無敵のスコッパー・ヤマダ~万能スコップを女神様からもらいました~
ラズベリーパイ
第1話(呪われたお姫様(美少女)に抱きつかれています)
これまでのあらすじを、三行で説明しようと思う。
①村で、ティラス女神様に、春休みなので何かでっかい事がしたいです! とお願いしたら、いいわよ~と女神様? らしい女性の声が聞こえて、最強の“万能スコップ”を授けてくれた。
②今までためたお小遣いをかき集め、家に書置きして、女神様の言うとおりに都市に向かった。
③よく分からないけれど、都市で14~20歳の男子限定イベントに、強制的に出場させられた。
以上。
そして現在だけれど、ものすっっっっごい美人に僕は抱きつかれていた。
美しさの表現にについては僕は上手く言えないけれど、以前母が見せてくれた結婚指輪の宝石のようにキラキラしていて、村で春に咲き乱れる“ララカの花”がいっぱい咲いたような物を見た時に感じるような感覚を覚えるお姫様だった。
しかし、それは僕の周りでは異常なことであるらしい。
周りの見ていた男性達はぎゃああああと、恐ろしい化け物に遭遇したような悲鳴を上げている。
僕と同い年から僕の年上の人まで一通り同じ反応だ。
僕としてはどうしてそんな風になるのかは分からないけれど、そういう風に“見える”らしい。
悲鳴を上げ恐怖におののき即座に逃げ出したくなる化け物……そんな風に見えるらしい。
だがその一方で、女性たちには違うように見えるらしい。
先ほどから、“お姫様”が出てくると同時に女性から黄色い声が……。
事前に聞かされていたとはいえ、この状況はその通りなのだろうと僕は思う。
それらはこの今抱きついている彼女にかけられた呪いのせいによるのだろう。
そんな呪いをかけられた“お姫様である”彼女は、現在、僕に抱きついている。
ぎゅっと俺を放さないというかのように抱きついているので、柔らかい何かが当たっているし、凄く甘くていい匂いがする。
こういった経験を僕はあまりしたことがないので(幼馴染のユナはカウントしない)、緊張してしまう。
彼女はこの国のお姫様なので、香水をつけているのだろう。
鼻孔をくすぐる花の香りがして、こんなに綺麗な人だから、歩くたびに白い花が舞落ちるんじゃないかというくらいに、繊細な人に見える。
その身を包むドレスも、淡い紫色の透ける様な艶やかな布を何枚も重ね、真珠が所々に飾られたものである。
田舎育ちの僕は見た事がないけれど、こんな夜に変わりかけた空を切り取った様な風に軽やかになびく布はきっと高価なものなのだろうと想像がつく。
だがそんなドレスすらも色褪せてしまいそうな、絶世の美少女、それがこの“お姫様”だ。
本来のこの人の姿なのだ。
そんな人物が今僕に抱きついている。
風になびく、陽の光の中で煌めくさらさらとした金糸の髪。
白磁の様な白く繊細な肌。
明るい緑色の瞳は、新緑の季節の森を見上げた様な色。
現実にこんな美人が存在しているなんて僕は知らなかった。
そんな女性に抱きつかれて嫌な思いになる男性は普通はいない。
けれど現在周りにいる男性は阿鼻叫喚の様相である。
やっぱり呪いなんだな~、とか、僕には効いていないんだよな~、とか、周りの人達にはどう見られているんだろうとか、そのあたり全てが気になりはしたのだが、そこで、
「あの……」
「なんでしょうか、ヒナタ姫」
「やっぱり私が平気なんですね! 呪いが全く効かない殿方なんて初めてです」
「そうなのですか。昔からそういった呪いやら何やらが全く効かなくて」
「はい、ですから貴方が優勝者です!」
「僕、ただ姫に抱きつかれただけなのですが……」
「それをさせてくれるだけで私は十分です!」
きっと、強い石を秘めた表情で僕を見上げて彼女はそういう。
こういう表情は幼馴染のユナにそっくりで普通の女の子っぽいなと僕は思う。
そこで彼女は目を瞬かせた。
「あの、その背中に背負っている物は何ですか? 剣では無いようですが」
「スコップです」
「……え?」
「土を掘る為の、スコップです」
お姫様が不思議そうに首をかしげる。
そんなちょっとした仕草も、子猫の様に可愛い。
「そういえばまだお名前をお聞きしておりませんでした」
「僕の名前は、ユウト・ヤマダです。ここから西にある、アルパ村からやってきました」
そう、彼女に自己紹介したのだった。
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