第11話(こうこうでびゅー)

 会場にはすでに多くの男性が集まっていた。

 大きな建物で村の集会場とは比べ物にならない広い空間のある建物だった。

 何となく上を見上げると、ドーム状になっている。


 普段はスポーツ等の競技がされる場所として開放されているらしい。

 入り口付近にテーブルがありそこに案内の地図などの紙と共に、検問所でもらったものを見せる。

 そこでさらに、性別と名前などを確認されて、武器などを携帯していないか確認が行われた。

 一応はお姫様が出てくるので、そのあたりの確認された。


 とはいうものの町の外に出ると魔物との遭遇率が格段に上がるため、日常生活でも都市だけに住んでいるという者でなければ武器は必要でもあった……らしい。

 そこまで武器が必要とは僕は知らなかったのはいいとして。


 武器を持っていた場合は係の人に預かってもらうことになった。

 このスコップは伝説の“万能スコップ”であるらしいのだけれど、預かり係の人に、


「ではこのスコップは預かっておきますね」

「あ、はい」


 こ、これは伝説の……といってクワッと目を開かれたりせずに、側にあったロッカーらしき場所にスコップは放り込まれてしまった。

 見ただけでそういった“伝説の~”が分かるわけではないらしい。

 うん、世の中ってそんなものだよなと思いながら、その会場と称される競技場のような建物の中に入ると、


「いやだ、いやだ、いやだいやだいやだ……いやだ、いやだぁあああああああ」

「見たくない、見るのも嫌だ、あんなおぞましい……何故、どうしてこんな事に、俺が一体何をしたっていうんだ……」

「帰りたい、もう帰りたいよぅうう、いやだ、ベッドに寝たいぃいいい」


 そこかしこで、真っ青になりながら震える男達。

 僕よりも年上もいれば年下もいる。

 だが全員の表情が暗い。


 ほとんどが俯いているように見える。

 何かに絶望して、神様にひたすら祈っている男もいる。

 それほどまでにそのお姫様が恐ろしい存在に見えるのだろうか。


「見えるんだろうな……さっきから姫さまには会いたくない会いたくないって、色々な所から聞こえているし」

「おや、平気そうな人物が一人」


 そこで僕を見て誰かがそういった。

 いたのは金髪に緑色の瞳をした笑顔が眩しい男だった。

 歳は同い年くらい。 


 都会風の優男なイケメンである彼だが、ここではやけに元気そうだ。

 どうしてだろう、もしかして“お姫様”の本当の姿が見える人だからだろうかと僕が思って、


「あの、周りの人達みたいに悲鳴を上げたりしないんですか?」

「大丈夫さ! 俺の場合、お姫様を見た瞬間気絶して脳内からすべての記憶を消去しているから、顔は全く覚えていないし今日だって見た瞬間気絶する自信があるぜ!」


 白い歯をキラリと輝かせながら、自信満々にその人物は言い切った。

 変な人だなと僕が率直な感想を覚えているとそこで、


「いやー、実は同い年ぐらいの男がいるかどうか探していたんだ」

「はあ、何でですか?」

「なんというか、もうすぐ高校生だから、高校デビューでイケメンで社交的なリア充を目指すことにしたから、まずはリハビリ代わりに同い年らしい人に話しかけることにしたんだ」

「……そうなんですか、僕も今度高校に入るんですよ」

「え、そうなの? 何処?」

「マズールカ学園です」

「同じじゃないか! じゃあ同じ学校の同級生になるんだな。俺はミナト・サカイ。よろしく」

「ユウト・ヤマダです。今日は……観光目的でここに来たら参加させられることに」

「それは災難だったな。まあお姫様は優しいから気絶した人間は放置してくれるから大丈夫だぞ」

「そうなのですか」


 気絶すること前提で話を進めていくミナトに、僕は何だかなと思う。

 それともそういったことはよくあることなのだろうか。

 周りを見回してみると、人を運ぶ担架が幾つも建てかけられ、看護婦や医者などが準備している。


 よくある話という線が濃厚だ。

 これでいつ倒れても全く問題ないらしい。

 とりあえずは開催時間がそれほど長くないので、さっさと終わらせて博物館に行こうと思っているとそこでミナトが、


「それで都市観光って、田舎から出てきたばかりなのか? だったら案内しようか?」

「え、えっと、既に女の子二人に案内してもらうことに」

「女の子!」

「はい、女の子です」

「……ぜひ一緒に行かせてください。女の子とお近づきになりたいです」

「……彼女達がいいというのであれば」

「よっしゃー」


 喜びの雄叫びを上げるミナトを見つつ、この人は正直すぎないだろうかと僕が思っているとそこで、


「えー、では本日の“お姫様鬼ごっこ”を開始します。まずは、姫様の登場です!」


 それと同時に、ある一箇所の入り口が開かれ、高級そうなドレスを纏った人物とそれに付き添うメイドが姿を現したのだった。

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