第33話(湖にて)
都市近郊は畑が多い。
建物が密集している場所を抜けていくと段々に背の高い建物がなくなっていって、やがて都市の外に出て畑……となるのだ。
都市の周りにはたくさんの畑が続いていて、この時期に実のる作物が実っていたり、場所によっては休ませている畑も見て取れる。
けれど魔法などを使って、温かい部屋などを作り、季節に関係なく野菜や果物も作っているようだった。
なんでも都市の需要をある程度まかなえるだけの作物が必要だから当然だけれど、最近では冷蔵技術が発達して地方からも食べ物が沢山流入しているそうだ。
うちの村からも雪トマトを持って行って売っていたので、その話は僕もよく知っている。
さて、そんな道を歩いて行く道中。
当然だが魔物と幾度となく遭遇する羽目になった。
というわけで次から次へと現れるスライムをスコップで打ち返して、僕は魔女エーデルに叩かれたり、他にも狼のような魔物が現れたりしたがリンやミナト、アオイ、姫やミミカが適当に倒した。
そんなこんなで周りの様子を見ながらハイキング……のような、いつもよりも魔物が現れているような気がするな、といった話をしつつ、木々に囲まれた土の道を行くこと二時間。
途中、何台かの馬車が走って行くのが見えたが(実は馬車の速度は速いため、魔物が大抵追いつけなかったりする)、湖まであと少しというところで僕は魔女エーデルに聞いてみた。
「あの、エーデルさん。何で馬車を使わなかったのですか?」
「ダイエットのためよ」
「……」
魔女エーデルが即答した。
僕は沈黙した。
十分細い気がするが、それでも満足いかないらしい。
すると魔女エーデルが更に、
「最近ちょっと体が鈍っちゃって、少しでも運動を取り入れないと。それにこれだけ歩けば、お昼は揚げ物でもいいでしょ?」
「……そうですか」
「何よその冷たい視線は。私だって色々あるんだからね!」
とりあえずダイエットが理由で馬車には乗らず時間をかけてここまで来たらしい。
それ以上突っ込むのをやめた僕は、そのまま湖の畔にまでやってくる。
貸しボートの店や、食事関連のお店がいくつも並び、少し離れた所には泊まれるらしい木製の無個性なコテージが並んでいる。
他にもバーベキューをやる広場のようなものがある。
そのすぐ側にはバーベキューの材料も売るとともに装置も貸出をしているようだった。
観光地と化したここだが、まだお昼前であるせいか、湖の直ぐ側で釣りをしたりボートで遊んだりしている。
なので水辺のレストランは、どこも人がまばらだった。
というわけで僕は提案をしてみる。
「少し早いのですが、お昼にしませんか? 混む前に食べてから散策しに行った方がいい気がします」
それに反対の意見はなかった。
さすが観光地の食事だけあってお値段がちょっとはる。
けれど新鮮なお魚で作った料理は美味しそうだ。
「塩を振って焼いただけのお魚も、七本追加で」
ランチセットに追加するように僕は告げた。
僕とヒナタ姫とメイドのミミカ、リンがランチセットAの、白身魚のフライを選択した。
このすぐそばの湖でとれる、“銀色鱗の魚”という、味は淡白だが旨味の濃縮された美味しい白身魚のフライにトマトソースとタルタルソースがかかったものを選択する。
また、アオイと魔女エーデル、ミナトの三人はランチセットBという、煮魚のセットだ。
甘辛い味付けで照り焼きにされた“虹色魚”もここの湖の名物らしい。
飲み物は、金色オレンジのジュースを全員が選択した。
ちょうど今が果実収穫の時期で、生の搾りたてのジュースが飲めるらしいのだ。
この湖の周辺には、金色オレンジの果実畑が西側に広がっているのである。
ちなみに僕達が目指すのは東側だが。
そこには果樹園などはない。
ただ森と山が広がっているくらいではある。
そうこうしている内に料理が運ばれてくる、
サクッと揚げられた魚のフライは熱々で、口の中に入れるとほどけていく。
揚げ物自体に下味が付いているのでそのままでも美味しいのだが、ソースとからめるとまた違った味わいでそれも美味しい。
他の皆も美味しいと喜んでいた。
そして食事を終えた僕達は、土産物屋でちょっとしたお菓子を購入して、魔女エーデルについて湖の東側に向かったのだった。
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