第3話(そのスコップの真価とは、いかに!)
謎の女性、本人曰く、女神様らしい彼女の声と共に、僕の目の前には光り輝く伝説の“万能スコップ”が!
……“万能スコップ”が。
その白い光りに包まれながら現れたその“万能スコップ”(三回ほど心の中で呟いた)を見ながら僕は、
「あの、伝説の……とついたら剣とか持っていたり掲げたりしても、もっとカッコイイ武器なんじゃないですか?」
「あら、スコップもちょっと見ない武器でいいと思うけれど。今は個性の時代だし」
「でもこの新品みたいなスコップ、一昨日、村の“カリンさん雑貨店”で買ってきたスコップと取っ手が同じ形ですよ? ……ただのスコップにしか見えません。柄の部分だって、僕が昨日買ってきたものと同じで真っ赤だし」
「それはそうよ。昨日貴方の買ったスコップを参考にして私が作り上げたわけだし」
どうやら僕の買ったスコップを見ていたらしい。
確か雑貨店では三種類くらいの色があって、その中でも一番新しそうだった赤色に僕はしたのだ。
だがそういった所まで女神様は見ていたらしい。
意外に気さくな女神様のようだ。だが、
「スコップ……これ、昨日こういったスコップで穴を幾つも掘って種を撒いた所なんです。そんな普通の農業器具みたいでこう、身近な物すぎるというか……もう少し現実味がない感じがいいのに」
「スコップでユウトちゃんは魔物を退治したり畑を荒らす害獣と戦ったりしているから、ユウトちゃんも慣れているから使いやすい武器だと女神様は思うの」
「でも皆やっているじゃないですか。森の害獣、スライム狩りとかの時もスコップで次々と倒しますし。身近で扱いやすいといっても、もう少しこう、伝説の“剣”、みたいなモノの方が僕はいいです」
僕は我儘を言った。
だってこのままだと本当に伝説の“万能スコップ”を手に旅立たされてしまいそうだからだ。
ここで自分の意見を言わなければ、スコップを持って旅経つ“勇者”みたいになってしまう。
それでは格好がつかない、そう思って僕は言ったのだが、
「あら、スコップはいいわよ? 手榴弾だって跳ね返せるし、塹壕だって掘れるし」
「え?」
「……ではなくて、伝説とつくだけのものすっごい効果がいっっっぱいついているの。それはも一つしかない伝説の武器の類よりももっとすごいのよ? それにスコップだし、むしろ剣よりも使い勝手がいいからおすすめよ?」
「そうなんですか?」
「そうなんです」
やけにこのスコップを薦める自称・女神様。
そんなにこのスコップは素晴らしい物なのかと僕は自分の目の前ににあるスコップに向かって上下左右、後ろにまで回って宙に浮かんでいるこの女神様がくれた普通っぽいスコップを見ながら思う。
やはり僕が昨日買ったばかりのあのスコップと同じものにしか見えない。
かすかに違和感はあるけれど。
そもそもこのスコップについている効果ってなんだろうと僕は思ったので、
「そのスコップの効果をお聞きしてもよろしいでしょうか」
「いっぱいつけたから、幾つか忘れちゃったけれど……」
「えっと、やっぱり……」
「地面を掘れば、この世界で見つかっていない宝物が1%の確率で掘れて、九%で欲しい物が掘れて、五十%の確率で確実に一個、大地の魔石が手にはいります!」
「ぜひこのスコップを使わせてください!」
僕は現金にもそう答えた。
何しろ、大地の魔石である。
そのまま魔法を使うのに使ってもよし、ちょっとした魔道具に使ってもよし、売ってもよしの、大地の魔力の結晶だ。
買うとそこそこ高くて、売ればお小遣いにもなるので時々僕も森の中で見つけて換金していたりする。
ちなみに植木鉢にその石を埋めて植物を育てると成長がよく、花なら綺麗になったり、植物だと収穫量が増えたりするのである。
そのため森などに探しに行ってから、畑に埋めておいたりすることもある代物だ。
そんな素敵アイテムが幾らでも手に入るなら、と僕は思ってそこであることに気づいたために女神様に聞く。
「あの、それでその土地の、植物が成長する力が減ったりしませんか? 魔力を取ることになるんですよね?」
「大丈夫よ。余分な所から大地を通して転送してくるだけだし。ユウトちゃんのいる村全部がしばらく豊作になる量でも、まだまだ0.0000000000000000001%も本気を出していないレベルの余力があるくらいだし」
「そうなんですか。じゃあこの“万能スコップ”で僕は旅に出ます」
「あら、引き受けてくれる?」
「でっかい事が出来るんですよね?」
「お姫様の呪いを解くのは、でっかい事になるかしら?」
「もちろんです! お姫様か……」
お姫様というとすっごい美人で綺麗なドレスを着た女の子らしいとというイメージが僕の中にある。
そんなお姫様の呪いを解く、春休みにやるでっかい事としては最高だ。
なので目の前に浮いている“万能スコップ”を掴んで、
「では、僕はこれを持ってどうすればいいのですか!」
「そうね、まずは、王都メルヴィアに向かいなさい。そこで“面白い”イベントがやっているからそれに出るように。いいわね?」
「その後はどうするんですか?」
「必要ならその都度助言をするからその通りにしてね。それ以外は……観光でもしてきたら? 高校はその王都にあるんだし、事前に美味しい食事のお店でも探してきたらどう? もしかしたら同じ高校の子にも会えるかもしれないし、入る前にお友達を作っていてもいいんじゃない?」
「そうですね。……女神様はよくご存知ですね?」
「女神様だもの、当然よ!」
そうなのか~、と僕は思いながら、家に書き置きをして旅立つことにしたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます