5-2 叔母の差配とゲーム談義とゴールイン
朝食を終え、要はくつろいでいた。この時間を持てる時、
「あー……。自主休講しちゃってた、と。要くん。私からも口添えするから、お父さんに連絡しちゃいなさい」
「え?」
「正式に手続き取って、半年ほど休学しちゃえばいいのよ」
「人生では本当に必要な手続きだけは欠かしちゃいけない、か……」
当時言われた言葉の一つを振り返る。きっと、雫とのことも。そういうことなのだろう。受け止める、の先を。考えなくては。
とはいえ。日常は日常で足元を流れ行く訳で。でかけるまでの時間には、もう少々の余裕があった。
「
家事と家事の合間のスキマ時間。雫は要に寄り添ってゲームの相談を投げかけてくる。手にはスマートフォン。アプリゲームだ。それも、美少女ゲーム。擬人化少女のやつだったか。
「んー? ああ。確かこれは……」
要もたしなみ程度にはこの手のゲームをやっていた。雫の前ではやるつもりもなかったのだが、うっかり一覧を見られてしまい。
「これ、私もやってるよ?」
などと言われてはどうしようもなかった。いや、なんで美少女ゲームなんだよとは思ったけれど。
「ん。クリアできそうだな。それにしても……」
「うん?」
「雫ちゃんは、乙女ゲームとかはしないのかい?」
ゲームに真剣な状態だと、不思議と寄り添われても自然でいられる。そう気付いたのは、つい最近だったか。少なくとも隣にいるだけで色々危うい、という状態は避けられている。
そんな訳で、あまりにも自然に。その疑問は口から出た。
「んー。あれでしょ? 逆ハーレム的な。イケメンに囲まれてるやつ。刀のあれとか」
「そうそう」
「刀は目の保養的には良いんだけどね……。言い寄られる傾向のやつあるじゃない?」
雫はそこで一拍切って、要は見上げられる。目にした雫の顔は、僅かに頬が赤くて。
「アレは要らない。私がうっかりそっちにフラフラしそうで、嫌になるから。要兄一筋なのに」
それでもきっぱりと。そう言ってのけた。
「だから美少女ゲームか」
「そうだよ? フワフワしてるし、可愛いし。ファッションだって参考になるかなって。ああ、でも要らないのもあるや。結婚、的なやつ」
あー。要はそう言って、思い浮かべる。昔のギャルゲージャンルの延長なのか、最近の擬人化美少女ゲームは。アップデートでその手のゴールインを持ち込むのが増えている、気がする。要も、あまり好きではなくて。
「そうだな……。ゴールインは現実で十分だ」
同意し、本音を漏らして。次の瞬間、雫の目がキラリと光って。
「私とのゴールインでいいの!?」
アプリを落として、要の膝に乗る。その姿は、飼い主に散歩をせがんで飛びかかる大型犬にも似ていて。
「ちょ、落ち着いて。そういう意味じゃなく、二次と三次の」
「またまたー。正直になっていいのにー」
要は必死で弁解するも、雫の身体が伸びて。目が合って。
「……」
しばしの沈黙の後。
「やば、そろそろ時間だ」
要は雫を下ろそうとする。逃げではなく、本当に時間が迫っていた。雫は抵抗しようとするが、そこで時計が目に入り。
「やだ、ホントに時間!」
要から離れ、タンスに向かう。今日の用件には、要のファッションセンスでは危険性があったのだ。なにせ、要のファッションセンスには。フォーマルかカジュアルかしか存在していない。
要にも次第にそれが分かってきていて。いつしか外出時の服選びを、雫に任せるようになっていた。
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