第30話(キラキラした瞳で)
魔女エーデルが取り囲まれている。
周りには自分たちの顔を隠すようにした人物たちが取り囲んでいる。
杖のようなものを持った人物、剣を持った人物など、各々武器を持っていて、見ている限り物騒な集団だなという感じではある。
そこで楽しそうに何かをやろうとしている魔女エーデルが、腕を宙へと高く上げた所で僕は、
「エーデルさん、大きな魔法を使うとここが崩れて他の人達が巻き添えになります」
「……面倒ね。わかったわ」
そう答えると、少し不機嫌になった魔女エーデル。
同時に一斉に囲んだ彼らがエーデルに向かって炎の魔法を放つ。
どうやら武器も持っているが、ここにいる人物全員魔法使いではあるようだった。
よくよく考えれば、魔法使いだからと言って武器を持たない理由もないので当然かもしれない。
だが一斉に炎を放つも、魔女エーデルは全てを防ぐ。
そしてその場で空高く飛び上がって僕達の目の前に着地して、
「私、手加減なんかはあまり出来ないのでお任せしていいかしら。危険そうになったら援護するから」
「はあ、分かりました。とりあえずはこの“万能スコップ”の力も見てみたいので、これで適当に殴っていきますね」
「そう? よろしくね~」
魔女エーデルが適当な感じに応援してくる。
先ほどまでやる気満々だったというのに……もしかして面倒くさくなったのだろうか? と思わなくはない。
何だかな、と思いながらもようやく出番が回ってきたので、スコップを手に持ち。
まずは炎の玉のようなものをこちらに投げつけてくる魔法使いらしき男の方に向かって、とりあえず横にスコップを凪ぐ。
小さな手応えだが、スライムほどの小気味の良い音などせずに火の玉が打ち返された。と、
「あちゃつゃちゃちゃ……ごふっ」
打ち返した魔法がその男の髪に燃え移り、彼は悲鳴を上げている。
その油断を突いて僕はその魔法を使って攻撃してきた相手をスコップで思いっきり殴った。
大きな音がして不安になったが、多分大丈夫。
そして倒れるその人物だが、女神様が命に別条はない状態にしてくれているので思う存分手加減なしで他の人物たちも叩く。
手加減を考えずにすむのは楽でいい。
ただ一つ、僕が気になるのは、
「叩いた瞬間、この人から黒いものが出てきた気がするんだよな」
『それはそうよ~、だってその子達の邪念だもの』
何処からともなく女神様の声がした。
だがその“邪念”とやらが何なのかが分からないので、
「女神様“邪念”とは何ですか~」
『そうね、悪い行動をしようとする“意思”のようなものよ』
「悪い感情とか思想みたいなものですか?」
『そうそう。それで、スコップで叩くと改心して、キラキラした瞳で慈善活動をしたり、教会に寄付したり、敬虔な私への信者になったりするのよ~』
楽しそうに話す女神様だが、何となく洗脳されているんじゃないかと僕は思ったけれど、悪いことをしないならまあいいやと放置することにした。
人に迷惑をかけないようになるのはいい事なのだから。
そしてスコップで殴ること数回、他の人達が残りを倒したので軽くスコップでつついてそのへんな何かを放出させていく。
アオイが調子に乗って魔法を使おうとした所、失敗して、一角を氷まみれにしていたり、剣を使う姫様とあの鍋を使うメイド達が意外に強かったり、ミナトは静かに全員を魔法でボコボコにしていたりといい感じで全員倒し終えた所で。
倒すだけ倒した僕は女神様に、
「そういえばこの人達を連れて行くとどうなるんですか?」
『賞金がもらえるわよ~。でも連れて行くのが面倒なら、入り口の管理室のところに行ってお願いすれば終わりだと思うわ』
といった女神様のアドバイスから、僕達はその場を離れて入り口へ。
事情を話すと管理人の人は焦ったようだった。
すぐさま都市と連絡を取り、彼らを回収しに来るらしい。
一応倒した相手は逃げられないように縄で縛っておいたが……女神様の言うスコップの効果を考えると逃げ出すことはないんじゃないかという気がした。
ちなみに賞金は後で僕の泊まっている宿に持ってきてくれるらしい。
結局はちょっとした遠足気分な採取と戦闘でどうにかなってしまったのだけれど、その帰り道、魔女エーデルが、
「何でこんな若い子達がこんなに戦闘能力が高いのかしら」
「? そうなのですか?」
僕が聞くと、魔女エーデルがまじまじと僕を見て、
「そうね、“これ”がいるから周りに変なものが集まってくるのね」
「でもそうなると、エーデルさんも変なものの仲間入りになりますよ?」
「……強いものには強いものが集まるということね!」
魔女エーデルはそう前言を翻したのだった。
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