第15話(女神様の知っている“事実”)

 何処からともなく聞こえた女性の声。

 周りを見回しても人影はない。

 僕としてはあの教会で聞こえた声、つまりスコップをくれた人と同じ声なので、あまり不思議さは感じなかった。


 女神様と名乗っていて、すごく良い物は拾えないけれど、この“万能スコップ”をくれた人物である。

 しかも都市に来たら、“お姫様鬼ごっこ”という今まで遭遇した事のないイベントに出会ったのだ。

 結局、お姫様の呪いを解くために誘導してくれていたわけで、だから本当に女神様なのだろうと僕は思う。


 だが周りの女子達(リン以外)はそれが恐ろしいようだ。

 どこからともなく謎の女性の声がする。

 彼女たちからするとそうなのかもしれない。


 すぐさまメイドのミミカが部屋の出入口となるドアに近づき勢い良く引っ張る。

 自身の体重をかけて、次に身体を強化して引いている。

 だが、開かない。


「く、ドアが駄目なら窓を」


 焦ったように窓に近づき開こうとするが、同じく体重などをかけても、外の光景は見えるものの窓が開かず、出ることが出来ない。


「く、このっ、このっ」


 ミミカが窓を押したりするるけれど軋む音すら出すことが出来ない。

 完全にこの部屋から出られなくなっているようだった。

 そこでクスクスといった笑い声が再び聞こえて、


『無駄よ、無駄。現在貴方のいるその部屋を空間的に断絶させているから、私が“許可”を出さない限り、この部屋から外にでることは出来ないわ。この私、女神ティラスの言葉に嘘はなくてよ』

「これはもう、女神様を騙る、魑魅魍魎の仕業!」


 ミミカがそう宣言するとともに、何処からともなく本が現れてミミカの頭にあたった。

 五センチくらいのある厚さの本で、これは当たると痛いだろうなという代物であり、なかなかいい音がした気がする。

 実際にそれが痛かったらしく頭の当たった部分を手で撫でる。


 一方その本を目撃したアオイが、がたっと驚いたように音を立てて席を立つ。

 わなわなと震えている様子を見ると、いったいどうしたのだろうと思う。

 アオイの視線はその本に注がれており、そこで彼女が、


「それは伝説の魔導書“クッキーマジック”。まさかこんな所で出会えるなんて……貰ってもいいですか?」

複製コピー本だから好きにしていいわよ』

「ありがとうございます、女神様!」


 幸せそうに本を拾い上げて抱きしめるアオイ。

 その本は魔法使いにとってとても貴重なものなのだろう。

 アオイはすごく幸せそうな顔をしている。


 けれどミミカはこの展開に、余計納得できなかったらしく、


「こんな事をするのならますます……」

『じゃあ貴方達しか知り得ない情報をバラすわね。実は貴方がメイドとして選ばれたのは筆記試験ではなくて、ヒナタ姫の姿を見てすっごい美少女とつい声に出し、どんな髪の色かも正確に表現できたために即座に採用になったのよね~。ちなみに筆記試験の点数は百点満中十五点……』

「はわわわわわわ」


 ミミカが顔を真赤にして頭を抱えるように座り込む

 そのまま沈黙してプルプルしている。

 図星であったらしい。


 今ので心を折られたのかミミカはそれ以上動けずにいるようだった。

 これでどうやらミミカは静かになったようだ。

 なので僕としては聞かなければならないことがあったので、聞いてみた。


「それで女神様、これからどうしましょうか。この後の予定は聞いていないのですが」

『そうね、お姫様の呪いをとくために魔女に会いに行くのが一番かもね』

「魔女ですか? 今その人は何処にいるんですか?」

『そうね……多分あの子、今都市にいると思う。理由はまだ秘密にしておいたほうが面白そうだから、そうしておくわね』


 適当な感じに女神様がいう。

 このまま観光がてらうろついて探すのでいいのですか? と僕が聞くといいわよと女神様が答える。

 どうやら都市観光を楽しんだりしながら目的の魔女を探してもいいらしい。


 なのでこれからは都市観光が僕の主の行動になりそうだなと僕が思っているとそこでヒナタ姫が、


「あの、女神様。では、私の呪いを解いていただけれのですか?」

『ええ。そろそろ特手伝いをしてもいいかなと思ったから、ちょうどユウトちゃんが春休みにでっかいことがしたいって言うから、その子に話を持っていったのよ~』

「よろしくお願いします、ユウト様」


 そういったヒナタ姫が僕に近づいてきて手を握る。

 何となく頑張らなくちゃいけない気がした。

 と、そこでリンが、


「どうしましょう、私も付いて行ったほうがいいかな?」


 困った様に頬をかきながら告げる。そのリンの問いかけに女神様が、


『ん? リンは好きにしていいわよ? そういう約束だったし』

「じゃあ、付いて行ったほうが面白そうだったのでついていきます」


 そう答えるリンだけれど、僕はリンが女神様と知り合いだなんて知らなかった。

 あとで詳しく聞いてみようと僕が決めていると、


『そうそう、最後に付け加えていくけれど、悪いことを考えている人達もいるから、適当にのしちゃってね』


 フラグっぽい何かを告げつつ、がんばってね~、と言った軽い言葉とともに、女神様の声はそれ以上聞こえなくなったのだった。


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