6-7 パレードとブローチと要の答え (最終回)

 夜空をつんざいて花火の音が響き、マーチのような音楽が流れ出す。この遊園地リゾートが誇る夜のメインイベント、マスコットキャラやらが闊歩する一大パレードが始まったのだ。


「わあ……」


 光が明滅し、非日常の景色が広がる中。かなめが見たしずくの目は、光り輝いていた。パレードの光を反射しているのか、それとも、喜びで輝いているのか。要にとっては、どちらでも良かった。雫が、喜んでいるのだから。

 繋ぐ手に力が入らないように気を配りながら、要はもう一度決意を固める。このパレードが終わり次第、要は自分の答えを。雫に伝えるつもりだった。


 パレードは進む。花火が高鳴る。ハレの景色を、これでもかとばかりに生み出して。要は思う。遊園地リゾートの理念を。夢を見せることに特化した場所の素晴らしさを。それは、要には作り出せないもので。だからこそ、この地は夢の場所なのだ。


「あ、あ……。終わっちゃう……」


 しかし夢は長くは続かない。シンデレラにかかった魔法が十二時で解けてしまうように。非日常の空間は、やがて日常へと返っていく。閉園を告げるアナウンスがこだまし始めると、人々はゆっくりと現実へと戻って行った。しかし。


「雫、こっちへ」


 ホテルとの連絡口を出たところで要は雫の手を引いた。人通りの少ない所へ連れ出し、雫を向かいに立たせる。


要兄ようにい……?」

「雫、まずは誕生日おめでとう」


 ホテルの部屋の方が良かったかもしれないと思いつつも、要は包みに入った小さな箱を差し出した。薄い直方体。


「わあ、かわいい」


 包みに散りばめられた小さな動物たちを見て、雫が声を漏らした。無論、包みは包みだけれど。自分のセンスに間違いはなかったと、要は安堵した。

 雫が一通り箱を眺めた後。細い指が、包み紙を剥がしていく。少し長い爪の先を使って、器用にテープを取っていく。心臓が脈打つ。普通の仕草のはずなのに、妙に艶かしく見える。


「……!?」


 箱の中身を見た雫が、目を丸くして。要はサプライズ的な意味での勝利を確信した。なにしろ、教え子に手伝ってもらう反則まで犯して選んだプレゼントだ。そのくらいの顔になってもらわないと困る。


「ブローチ……」

「流石に、給料三ヶ月分の指輪とはいかなくてね……」


 頬をかきながら、要は言う。芝居なら、下手と言われても仕方ないセリフ選びだ。要は、心の中で自分を罵った。

 しかし雫の顔は、紅潮していた。


「要兄……。ありがとう……!」


 ブローチの入った箱を握りながら、目尻から涙をこぼして。妹分は礼を言う。ああ、違う。もう妹分じゃない。要は、自分の思考を切り替える。

 右手を、雫に向けて伸ばす。あの日保留した答えを、今こそ言うために。雫の肩を掴んで、引き寄せる。


「あっ……」


 雫から、また声が漏れる。そのまま、抱き締めるような感じになって。要は、温めていた言葉を。言い放つ。


「雫ちゃん。いや、雫。好きだよ」


 まず一つ。これだけで雫は、またしても赤くなった。だが、次の矢は。もっと大事だ。


「雫ちゃんの責任を取る以上、一緒になりたい。だけど、今じゃない。後二年。大学卒業まで。待って欲しい」


 これは必要なこと。俺だって、果たすべきことは果たしたい。ちゃんと大学に通って、皆に認められる形で結婚したい。


「だけど、それだけじゃ。雫は不安だと思うから……」


 コクリ。雫の首が、縦に動いた。それはそうだ。言葉だけで納得するなら、警察なんかいらない訳で。要は無言で、雫を抱きしめた。上目遣いの瞳が、潤んでいる。要は、顔を落として。軽く。唇を触れ合わせた。


「ひゃっ……」

「今から、その。うん……」


 雫の想像の、一つ上を行く。手を引いて、最上階の部屋へと連れて行く。ここから先は、二人の時間だ。


第六話・完

これは同棲じゃない! 同居です!with PK・完

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これは同棲じゃない! 同居です!with PK 南雲麗 @nagumo_rei

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