4-4 通せんぼと運命と無慈悲な宣告
しかしその眼前。浅黒の肌と白のブラウス。腕組みをして。
「追い出されたか」
「関係ない」
不意討ちのような遭遇を嫌って、要は輝を、冷たくあしらおうとする。が。
「どうせ、全部話したんだろ?」
食い付かれた。滴る冷や汗。輝にも、
「話してなければ、アイツはそういうことを言わないからな」
むしろ的確な推測をぶつけられて。要は早足で、輝をすり抜けようとして。手で塞がれる。
「アイツに、なんて言われた?」
「自分の気持ちに、向き合えと。考える時間が欲しい」
問われてついに、要は口を開く。ここまで見抜かれていたら、仕方がない。だが、輝は道を開けない。
「駄目だ」
「なんでさ」
短いやり取り。要の正面に、輝が立つ。険しい表情。
「今のお前に、考える余裕はくれてやらん」
強い意志が滲んだ口調に、要は思わず一歩引いてしまい。
「断言してやる。クソ真面目なお前に、余裕なんざ与えたら。もう一回斜め上の結論を出す」
「知った風な口をきくなよ」
引いた右足を踏ん張り、前に体重をかける。
「知ってるんだよ」
輝の全体から、危なげな空気が消えていく。
「私達は幼馴染で、一度は付き合った仲だ。そのくらい知ってて当然だ」
自然体に戻った輝は、そのまま顔を伏せて。
「離れて、もう二度と会えないと思ってた。なのに再会して。私が、なにも感じないとでも?」
絞り出したような言葉。要は立ち止まる。考える。要から見る限り、輝の言動に変化はほとんどなかった。
気になるとすれば。
先程の紙。
そして、この状況。
「……運命、とでも言うのか?」
ボソリと、言う。似合わない。間違っても目の前の女に、そんな少女漫画のような言葉は似合わない。だが。
「そうだよ」
同じぐらいボソリとした言葉が、明確に返って来た。
「運命だよ。悪いか? 似合わない? 知るか。本当に必要なつながりは、例え一度離れてもまた出会う。そう聞いたことがあるんだ。一方的にそういうものを感じたって、おかしくないだろ?」
髪を振り乱すように顔を上げ、熱弁をぶちまける輝。しかし要は。そんな輝の肩に手を置く。その顔は、なにかを定めた人間の顔で。
「おかしくないと思う。ありがとう」
まず、ねぎらう。かつて交際した女性を。思わぬ再会に夢をはせた、意外なところで少女だった幼馴染を。
でもな。続けたのは、逆接の言葉。自身の気持ちとは向き合えずとも。輝と再会した日、
「ごめん。あの日、交際が終わった日から。輝はずっと、幼馴染のままなんだ」
残酷な言葉。言いつつ、思い出す。再会の時、確かに要は驚いた。驚いたが、心は動かず。むしろ、雫の反応が気になっていた。
要はそのまま、脇を抜ける。すれ違った後、もう一言を添えた。
「ビジネスライクに行こうぜ。台無しだ」
夕方。日も落ちて暗くなっていく空。今日はひどく曇っていた。早足で神楽坂邸から距離を取るが、このまま家に帰りたくはなかった。思考は渦を巻き、自分を責める声が脳内に響く。駄目だ、このまま帰ったら。雫に心配されてしまう。
「ああ。ごめんね。どうしても遅くなる……。うん、うん。大丈夫だよ、うん。また後で」
一旦雫に連絡を取ってから、もう一度空を見上げると。更に黒々としていて。
「……行くか」
のそりのそりと。自宅とは逆方向に歩き出した。
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