第14話(恋多き方ですね)

 お姫様に連れてこられたのは、あの会場のすぐ傍にあった建物だった。

 歩いて一分もかからない距離だった。

 その建物はレンガ造りではあるけれど、都会という建物が密集する場所でその一角には少し緑が多めである。

 

 その建物を囲むように柵があり、その内側にはいろいろな木々が植えられていて、そのうちの幾つには白や黄色などの鮮やかな花が咲き乱れていた。

 他にも所々にライオンの様な動物などの置物が置かれていたりするけれど上品な建物で、一歩敷地に入ると都会の喧騒が何処か遠くに聞こえるような建物だった。


 かすかに鳥の声もして、村の近くの森にはいっかなのような錯覚を僕は覚えた。

 そのまま中に案内されると、床には赤いカーペットが敷かれている。

 窓枠から天井から釣り下がった明かりやら、どれもクフが施された変わった形や模様がつけられていた。


 何となくどれもとても高い品物のような気がすると僕は思う。

 特別な場所に来てしまった様な気がして僕は緊張してしまう。

 リンやアオイの二人の様子をちらりと見ると、リンは気楽そうでアオイは緊張しているようだった。


 そこでお姫様がようやく気付いた様に僕を振り返り顔を赤くして、


「すみません、つい嬉しくて手を握って連れてきてしまいました」

「あ、いえ……綺麗なヒナタ姫にそうして頂き光栄です」


 もう少し褒めたたえる様な言葉を口に出来ればと思うのだけれど、口からはそんな言葉も出てこない。

 でも恥じらうお姫様は可愛い。

 美少女なのでそんな風な顔をしてもそれはそれで可愛い。


 それ以外に何も頭に浮かばない。

 そう思いながら僕がぽやんとしていると客室に案内された。

 内装もこった物だったけれど、ここでは割愛する。


 そしてお姫様に促されるように椅子に座っていると紅茶とケーキが運ばれてくる。

 ふわふわのスポンジに純白の生クリームに、新鮮な桃が挟まれたケーキ。

 どうぞと言われて口にすると舌の上で桃の果実がとろける凄く美味しいケーキだった。


 こんな美味しいもの、これまで食べたことがないというくらいに美味しい。

 後でどこで買えるのか聞けたら聞こうかと悩むレベルだった。

 ちなみにすぐ横でリンとアオイがケーキに口をつけて、悶絶している。


 そこでアオイがリンを見て微妙そうな顔になり、


「リンはどうやって消化しているのかしら」

「さあ? 美味しいよ?」

「……そうね」


 といった謎な会話をしていたのはいいとして、そこでヒナタ姫が、


「城でなくてこちらに案内してしまいごめんなさい。城に連れて行ったら、父と母が、今すぐ結婚まで話を持って行ってしまうかもしれませんので」

「そ、そうなんですか……」

「ええ、思いっきりがいい人達ですから。こちらにいるメイドのミミカも、イケメンというよりは美人な女性に見える、の一言で採用になったわけですし」


 短い黒髪で、青い瞳のメイドがこちらを警戒するように僕の方を見た。

 再び睨むように見られた僕。

 何で警戒されているんだろうと僕が思っているとそこで、


「でも呪いの効かない殿方と出会えるなんて、夢のようです。確か出身は、アルバ村でしたかしら」

「「アルバ村!」」


 そこでリンとアオイが声を上げたけれど、すぐに気にしないでというかのようにリンが手を振る。

 けれど、あの驚きようはちょっと普通じゃない気がして、何でだろうなと思いながらも今は話を脱線させていても仕方がないので、ヒナタ姫の話を聞くことにする。

 ヒナタ姫は小さく苦笑し、


「……では続けさせていただきます。この呪いは、元々、私の母と魔女が父の取り合いをして魔女が負けたことに起因しています。確かその時に魔女エーデルが振られた人数の順番が通算、二千人目だそうで」

「……恋多き方ですね」

「それで女の子が生まれたら、女の子にモテモテな呪いをかけて男とくっつくのを邪魔してやろうとしたそうなのですが、予期しない効果がついておりまして。しかも、魔女自身が意地を張って呪いを解くのは嫌だと言ってどこかに逃げてしまいまして」

「逃げちゃったんですか」

「一説によると、あの魔女はよく魔法に“失敗”することがあるらしくて。ヘタをするともう呪いが解けないのかもと思い、私達は、本当の姿を見える相手を探したほうがいいのではといった話になりまして、このようなイベントを開くことになったのです」


 そう微笑んだヒナタ姫に目を奪われてしまった僕はすぐにはっとなり、


「あ、女神様にお姫様の呪いを解いてくるように言われたんだった」


 僕はつい忘れてしまいそうになった春休みにするでっかい事を思い出す。

 ヒナタ姫が動きを止めた。

 そしてそれに真っ先に反応して声を上げたのは、メイドのミミカで、


「そんなの信じられないわ」

『信じてもらわないと困るわ~』


 そんな女性の楽しそうな声が、何処からともなく降ってきたのだった。

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