第28話(私の名前を騙ったのだから)

 こうしてさらに入っていく。

 こちらも明かりのついていて、採掘場内は、薄暗い洞窟のようだった。

 入山登録所に備えつけられていた案内用のパンフレットによると、更にまっすぐに行き、途中の横の洞窟にはいらずにそのまままっすぐに行くと一番深い所に行くらしい。


 とりあえずはこちら側に入っていけばいいので、その後はどうするのか分からなかった。

 なので魔女エーデルに僕は、


「真っすぐ行けば一番深い所に行くみたいです」

「そう、楽でいいわね。じゃあ、行きましょう。たぶんそこにあるだろうし」


 といった軽い答えが返ってきた。

 結構おおざっぱだなと思いつつ、そこで僕はあることを思いついた。


「あ、でもちょっと待って下さい」

「何? 何か問題があるのかしら」

「僕のスコップで当たるかどうか、試してみましょうか。この辺りで」


 まだ入り口からそれほど入っていないが、そういえばこの“万能スコップ”を使う機会があまりない。

 ここからさらに深い所に行く前に、使って回収できれば奥まで行かなくて済む。

 しかもこのスコップの本当の出番がやってくるのだ。


 なので折角だから、ここで使ってしまおうと僕は考えたので、


「“ブルブル震える緑色の石”はもとより、“月明かりの石”の大きな結晶も手に入るかもしれませんし」

「まあ、いいけれどこんな浅い所で手に入るとは思わないけれどね」


 と魔女エーデルが面倒そうに言う。

 確かにもっと深い所に良い物がありそうではある。

 だがこのスコップ、そういえば女神様は“確率”で出るようなことを言っていたような……と思っているとそこで、


「私もそれを見てみたいです」

「俺も見たいな」


 ヒナタ姫とミナトが興味津々といったように言うので、魔女エーデルも含めてやってもいいという話になる。

 と言ってもここは洞窟の中で地面や周りが岩のように固くて掘るのが大変……というわけではなかった。

 この万能スコップ、石が土か何かのように掘れる。


 僕がザクザクとテンポよく掘っていると見ていたミナトが、


「堀り心地はどうなんだ?」

「結構簡単にザクザク掘り進められるかな。普通の土と同じ感じ」

「へー、いいなそれ。後で解析させてくれ」

「いいよ。壊さない範囲でお願いします」


 といった会話をミナトとしているとそこでスコップが何かにあたった。

 触れるとスコップを伝ってブルブルと振動する。

 僕も小刻みに震えてしまった。


 とりあえずその震えている何かの周りを掘り進めると、緑色のものが出てきた。

 クルッと振り返り魔女エーデルを見ると、魔女エーデルは嫌そうな顔で、


「……それ、必要な材料だわ」

「じゃあこれでお使い終わりですか?」

「そうね。はあ……何日か通うことも考えていたんだけれど……はぁ」


 深々と嘆息する魔女エーデル。

 そして僕はその緑色の石を土? の中から取り出し、魔女エーデルに渡す。

 とりあえず目的は果たしたので、戻ろうかという話になったその時だった。


「お前は、魔女エーデル!」


 そんな声が、採掘場の奥深くから聞こえてきたのだった。











 現れたのは、ヒナタ姫のように顔を布で隠した男達、三名ほどだった。

 とりあえずは魔女エーデルの名前を知っているようだったので、


「お知り合いですか?」

「いえ、全然知らないわ。こんなカス共」


 どう考えても知っているとしか思えない返答に僕は沈黙しているとそこで、


「お前の名を騙って、都市でテロを起こそうとしたら、お前にアジトを潰された“○○?”だ!」

「発音が相変わらず良くわからないわね。でも、わざわざ私の前に出てきて、またボコボコにされたいのかしら」

「くくく、我々をこの前と同じだと思うなよ? お前のために準備を整えていたのだから」


 そう言ってその男達は何かを取り出そうとした。

 狭い場所でちょっと危険なことになりそうだなと僕は思ったところで、僕の視界の端に姫様の姿が映ったので、


「失礼します」

「え?」


 ヒナタ姫が不思議そうな声を上げるけれど、僕はそこで彼女の覆面を取る。と、


「「「ぎゃぁあああああああ」」」


 魔女エーデルの敵? であるらしい男達が悲鳴を上げて瞬時に逃げていく。

 やはり姫の呪いの破壊力は最高だと僕が思っていると、僕は後ろからフライパンで殴られそうになった。

 その主を僕が見るとメイドのミミカである。


「姫様にどうしてそういった失礼なことを」

「でも一番安全に追い払えるし」


 それを聞くとミミカも思うところがあるらしく沈黙するもそこで、バタンと誰かが倒れた。

 ミナトだ。

 相変わらず笑顔のままで気絶している。

 そういえば彼の存在を忘れていたなと思っているとそこで魔女エーデルが、


「逃しちゃ駄目じゃない。追いかけないといけないわ……ああもう、またボコボコにしてこないといけないわね。……この私の名前を騙ったのだから」


 と、壮絶な笑顔で呟いたのだった。

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