6-4 過剰サービスと権利と絶景
アイスと菓子類のたくさん乗ったパフェを食べる、
「んー! おいっしー!
結局の所、チェックインを選んだのは正解だった。疲れた身体を奮い立たせてリゾートのホテルにたどり着き、フロントでパスを見せる。そこまでは予想の範囲内だったのだが。
「
パスを見た受付が慌ててどこかに電話が掛けると、あからさまに重役な方がすっ飛んできて。そのまま最上階のスイートルームへ連れて行かれてしまったのだ。そのまま部屋の紹介という名目のご自慢まで食らわされ。とうとう雫がしびれを切らして。
「
普段の姿からは想像もつかない大声を上げてしまう。これには案内役も驚いたのか、慌てて食事の手配がされて。気が付けば、かなり高価そうなレストランでの昼食となっていた。
雫はスパゲッティーと、希望通りのパフェを注文して大喜びだ。しかし要はハンバーグのランチを頼みつつも、食が進んでいなかった。あまりに似合わないサービスに、気後れが生じているのだ。
「……要兄?」
頬に感じる、指の感覚。雫だった。背を伸ばして要に触れているため、二つの果実が、重そうにぶら下がっている。パフェはこぼれないように、避けられていた。
「気になるのは分かるけどさ。楽しまないと、損だよ?」
「う……」
目が笑っていない笑顔で放たれた、雫の言葉。要は揺らぐ。そうだ。楽しまないと損なのは、事実だ。だけど。パスをくれたのは
「……神楽坂さんがくれたんでしょ?」
「そうだが」
「じゃあいいじゃん。向こうがこんなサービスになると知ってたって、知らなくたって。今、サービスを受ける権利があるのは。私達なんだからさ」
「……雫ちゃんには負けるよ」
要が苦笑いをこぼすと、雫はスルスルと元の位置へと戻っていき。
「あ、いけない。パフェが溶けちゃう!」
なんでもないような素振りで、再びパフェに取り掛かっていく。要はその様子に呆れたように笑うと。
「このハンバーグ、冷めても旨いや」
ようやく落ち着いて食事に取り掛かった。
食事を終えて、ヨーロッパの宮殿を思わせるような部屋へ戻って。今度こそ荷物の整理に取り組もうとした要に、雫のハイテンションボイスが突き刺さった。
「要兄、見て!」
窓から外を指差す雫。どうやら、お腹いっぱいになってご機嫌らしい。あの膨れっ面は、どこかへ消えていた。
「おう?」
要も隣に立ち、外を見る。そこに広がっていたのは。
広大な遊園地の全景。
大観覧車。
中世ヨーロッパ風の、高い塔のような城。
あからさまに高低差の激しそうなジェットコースター。
テーマに沿った、様々な遊具にオブジェクト。
ゴマ粒のように見える客。
そしてその向こうに。
青い、青い海。
「きれい……」
雫が声を漏らす。見つめる表情は、うっとりとしていて。普段見られない顔に、要の心臓も思わず跳ねる。
「……片付けが済んだら、下りようか」
「うん」
絶景は名残惜しいが、このままだと遊園地が楽しめない。要が促すと、雫はゆっくりと片付けに戻っていった。そして、十分後。
「荷物整理、終わったよ!」
「よし、行こうか」
「うん!」
微笑みを交わし合い、離れないように手をつなぎ。部屋にロックを掛け、弾む足どりでフロアを歩き。そのままフロントまで降りて、手続きを済ませると。またしても重役が出て来て。
「お客様、よろしければ優先案内のサービスがございますが」
「あ、結構です。ね?」
「うん」
しかし要は一蹴。確かにサービスはありがたかったが、過剰だった。二人の時間が、欲しかったのだ。
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