第55話(貴方は“ヒーロー”になるの)
彼の掲げる硝子のような立方体。
どこかで見たことがあるというか、掘り当てたような気がした僕は、冷や汗を垂らす。
そこでその男が僕達の前で高らかに宣言した。
「“
「「「おおー」」」
そんな同じ服を着た彼らを見ながら、側にいる魔女エーデルに僕は、
「アレには人間をやめさせる力があるのですか?」
「あるわけ無いでしょうが。普通の人よりちょっと強くなるだけよ」
そんな魔女エーデルの声に、彼は笑い、
「どうやらまだ我々の力が分かっていないようだな。まずはそこにいる男から試してやる。どうやら魔法の才能があって、力が強いようだからな」
そう告げると共に、ミナトに向かって風が渦巻き、ミナトの体が弾き飛ばされる。
それを僕が走って受け止める前にユナがそれを捕まえて、どうにか立ったままでミナトを抱き上げた。
相変わらずユナは強い。
そして息をしているか確認して、ユナが大丈夫だというように指で丸を作り手で合図する。
それに安堵していると、気づけば先ほどのリンの遺体にあの男は近づいている。
笑っているその顔はとても醜悪だ。
だがそんな彼は、リンのすぐ側まで来ると怪訝な顔をした。
「……木の人形?」
この人は何を言っているのかと思って様子を見ている……正確にはどんな力を持っているのか想像がつかないため……と、そこで、死んだはずのリンの手が動いた。
その手はそのまま目の前の、自分に攻撃をした男の足を掴む。
「ぎゃあああああああ」
そのボスらしい男が悲鳴を上げて大きく足を動かす。
だがその手は振り払えない。
しかもそこでリンの頭がゆっくりと顔を上げていき、
「よーくーもーわーたーしーをーこーろーしーたーなぁー」
「ひ、ひぃいいいいい、このおおおおおお」
そこでリンの体に向かって風の魔法を放ち吹き飛ばす。
吹き飛んだリンの体は、ちょうど帽子をかぶった頭の部分が僕の所に飛んできたが、
「人形?」
「そ、だから帽子が“本体”だってずっと言っていたでしょう? ただ、いまので手足が吹き飛ばされちゃったから、ちょっとお手伝いできないや」
ははっと笑うリン。
だがそこでアオイが近づいてきて僕から、リンの体を取り上げて怒ったように、
「……心配させないでよ」
「ごめんごめん、親友。まあ、そういうわけだから、今魔女エーデルはそこのお姫様の守護で手一杯みたいで、後残っているのはユウト、貴方だけ」
「つまり?」
「頑張って一人でアイツを倒せば……貴方は“ヒーロー”になるの、どう? やってみたいでしょう?」
「もちろん!」
そう答えて僕は、スコップをようやく取り出してとりあえずは構えてみる。
目の前のあのボスらしき男は、警戒するように僕を見ている。
先ほどの異常な現象も有るが、やはりこの武器っぽいものを構えているのが危険に見えるのだろう。
そう思っているとそこでその、強くなった男は何かに気付いたらしく笑いながら、
「……そうだな。そう。別にお前達を倒す必要はない。この力をそう、あの忌々しい都市の人間たちに知らしめてしまえば、それでこちらのものだ!」
そんな言葉を吐きながら血走った目で何か呪文を唱え始める。
彼らにとって僕達は警戒すべき巨大な的なのだろう。
そして僕はその男に向かって走りだす。
だがそれはほんの少し遅くて、距離が長すぎて……。
「“白き輝ける柱”」
そう彼が呟くと同時に、僕から少しそれた位置に向かってそれを放つ。
白い直進性の“何か”の“悪意”を持つその力はまっすぐに光り輝きながら放たれた。
けれどその僕から少しずれたその位置は、僕にとってとても丁度いい位置だった。
それこそ、スライムを吹き飛ばすのにちょうどいいようなその場所!
その幸運な偶然に感謝しながら僕は、スコップを振るったのだった。
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