6-3 恐怖の自白とパフェと嫌な予感

 疑問に思ったら止まれない。そんなコトは、往々にしてよくあることで。


しずくちゃんはあの時、なにを考えていたの?」


 かなめは言葉を、止められなかった。


要兄ようにいの所に、向かっていた時?」

「ああ」


 首をかしげる雫に、要は肯定の言葉をかける。んー、と。雫は少し唸って。


「まず、楽しみだった」


 と、言葉を始めて。


「でも、怖かった」


 と、続けた。


「断られるかもしれない。覚えていないかもしれない。拒絶されるかもしれない。そんな、怖さ」


 あの日の突進からは、とても思い浮かばない言葉を。しかし雫は、並べていく。


「ドキドキしてた。不安だった。だけど楽しみだった。そんな風に、ゴチャゴチャしてたから」


 そこで雫は言葉を切って、要を見た。どことなく唆られる顔だったせいか、要は一瞬たじろいで。


「ドアを開けてもらえて、顔を見た瞬間。嬉しさのあまりに、思わず抱きついちゃったの」


 その直後、雫の顔が赤いのを確認した。


「ま、臭かったけどね……」

「あはは……ごめんね」


 ただし、そのままジト目で睨まれれば。さすがの要も謝罪せざるを得ず。やがて外の景色は都市を映し始めた。もうすぐ、新幹線への乗り換えだ。



 乗り換えを二回して、遊園地リゾートの最寄り駅についたのは昼近く。既に太陽は高くなっていた。


「疲れたー……」


 雫は駅前のベンチで座り込み、ぐったりしている。いくら話をしたり、ゲームをしたりと楽しんだとはいえ。三時間は座りっ放しだったのだ。


「んー。こりゃ飯にしてから、ゆっくりチェックインだな」


 どうにもならないと判断した要は、この後の予定を変更することにした。一時間の前後程度、どうにかなるはずである。


「! パフェ食べていい!?」


 しかし言った途端に雫が起き上がり、犬が散歩を求める時のような目で要を見つめてきた。ボソッと言ったはずなのに。


「珍しいね雫ちゃん」

「疲れた時には、甘いもの。鉄板じゃない。もうボロ雑巾なのよ」


 なるほど、と返しつつ要は思った。どうやら、予想以上に疲れがたまっていたらしい。これは失敗だ。


「食べていいから、ちょっと待ってて」


 すぐさまスマートフォンを取り出すと、地図アプリで周辺検索。近くにファミレスがないか探り出す。幸い、さほど歩かずにすむ距離に、手ごろなファミレスがあった。


「あったよ。行こうか。俺もお腹が急に空いてきた」


 空腹というのはひとたび自覚すると一気にくるもので。要達は疲労を無視して小走りで移動する。ただし昼近くの観光地は。


「……まずい。一時間経っても座れないかもしれない」

「えー!?」


 そう。混雑するのだ。普通の空腹ならばともかく、一刻を争うタイプの空腹には、これが効く。


「やだ! 早くパフェ!」

「いや、そう言われても……」


 実際雫は限界を通り越したようで、声を荒げつつある。要としても何とかしてやりたいが、混雑ばかりはどうしようもない。


「と、とりあえず次行ってみよう」

「むー……」


 黙って立っていても仕方ないので、次の案を提示し、移動する。が、現実には勝てるわけがなく。


「すみません、混み合っておりまして……」

「あいにく、満席でして……」


 と、連敗が続く。ならばと最初のレストランに戻っても、やはり一時間はかかりそうで。ここにいたって要は、自分の失敗を認めざるを得ず。


「ごめん、やっぱりチェックインしちゃおう。俺が悪かった、ごめんなさい」


 深々と頭を下げて、リゾート内のホテルへ向かうことにする。


「……。遊園地は楽しみだけど、食べ物の恨みは高くつくからね」


 気を落とし、頬を膨らませながらも雫は付いて来る。しかしその台詞にはゾッとしない。前後の距離が少しだけ開く感覚がして。


「大丈夫、だよな?」


 要は少しだけ、不安を感じてしまうのだった。

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