第12話(恐怖のお姫様と遭遇?)
現れたお姫様は遠目でしか見えないけれど、“とても綺麗な少女”に見えた。
なびく金色の髪は陽の光で宝石のように輝いて、肌は白く繊細に見える。
その表情はどこか悲しげで、木漏れ日を見上げたような鮮やかな緑色の瞳は何処かうるんでいる。
纏う淡い紫色のドレスも柔らかく、動くたびにフリルがそよ風の中の小枝のように涼やかに揺れる。
彼女自身がとても綺麗なのもあってか、そのドレスすらも更に輝かしいものになっているように思う。
むしろこういったドレスと彼女が組み合わさって、この世のものとは思えないような美しさを放っているようにも見える。
こんな綺麗な人は初めてみた。
僕は目が釘付けになってそらせない。
こんな経験、僕は初体験だと思う。
その繊細そうなお姫様は、今、憂いを帯びた様に悲しげな表情で僕達の前に姿を現している。
これが巷で聞く恐ろしい姿に見えなかった僕は、先ほどまで一緒に話していたミナトに、
「ミナト、あれは本当にそんなに怖い姿に見えるのか?」
「……」
「ミナト?」
小声で話しかけるが返事がない。
確かに小声だが、周りもそこまで煩くないのでこの声で十分聞こえると僕は思う。
おかしいなと思って横を見ると、初めて会った時と同じ笑顔の表情のミナトがいた。
だが人形のように微動だにしない様子に僕は異常を感じて、軽く肩を揺らす。
ゆさゆさゆさ。
するとまるで糸が切れた人形のようにミナトは崩れ落ち、床に倒れ込んだ。
すでにその姿を目撃して気絶してしまっていたらしかった。
「! だ、大丈夫ですか! い、医者を……」
僕は焦って医者を呼ぼうとすると手なれたように、後ろの方から人がやって来て彼を担架に乗せて連れ去っていく。
同時にそれを契機としたようにそこら中で次々と男性達が倒れていく。
周りでバタバタと大きなものが倒れる音が鳴り響く。
恐怖の表情を浮かべながら、人によっては口から泡を吹いている。
その倒れる音が切掛けであるかのように男性達の悲鳴が響き渡る。
口に出すのもおぞましい怪物を目撃したのかという様な表情でどうにか立っている男達。
そこで空砲がなった。
見ると入り口付近にタキシードをきたヒゲを生やした男性が銃を空に向けていた。
どうやらこの“お姫様鬼ごっこ”の開始の合図らしい。
それと同時に少しでもお姫様から離れようと会場の男性達が、お姫様から離れた出口に殺到する。
その様子を見たせいなのか、お姫様は悲しそうにうつむく。
それがとても可哀想に思えた僕だけれど、とりあえず、皆逃げているし鬼ごっこらしいので(立ち止まると逆に倒されて踏みつぶされそうだったのもあり)僕も彼らに流されるようにその場から走り出したのだった。
必死の形相で逃げ惑う彼らの中、僕は相手にぶつかったりしないように様子を見ながら走っていた。
無我夢中といった風に走る彼ら。
周りの様子や他の人に当たらないようにといった配慮ができないくらいに彼らは追い詰められているようだった。
だからそういった状態にない僕は周りの様子を見ながら、逃げていたりする。
しかしぶつぶつと悲鳴や涙を流しながら逃げていく彼らを見ると、そこまでの物かと思ってしまう。
僕には全く効いていなかったのでよく分からない感覚だった。
周りから嗚咽の声が響いていて、奇妙な世界に迷い込んでしまったような感覚を僕は覚える。
やがて町中に差し掛かると、ここから先には入ってはいけませんと書かれた柵が見えてそこに女性が集まっている。
彼女達は全員笑顔で、幕やら旗やらを振っている人もいる。
「そういえばあの姫様、女性には凄いイケメンの男性に見えるんだっけ」
なのでその追っかけの様な事をやっているのだろう。
アイドルを追いかけ回すように。
うん、楽しそうで何よりだ。
そう思いながら僕はしばらく走っていくと、見知った相手の姿が僕からも見えた。
「アオイ、リン、いたんだ。喫茶店には行かなかったのかな? 後で行くのかな?」
そう僕は考えつつ、二人に手を振ると、リンが手を振り返してくれる。
アオイも小さく手を振ってから、けれどすぐに恥ずかしくなったのか顔を赤くしてそっぽを向いてしまった。
丁度人もだいぶ少なくなってきて(走っている途中で気絶しているので、次々回収されているため)折角なので休憩も兼ねて二人に近づくと、
「な、何でこっちに来るの?」
「いや、休憩も兼ねて」
そう答えた僕にアオイが変な顔をした。
「お姫様から少しでも逃げたいってならないの?」
「特には」
「すっごく男性には気持ち悪く見えるみたいなのに、相変わらずユウトは“変”ね」
まったく仕方がないわねというかのように、アオイが笑う。
けれど僕にだって言い分があって、
「でもあのお姫様、そんなに気持ちが悪い存在に見えなかったのにな」
「……蓼食う虫も好き好き。好みは人それぞれ。うん、そうね」
「あんな金髪で緑色の瞳の美少女、そうそういないと思うけれどな」
見えたそのままをアオイに僕は伝えるとそこで、周りにいた男性がえっというかのように真っ蒼な顔で走るのを止めて僕を見た。
よく見ると、リンもアオイも驚いている。
そこでアオイがリンの方を向いて真剣な表情で問いただすように、
「リン、確かお姫様の姿って貴方には、金髪に緑色の瞳の美少女に見えるんだったわよね」
「うん、そうそう……そうなんだよね」
そしてリンは僕をじっと見つめる。
と、そこで悲鳴が上がり男達がチリジリになって逃げる。
代わりに女性の黄色い歓声が響き渡る。
どうやらお姫様が来たようだ。
振り返るとそのお姫様とも目が合う。
やっぱり凄い美少女だと思うんだけれどなと僕が思っていると……そこで僕はお姫様と目があってしまったのだった。
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