第10話(お姫様にかかっている呪いについて)

 高い石造りの城壁に囲まれた都市にて。

 検問で年齢確認をされた僕は、そこであるイベントに出ることになってしまった。

 そういえば女神様も都市でイベントがどうのと言っていた気がする。


 どういったものかをもっと詳しく聞いておいた方が世勝田かもしれない。

 なんでも、“お姫様鬼ごっこ”なる物に出場させられるらしい。

 それは僕の年齢では強制なのだそうだ。

 

 時々都市には野菜を売りに来たが……そういった話は一切出てこなかった。

 偶然重ならなかったらしい。

 丁度、年に来たのは運が悪かったねと検問の人に僕は言われ、


「都市内の特定区間内を逃げ回るだけでいいから。……姫様も性格だけはお優しい方だから、本気で嫌がれば逃がしてくれると思うから安心すると良い」


 という都市に入る為の審査をしているおじさんが、とても気の毒そうに僕に告げた。

 どんなものなのだろうと僕は不安を覚えた。

 一応は、そのイベントに参加するために集まるための、指定された場所の地図を貰ったのだけれど、都市の城壁の内部の町に入ってからアオイとリンが待っていてくれたので、検問の人に言われた話をしておくことにした。


「僕、“お姫様鬼ごっこ”に出ないといけないらしい」

「……アオイ、そういえば今日だったっけ」

「そうね、今日だったわね……私も忘れていたわ。く、私とした事が」


 嘆息するアオイにリンが楽しそうに笑う。

 今まで都市に来てそんなイベントに出会ったことはなかった。

 年齢が若かったのもあるだろうが、いつもなら雪トマトの販売をしてちょっと観光をして終わりだったから偶然遭遇しなかったからなのかもしれない。

 

 そもそもこのイベントの名前すら僕は聞いたことがなかった。

 というかこのイベントが何なのか分からない僕は、


「この“お姫様鬼ごっこ”って何をするんですか?」


 それに答えてくれたのは、楽しそうに笑うリンだった。


「その名の通り、この国の呪いがかかったお姫様が男性を追いかけ回すイベントだよ?」

「それって、男性にとって凄く嬉しい事なのでは?」


 お姫様に追いかけられるのは普通は嬉しい様な気がする。

 女の子と鬼ごっこをして、女の子い追いかけられるのは結構楽しい。

 でも幼馴染のユナは結構本気で捕まえに来たのでちょっと怖かった気がするが。


 なので僕は思ったとおり、素直に答える。

 けれどその答えにリンが更に笑みを深くして、


「それが違うんだよね、ユウトはお姫様の“呪い”がどんなものか知っているかな?」

「いえ、呪いにかかったとしか聞いた事がありません」

「そっか、じゃあ、その呪いについて説明するけれど、なんと! 男性がそのお姫様を見ると、その男性にとってこの世で一番関わりたくない、即座に逃げ出したいと思うような、名状しがたき男性の存在に見えるというものなの」

「……女性なのに男性に見えるのですか?」

「そうなの。因みに女性だと、とても理想的な男性に見えるらしいわよ、ね、アオイ」


 そこでアオイに話をふったリンだが、アオイがそのリンの言葉に顔を真っ赤にして、


「何で私に言うのよ」

「だって、その王女様の追っかけみたいな事を前にやっていたじゃない。凄くカッコイイって」

「う、うぐ」

「今日も見ていくんでしょ? 良さそうな見物場所探しに行かないとね。いい場所はすぐに埋まっちゃうし」

「べ、別に……」

「ユウトがそれに出るんだったら、私達案内する約束しているから終わるまで時間をつぶさないといけないし」

「そうね、それだから仕方がないわね。ユウトを待たないといけないんですもの」


 良い口実を得たかのように、アオイが笑う。

 とても楽しそうだ。

 女の子にはそんな魅力的な男性に見えるのか、そのお姫様はと思いつつ僕は気づいた。


「リンはあまり興味が無いようにみえる」

「ん? ああ、私の場合は、お姫様の“呪い”が効かないからね。普通の美少女にしか見えないの。そういう人はまれにいるらしいわよ?」

「そうなんだ」

「そういう“体質”みたいなものなの。多分この帽子が本体だからでしょうね」


 ニマッと笑って冗談をいうリン。

 相変わらず帽子が本体だと冗談を言っている。

 そんなリンに話していると楽しくなる女性だなと僕は思いつつ、


「でもそんな恐ろしい男性の姿に見えるのですか」

「ええ、何でも昔その魔女と一人の男、つまり現国王を取り合って魔女が負けて、女の子が生まれたら将来女の子にモテモテな呪いをかけてやる! と捨て台詞を放って、その後実行しちゃったからね」

「……それが何で男に見える呪い?」

「いや、その呪いの副作用らしくて。それで側にいられる男性は家族くらいしかいなくて大変らしいわ。将来の結婚も男性は無理だから女性にしようかという話にもなっているしね。何しろ男性に見えるからといっても、同性愛好者の男性にも悲鳴を上げて逃げられるらしいから」

「……大変ですね」

「そうね。でも何処かに姫様を見ても逃げない、そういった呪いの効かない男性がいるんじゃないか、ということでこのイベントが行われているの。まあ、全力で逃げると追ってはこない優しい性格のお姫様だから、大丈夫だと思うよ」

「でもそのお姫様の呪いを解くことを僕はしないといけないかもしれないんですよね?」

「女神様の話が本当ならね。と、そろそろ時間になるだろうからいったほうがいいよ? 遅れたり出場できなかったりすると、場合によっては罰金だし」

「はい、えっとそれで終わったら何処で待ち合わせに?」

「そうね……そこの喫茶店でどう?」


 リンの指差す先にちょっと変わった看板のかかった喫茶店がある。

 兎が二匹、人参を食べている看板だ。

 何でも人参ケーキが自慢のお店らしい。


 ヘルシーでカロリーが少ないので女の子にはうってつけなのだそうだ。

 そして僕はその看板を見て、僕はではああそこで、といった約束をし会場に向かったのだった。

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