第16話(べ、別にこの程度……)

 そんなこんなで都市観光に行くこととなった。

 今日は結構早めに“お姫様鬼ごっこ”とお姫様との会話が終わったので、都市を案内してもらう兼魔女探しをすることになった。

 ヒナタ姫は当然だが一緒には来ない。


 こうして挨拶をして僕たちは分かれたのだけれど、そこで帰り際にヒナタ姫に、


「父と母にはユウトさんのことを私からお話しておきます。そして呪いを解いて頂くお手伝いを、私からもさせていただきたいと思います。私自身の呪いですから」


 そう僕達にヒナタ姫は優しげなほほえみを浮かべて言う。

 でもヒナタ姫のお手伝いというのは、資金や武器、情報の援助だろうか?

 そんな危険な相手なのだろうか? 魔女エーデルは。


 前に話を聞いた時にはそんな風には聞こえなかったけれど、他で何か悪さをしていたのだろうか?

 でもお姫様にこんな呪いをかけたわけだし……と僕は少し悩んだが、考えても分からないのですぐに考えるのを止めた。

 ちなみにこの時、側にいたメイドのミミカがぎょっとしているのが気になるが、ヒナタ姫は優しげに微笑み、そこでさらに僕に、


「どちらにお泊りになられているのか、お聞きしてもよろしいですか?」

「え、えっと、まだ決まってなくて……アオイ、何処か安くて滞在しやすそうな宿をしらない?」


 泊まる宿もまだ決めていなかった。

 どこにいい宿があるのかも僕にはよく分からない。 

 そもそも都市にきた数回は、父が宿を決めていたので僕はほとんど覚えていないのである。


 ではどこの宿に泊まろう、とりあえず大まかな予定でも立てられればヒナタ姫に話せる。

 なのでおすすめの宿がないか僕が聞くと、アオイがうーんと唸ってから、


「そうね、魔法学博物館に近い“くろっく”という宿が食事も美味しくておねだんもリーズナブルだったはず」

「一泊いくら位?」

「食事なしで、一泊5000コールドよ」

「よし、足りるからそこに決定だな」

「でも良い宿だから今くらいの時間に早めに宿は取っておいたほうがいいかも。夜は混むし」

「分かった。魔法博物館に行く前にそこの宿をとっておこう。ありがとう、アオイ」

「べ、別にこの程度……お礼を言われるほどじゃないし」


 アオイにふいっとそっぽを向かれてしまう。

 こう見えて恥ずかしがり屋なようだ。

 そこでそんな僕達を微笑ましそうに見ていたヒナタ姫に気付いて、


「あ、ヒナタ姫、その“クロック”という宿に泊まっています」

「はい、ではそちらの方で後ほど」


 後で何かを届けさせるということなのだろう。

 お姫様が自分から僕の宿に来る方がおかしいし。

 でもいったい何を寄こすのだろう? 今後の進捗報告を記載する紙とか? そう僕は考えて首を傾げた。


 けれどヒナタ姫は僕にそう告げて話を終わらせてしまったため、それ以上話すこともなく、僕たちはその場を後にしたのだった。








 そういえばスコップを会場から、まだ返してもらっていなかったのでそちらに向かう。と、


「ユウト、大丈夫だったか?」


 そこで会場で会った同い年くらいのイケメンが僕に声をかけてくる。

 倒れていたはずなのに、何事もなかったかのように元気に見えるが一応、僕は聞いてみた。


「あ、ミナトの方こそ大丈夫だったか?」

「ああ、いつもの様に気絶しただけ……うわっ、何でお前がここにいるんだ」


 ミナトがアオイの顔を見てそう言い出した。

 だがアオイの方もむっとしたように顔をしかめて、


「それはこちらの台詞だわ。何でここにいるのよ」

「俺は高校デビューを目指して、友達一号をゲットしようと……」

「つまり、ユウトに友達になってもらおうと声をかけたわけね。そして何でそんなさわやかな少年みたいな感じになっているのよ」

「だから俺は新しい俺を目指したんだ! ああ、女の子が二人いるって聞いたのに片方がアオイなんて……」


 どうやら知り合いらしい二人なので、僕はミナトに、


「知り合い?」

「幼馴染だ。だが、朝起こしに来てくれたり、たまに御飯作ってくれたり、この服かわいいでしょうみたいに見せに来たりしない、そんな味も素っ気もない幼馴染なんだ」

「え? 女の子の幼馴染ってそういうことをしてこないんですか?」


 幼馴染のユナは、ややツンデレがかっていたがそんな感じだったのになと僕が思っていると、


「畜生、羨ましい、羨ましすぎて嫉妬すらわかない~」


 いじけているミナトにそこでアオイが嘆息して、


「そうやって勝手にいじけるのはいいけれど、何の用?」

「うう、まさかアオイと一緒に魔法学博物館に行くことになるなんて。しかも今日は初めての友達との遊びだったのに」

「ほとんどひきこもりの天才魔法使いだったからね。まあ、ミナトにしてはいいことじゃない?」

「やっぱりうちに帰ろうかな。はあ、初のお友達と外で遊ぶリア充生活が……ぐへっ」


 そこでミナトの襟首をアオイが掴み、


「ダメな子だけれど一応幼馴染だしね、ユウト、これからもミナトをよろしくね」

「は、はあ」


 そのまま襟首を掴まれて蒼い顔のミナトをズルズルと引きずりながら、僕達はまず僕の今日泊まる宿を取り、魔法学図書館に向かったのだった。

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