのようにアオイは見ている。

 どうやら僕たちが森でよく見つけてくるそれは(魔物を倒したりしてもいる)、アオイには魅力的なものであるらしい。


 そういえば僕は彼女からカップケーキを貰っていた。


「じゃあこれ、アオイにカップケーキのお礼にあげるよ」

「ちょ! これがどれだけ価値があるのか分かっているの!?」

「うーん、魔法使いなら僕よりももっと上手く扱ってくれるだろうし、あげるよ。必要なら僕の場合はまた掘ればいいし」

「……いいの?」

「いいよ」

「……ありがとう」


 嬉しそうにその石を受け取るアオイ。

 ここにきて初めて素の彼女の笑顔を見た気がする。

 結構可愛い。素材が良いせいもあるのだろうけれど、


「そんな風に笑ってた方が可愛いじゃん」

「……ぷいっ」


 僕がそう言うと機嫌を損ねたらしくそっぽを向かれてしまった。

 天の邪鬼だなと僕は思いながら、そこでおかしそうにリンが笑ってから、


「そろそろ行かないと次の馬車に乗れなくなると困るから」


 リンの言葉に、僕達は早足で歩き始めたのだった。

 そして馬車を乗り継ぎ、二日。

 僕達はようやく都市に辿り着き、そこで丁度都市ではあるイベントが始まっていたのだった。


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