第37話(とあるお店にやってきた)
そんなこんなでデザートをみんなで楽しんだ僕たちは、馬車に乗り宿に戻る。
行き徒歩でそこそこ時間がかかったが、馬車で移動するとずっと早く着いた。
これならば今度から馬車に乗った方が良いかもしれない。
そして都市に僕たちは戻ってきた。
空はオレンジ色というとても美味しそうな色をしている、そう思いながら僕は本日の夕食はどうしようかと思って一度宿に戻ってから少し休憩をして、
「そういえばよさそうなお店をアオイ達に聞いておくのを忘れた。まあいいか。今度はいつもと違う道を歩いてみよう」
という事でこれまで行ったことのない(と思われる)道を向かう。
夜の街灯などに照らされた繁華街で、飲食店が軒を連ねる人の多い場所だった。
歩き出してすぐに本日はサービスDAYと書かれた看板を見つける。
ステーキのお店だった。
出されている看板に添えられたステーキの写真は厚切りのお肉が美味しそうに写されていて、実際にこれくらいの厚さですと書かれている。
そんなお店で、しかも外に出ていても分かるくらいに漂うお肉を焼く香ばしい匂いに引かれてふらふらと引かれるように僕が中に入ると、僕は声をかけられた。
「あら、ユウトじゃない。何でここにいるの?」
「いえ、お肉が安い日だったので」
入口近くに陣取っていた魔女エーデルと遭遇。
外に出ていた看板にひかれてきましたと答えると、なるほど、目の付け所が違うわねとエーデルが楽しそうに笑った。
そして、一緒に食べていいですかと聞くと、良いわよと魔女エーデルは言う。
なので同じ席に……向かい合う席に座る。
現在注文したばかりらしく、まだ彼女の前には何も来ていない。
とりあえずはメニューの紙を見ながら即座に決めた僕は、店員さんを呼び、
「“ハブモブ牛”のこのステーキで」
「はい。お飲物は何になさいますか?」
「“もちさくらんぼの炭酸”で」
「“もちさくらんぼの炭酸”ですね。デザートは何になさいますか?」
「そうですね、チーズケーキのスターブルーベーリーソースがけで」
「かしこまりました、チーズケーキですね」
といった会話をして注文しておく。
それが終わってから僕は魔女エーデルの変な視線に気づいた。
「どうかしましたか?」
「男の子なのに、そんな薄い肉でいいの? もう少し厚切りのお肉になるように追加しておいた方がいいんじゃないかしら」
「そこそこ厚かったと思いますが……もしやエーデルさんはもっと分厚い肉を?」
「当然でしょう? 安く食べられるんだから、お腹が許すくらいまで一杯食べないと」
「ダイエットは……」
「聞こえないわ」
即答する魔女エーデル。
そこで肉を焼く時間の差があるのだろう、僕の肉が薄め? だったのもあるのかもしれない、焼かれた肉が運ばれてきたのは同時だった。
それに“三又山葵のショウユーソース”と“果実ソース”の二種類のしょっぱいソースを選んでかけて食べていた。
添えられていたマッシュポテトも美味しい。
肉汁が染みていてそれもまた……そう僕が思っているとそこで魔女エーデルが、僕の三倍の厚さはある肉の塊にフォークをつきたてながら、
「でも、アルバ村出身てことは私の事は知っていたはずよね。その割に、何というかこう……」
「? 何がですか?」
「敵対的じゃないというか」
そう魔女エーデルが少し眉を寄せて言うので僕は首をかしげて、
「なんでですか?」
そう聞き返す。
するとさらに魔女エーデルは変な顔になって、
「貴方、魔女エーデルが世間でどう言われているか知らないの?」
「ドジっ娘な伝説の美女、あとエロ要員」
「……」
僕は今迄に聞いていた話を大まかにまとめて口にした。
すると魔女エーデルが沈黙して、それからふうと大きく息を吐き、
「普段から貴方達、アルバ村の住人が私の事をそう見ていたか、よく分かったわ」
「でもよく、失敗してエロい事になっていたんですよね?」
「! 違うわよ! 何かあそこの村の男と関わると、服が破けるような目に毎回あっていただけ……しかも調子に乗ってなんか悪戯していたら、何処からともなくあいつらが来るし。特に、メイサの奴って……」
「メイサさんが何かしたんですか?」
「毎回毎回私が何かしようとすると邪魔したり……まあ、時々助けてくれたりはしていたけれどね」
「それは魔女エーデルが好きだったから、当然ですよね」
そこまで話すと、魔女エーデルは変な顔をして、
「誰が、誰を?」
「メイサさんが、魔女エーデルを」
「きっと気のせいね。はい、この話は終わり」
そう言いながら、魔女エーデルはやけ食いでもするかのようにお肉を食べていたのだった。
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