第7話(ただのガラスと推定される)
そんなこんなで彼女、アオイのおやつのカップケーキを三人で一つづつ食べながら一緒に旅する事になった。
他の村で買ってきたばかりのもので、本当はこっそりアオイが二つほど食べる予定だったのだそうだ。
ちなみにその村では有名なケーキのお店であったらしく、そこですでに二人は味見をして楽しんだらしい。
そんなこんなで道を雑談しながら歩いていく。
そうして少し歩いた先の村で馬車に乗り、都市に向かう。
その馬車に乗る時間は、途中で乗継をして二日ほどだ。
だから途中の村や町で宿に泊まる。
すでに都市への途中の町などは経験ずみである彼女たちから、安い宿を紹介してもらえることに。
それで彼女たちから話を聞くと、やっぱりといったような話を聞けた。
女の子の二人旅はそれはそれで色々と面倒な部分があるらしい。
つまり、美少女である彼女達に声をかけてくる男が後を絶たないのだそうだ。
自分で美少女といったのを聞いて、自分でいうのはどうなんだろうと僕は思ったのだけれどそれ以上は突っ込まなかった。
大丈夫、僕は空気が読める。
と、そこで嬉しそうに緑の髪の彼女が三つ網をいじりながら、一緒に歩きつつ、
「そんなわけで、ユウト君と一緒に移動できるのは、私達にとって凄くいいの。特に腕っぷしも強いからね」
「はあ。僕ってそんなに強いんですか? うちの村は皆こんな物だった様な気がするけれど、やっぱりこのスコップの影響かな?」
「そうなの? じゃあスコップなしで私と試しに戦ってみる?」
活発そうな帽子をかぶった彼女にそう言われた僕だけれど(彼女も腕試しをしたいタイプらしい)、ただ僕としては、
「あの、僕、まだ貴方の名前すら聞いていないんですが」
「ん? そうだったっけ。ごめんごめん。私はリン。
「? 苗字と名前が逆じゃないですか?」
「あ、そういえばそうだったわね、つい、癖でさ。リン、それが私の名前」
「リンさんですか」
「呼びすてでお願い、さん付けされるのって慣れていないのよ」
冗談めかしたように言うリンに僕はとりあえずは、先ほど貰ったカップケーキの最後の一口を口にする。
新鮮なクリームののった素朴なケーキだが、品の良い甘さと濃厚な香辛料の香りがしてとても美味しかった。
機会があれば途中で立ち寄って購入してお土産にできるのならばしてみてもいいかもしれない。
ケーキだけならばそこそこ保存性があるだろうから。
そのケーキをおやつとして持っていたアオイは、また失敗しちゃったとぶつぶつ呟きながら落ち込んでおり、先ほどやけ食いするかのように一口でカップケーキを飲み込んでいた。
なかなかいい食べっぷりだった。
さてその件については置いておいて、何でこんな風に女の子二人で旅をしているのかというと、
「観光も兼ねて色々回ってみる事にしたの。私、この世界の事ってよく知らないからさ。仲良くなったアオイちゃんにお願いして旅行に連れて行ってもらう事にしたの」
「そうなのですか。やっぱり都市観光が最終目的なのですか?」
「うーん、私達は都市出身だから田舎の方が物珍しいかな? それで旅して今は都市に戻る最中なの」
「都市出身……まだ都市には、雪トマトを売りに行ったくらいしか記憶が無いので、出来れば都市の人お勧めのスポットを紹介してもらえるといいですね」
「そう? じゃあその内案内してあげるよ。しばらく都市にいるの? というか何でそんな凄そうなスコップを持って都市に行くの?」
「実は……」
リン達に僕のこれまでの経緯を説明すると……リンには爆笑され、アオイには冷たい目で見られてしまった。
確かにあのときはちょっと悪ノリした感じではあったけれど、
「というわけで都市に向かうように女神様に言われたので」
そう僕が言うとリンが少し黙ってから、
「ふーん、お姫様の呪いを解く、ね。確かに都市の城にいるお姫様には呪いがかかっているって聞いた事があったけれど……」
「じゃあその呪いを僕が解く事になるのかな?」
「ん~、なのかな~、アオイ、どう思う?」
「そうなんじゃない。私達には関係ないわ」
プイッとそっぽを向くアオイ。
僕の前で失敗したのをそんなに気に病んでいたのだろうかと僕が思っていると、リンが、
「アオイ、そういう態度は良くないぞ? 大体、アオイの魔法プログラムが“失敗”するのはいつもの事じゃない」
「な! そんな事はないわ。いざという時は発動しているもの」
「予定通りの炎じゃなくて氷だったり雷だったりその逆だったりしているあれだよね?」
「け、結果が全てなの!」
「だったら失敗したのも受けとめようよ。負けず嫌いというか、好みの男の子相手に意地張っているみたいだよ~、にまにまにま」
「リン、後で覚えていなさいよ。その帽子がどうなってもいいって事だと受け取ったわ」
「や~ん、アオイがいじめるぅ~」
女の子同士の会話を聞きながら、仲が良いな~と思っているとそこでアオイが深々と嘆息し、
「それで、ユウト。貴方、そのスコップで地面はもう掘ってみたの?」
「いや、まだだけど?」
「都市は石畳の道で掘るのは大変だからこの辺りで掘ってみたらどうかしら」
「あ、確かに」
言われてみればそうだなと思って、周りを見回しす。
そこそこ人通りのある道なので他の人の迷惑にならなそうな場所がいいと僕は思ったのだ。
というわけで邪魔にならない場所はどこだろうと探していると、少し進んだ場所に土の道がほんの少し森側にへこんでいる場所がある。
ここでいいかなと思ってそちらに向かい、背中にしょっていたスコップを取り出す。
そして僕はざくっと地面にスコップをつきたてた。
それから土を少し掘っていくと、カチンと硬い物がスコップの先に当たる。
さらにその周辺を掘り進めるとガラスの立方体の様な物が出てきた。
土を払い拾い上げて空を仰ぐように見ると、それは透明だと分かる。それを見たアオイが、
「なんだ、ただのガラスじゃない」
「そうなのかな?」
「ええ、私が言うのだから間違いないわ。何の魔力も感じないもの」
それほど価値がある物ではないらしい。
けれどそれは陽の光できらりと光る。
「……でも綺麗だからユナへのお土産にしよう。ユナはこういう綺麗なものが好きだし」
そう僕は今は風邪うんうん唸りながら眠っているであろう幼馴染を思い出しつつ呟いて、それを袋にしまったのだった。
そこはとある大きな屋敷にて。
「そろそろ私も大人げないし呪いを解こう。うん、そうしよう」
一人の女性がそう呟き、庭の土を掘る。
「確かこの辺の箱の中にあったはず。……あれ、軽い」
そう取り出した金属製の箱を訝しげに見ながら、軽く数度降って音がしないのを確認してから、おそるおそる開けた彼女は真っ蒼になる。
慌てたようにその埋めた場所を書いてある日記帳を見て彼女は更に蒼白になりながら、慌てたように周りを見渡してから空を仰ぎ見て、
「やばい、何で中身が無いの?」
と、一人呟いたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます