第5話(謎の美少女達と遭遇、の巻)
女の子の声に僕が振り向くとそこにいたのは、二人の少女がいた。
僕に声をかけてきた方の少女は、緑色の髪を肩まで伸ばし、右側だけを三つ網にしている赤い瞳の少女で、頭に薄い緑色の帽子をかぶっている。
ニコニコと笑っていて活発そうで人懐こそうな印象の美人というよりは可愛いといった少女だった。
胸は小ぶりだが足が長いようにみえる。
でも幼馴染のユナよりは身長が大きいので、最近僕に対して身長に思う所があるらしいユナはよくそれに関してぶつぶつ言っていたので、ここにユナがいたら“敵”認定していることだろう。
そんなまだ風邪を引いて寝込んでいるであろう幼馴染に関しては置いておくとして、元気な感じの少女以外のもう一人は、不機嫌そうな背の低めの少女だ。
といっても湯女よりも少し低めなだけで、極端に小さいというわけではない。
髪の色は水色で、ゆるく三つ編みをしている。
瞳の色は赤く、肌は恐ろしいほどに白い。
そして胸がとても大きい。
この胸は確実に幼馴染のユナに“敵”認定されてしまうかもしれない。
そんな彼女の服装は柔らかいフリル付きの黒のケープとロングスカートで、手に本を持っている。
薄紫色の本に金色のつる草のような模様のついたどちらかというと厚めの本。
あれで殴られると結構痛いかもしれない。
鈍器としてはそこそこ使える部類だと思われる本だ。
ただ本は読むもので会って攻撃するものではない……のかな? と僕はこれまでの経験から首を傾げた。
それはいいとして、でもどちらも軽装で、武器を持っている様子がない。
しかも若い女の子の二人旅。
男ならまだしも女の子だけなのはやっぱり治安の関係でちょっと危険な所はあるという程度の常識は僕にはある。
うちの村の女の子たちは全員強いとはいえ、それでも心配されたりするのを僕も見たことがある。
それを考えるとやはり違和感がある。
なので変な二人組だなと思っているとそこで、先ほど声をかけてきた緑色の短髪の少女が赤い瞳を楽しそうに瞬かせて、
「でも私、スライムを倒さないで打ち返す人なんて初めて見たよ」
「そうなんですか? 駆除が面倒になると皆やっていましたが」
「……そういえば以前いた村で、何処からともなくスライムが降ってくる事件があったけれど、迷宮入りしちゃったんだよね。……まさか」
僕は沈黙することしか出来なかった。
僕の背中に冷や汗が吹き出すのを感じる。
いや、皆やっていたし。
倒すのが面倒くさかったし。
ぼ、僕だけが悪いわけではないというか……。
だがこのままさっきのことを突っ込まれると困る気がする。
なので話を変えて……この奇妙な二人について聞いてみようと思う。
「そ、それよりお二方は、武器を持っている様子が全くないですが、大丈夫なんですか?」
「うん、へーきへーき。だって、私の本体はこの帽子だし」
そういって、彼女は自分自身の薄緑色の帽子のつばの部分をぐっと引っ張ってみせる。
帽子が本体……本体は別だというような、どこかの悪役っぽい設定だがそういったお年ごろなのだろうと僕は思う。
まあ、もっとも僕は既にそれは卒業したから、生暖かい目で見守るだけだがな!
などと僕がささやかな優越感を感じながら、僕は頷いた。
そんな僕を見て彼女は、楽しそうに笑いながら、
「あれー、全然信じていない目をしている。ひどいな~、私、本当のことをいっているのに~」
「えっと、僕は確か武器について聞きましたよね?」
とりあえず心の中を見透かされたような気がした僕は焦りつつ、そちらに話を戻したけれどそこで、
「あ~、私ね、鋼線使いだから、見える場所に武器は持っていないんだ~」
「鋼線ですか? どんな武器なんですか?」
「硬い糸で相手を引き裂いたり、操ったり出来るのよ。……こんな風にね?」
にやっと笑った彼女だけれど、そこで僕の右腕がチクっとした。
でもそれだけだった。
蚊にでも指されたのかなと思うけれど特になんともない。
そもそも時期的に、蚊がいるとは思えないな気のせいかと僕が思っているとそこで、目の前の彼女が笑顔のままで凍りついた。
何でだろうなと思っていると、その笑顔のまま彼女が、
「あれ、今右腕を上げるように操ろうとしたはずなんだけれど、自分の意志に反してあげたくならない?」
「いえ、特には。ちくっとしただけで」
「う、え……変な子ね~。でもこれだけ強いなら、都市に行くんでしょう? 一緒に行かない?」
女の子に誘われてしまいました。
これはもう、いっしょに行くしか無いですね、と僕が思っているとそこで、
「私は嫌だわ。だってその子、私達よりも弱そうなんですもの」
「……弱くないです」
「じゃあ私のこの“本”よりも強いのか試させてくれたら考えてあげてもいいわ」
そこでその背の低い水色の三つ網少女が、挑戦するかのように赤い瞳を細めて挑発してくる。
それにもう一人の緑色の髪の少女が慌てたように、
「アオイ、ちょっと、いきなり喧嘩を売るのは……」
「いいじゃない。それに新しい魔法プログラムを試したかったし、貴方以外で相手にしてくれる人なんていないし」
「……お願いしてもいいかな?」
この水色の髪を三つ網にした赤い瞳の少女は、アオイというらしい。
そしてもう一人の緑色の髪の少女(未だに名前は不明)が謝る様に僕にいい、そう、すまなそうに言われてしまってどうしようかと思う。
どうやらアオイという彼女は僕と戦いたいらしい。
武器と言っても本しか持っていないようだったので、きっとあの本でぽかぽか殴るのだろう。
ユナみたいに強い力でやられるときついが、彼女の腕力なら大丈夫そうだ。
とりあえずはちょっとくらいなら相手をしてあげてもいいかなと僕は思ったので、
「いいですよ」
その答えに本を持った彼女、アオイは、今まで見たこともないような満面の笑みを浮かべたのだった。
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