第6話(第一回、魔法戦に遭遇)

 輝くような満面の笑みを浮かべているアオイに、そんなに腕試しというか戦闘をしたいってどういう子なんだろう? 何だかな、と僕が思っているとそこで青いが、いそいそと彼女の持っているその豪華な装丁の本を空に掲げた。

 まるで伝説の武器! と言って、小枝か何かを掲げる演技をしているかのようだ。

 昔僕もやったな、今はもうそんなものは卒業してしまったが!

 といった優越感に浸っているとそこでアオイが自信満々といった声音で僕に、


「この私特製の魔導書グリモア、“タマちゃん、その3”の真の実力を見せてあげるわ!」

「……魔導書グリモア?」


 僕は聞いたことのない言葉に首を傾げる。

 どうやら彼女の掲げているあの“本”の事を、魔導書グリモアと呼んでいるらしい。

 自身のお気に入りの本に何か“特別”な思い入れがあるのだろうか?


 だから名前を付けている?

 僕からすれば、本は本以外の何物でもないと思う。

 僕の感覚からすると、確か村の小さな図書館には絵本と図鑑と、教科書とちょっとした文庫本が置いてあるだけで、彼女の持っているような凝った装丁の本は置かれていなかった。


 辺境の村にある図書館が充実している、とは言い切れない、というのもある。

 でも、魔導書グリモアなんて本があるなんて聞いたことがない。

 やはり彼女がお気に入りの本にそういった“呼称”をつけているだけなのか?


 そんな僕を見て、彼女、アオイは、


「あら、魔導書グリモアも知らないの? でもそれはそうでしょうね、これは特殊な魔法の一種だもの。使える者もこの世界にほとんどいない、特別な魔法……。色々な数ある魔法媒体の中でも数少ない、けれど強力な魔法が使えるものだもの! それに、魔法そのものを使える人間自体が少ないから、こんな高度な魔法に出会えるなんて都市の特別な場所か、たまたま特別な人に出会えないと知り事すらなかったでしょうね」

「はあ」

「そもそも貴方、スライムを吹き飛ばせるようなすごい武器のようなスコップと体を持っているようだけれど、魔法なんて使えないでしょう? 日常手金費などをつけるとかそういった魔法は、“魔法”とカウントしないわよ? おれに田舎出身みたいだしまともな魔法教育も……」

「使えますけれど」


 アオイが何やら上から目線で話し出した。

 どうやら魔法が使えるのが特別なので自慢しているらしい。

 ただこの物言い、幼馴染のユナが初対面の人に緊張して変なことを言っている(後でなんで私こんなことを言ったんだろう)といった事をやらかした時の表情に似ている。


 ともあれ、魔法が使えるのは事実なので僕は使えると告げた。

 すると彼女は陶酔したような表情から一転していぶかしそうに僕を見て、


「……魔法が?」

「はい」


 それに彼女はさきほどまでの得意げな様子を消し去り、じっと様子をうかがうようにさらに僕を見て、


「どんな魔法?」

「例えばこう、手をかざして『ファイヤー』というと出てくるような、根性で出すような魔法です。というか、魔法ってそういうものですよね?」

「……貴方、魔法使いの家系か何かかしら? 例えば都市から追われたような……」

「いえ、普通の農家です。あ、都市に雪トマトを売りに行ったりはしていますよ」

「……何だか貴方と話していると混乱してくるわ。まあいいわ、私の魔法の実験台になってくれるようだから、その程度の“嘘”は大目に見てあげましょう。そのスコップと私の魔法、どちらが優れているか勝負よ!」


 全部本当のことを話していたはずなのに、何故か嘘扱いされてしまった。

 酷いなと思っている僕の目の前で、アオイが持っていた本を開く。


「“タマちゃん、その3”、我が呼び声に応えよ、“三つの書”」


 それと同時に本の中から更に小さな文庫本のような本が三つほど光り輝くその本のページから現れる。

 本から本が増えていくので更にその文庫本から本が増えるのだろうか、と考えて僕は頭が痛くなってきたので考えるのをやめた。と、


「さあ、あの標的を攻撃しなさい!」


 そう告げると共に、三冊ほどの文庫本が僕の方に飛んできたのでとりあえず、“万能スコップ”を構えて、程よい位置に来た所で横になぐ。


カキーン


 三冊の本は、以前のスライムと同じように青空の彼方に飛んでいき星に……ならなかった。

 遠くへと飛んでいったその三冊の文庫本は、すぐさま引き返すように僕の方に飛んでくる。

 もう一度吹き飛ばすかと僕が思っているとそこで、


「何度打ち返しても無駄よ、標的を自動的に追尾する魔法が組こんであるもの」

「となると完全に破壊しないといけないってことかな」

「残念ね、貴方のスコップが届かないところから攻撃させてもらうわ! “開放せよ”」


 楽しそうなアオイの声とともに、その文庫本が自分からページを開き、そして。


ぽんっ


 空中の僕が手を伸ばせば届くような高さで止まったかと思うと、白い煙を出してその本の上には、


「クリームののったカップケーキ?」

「あ、あっ、それ、私のおやつ……そんな、炎を召喚するはずだったのに……」


 そう嘆くアオイを見ながら僕はその、ふわふわの生地の上に、白いクリームが絞り出されて、そこに葉っぱの形を模したチョコレートと緑色のナッツが飾られたカップケーキの一つに目を落として、


「一つ食べていいかな?」

「……勝手にして」


 地面に手をついていじけるアオイを見ながら僕は、その内の一つのカップケーキに手を伸ばしたのだった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る