2-3 キャミソールと痴話喧嘩と意外な発言

 試着室に入ったかなめは、しずくの姿に驚愕した。


「じゃじゃーん! どう? 似合う、かな?」


 身体のラインが浮き出る、薄い生地のキャミソール。足のラインはおろか、ヒップに食い込みそうな程に短いショートパンツ。くるくる回って見せられた姿は、あまりにも刺激が強すぎた。


「……似合ってるよ。似合ってるけど……。せめて外出の時は、一枚上に着てほしいなあって。後、そのショートパンツは絶対に下着が見えると思うんだ」


 鼻血が出そうな血の流れを感じつつも、要は言葉を探す。頭脳労働で、のぼせそうだった。しかし。


「パンツなんて、要兄ようにいのエッチー!」


 その足元は、容赦なくすくわれた。雫は身をよじらせ、両手でヒップのラインを隠す。最初から狙われていたことに気付くが、時既に遅く。


「ちょ、酷い! 見えそうな服を選んだのは……」

「エッチー! エッチー!」


 必死の抗議もむなしく、店員達がそっぽを向くような痴話喧嘩イチャイチャが繰り広げられたのだった。



「ぐすん。お婿行けない」

「大丈夫よ。私が要兄をもらうから」


 数十分後。要は心の底からげっそりしていた。一方満足の行く買い物をした上に、兄貴分を翻弄できた雫はホクホクの笑顔だった。


「ちくしょう、覚えてろ……」

「明日には忘れておくね。それよりも……」


 荷物を左手に持った雫が、要をジロジロと見つめてきて。首を数回ひねった後、両手を叩く。なにかを思いついたようで。


「うん。やっぱり要兄も服を選ぼ? せっかく私と一緒に歩くんだから、もうちょっと見栄えが欲しいな!」


 空いている雫の右腕が、滑り込むように要の左腕を捕らえた。要は半ば強引に引き寄せられて。カップルのよくやる、腕組みの形にされて。


「そんなあ!? これじゃデートだよ、デート!」


 叫びを一つ残し、敢え無くメンズショップへと連れて行かれた。



 結局メンズショップで服を買ってもらってしまった要は、購入直後に着用を命じられ。着替えて出て来た時には、雫も服を変えていた。


「これくらいなら、良いでしょ?」


 さっきのキャミソールに緑のカーディガンを添えて。下は膝丈のスカート。ツインテールはそのままだが、年相応にも見える服装だ。


「ま、いいと思うぞ? それよりもお腹が空いてな」


 うっかり見惚れないように視線を操りながら、要はぼやく。実際既に十三時半。なのに昼食は済ませていなかった。


「んー……。あった! 要兄、アレ行こ!」


 要の言葉を受けてキョロキョロしていた雫が、目ざとくなにかの看板を見つける。少々小洒落た感じのする看板だった。洋食屋のようだ。


「雫ちゃん、雫ちゃん。ああいうのは当たり外れが……」

「大丈夫大丈夫!」


 ためらった要は引っ張られ、そのまま洋食屋に連れ込まれる。予想通りに、内装もおしゃれな代物だった。高くないだろうか。不安がよぎる。


「いらっしゃいませ。当店、日中はランチタイムとしておりまして。リーズナブルに、美味しいものを頂けるようになっております」


 はたして、不安は不安だけで終わった。普段通うファミレスよりかは値が張るが、それでも安い、と思える価格だった。


「んー。よし、チキンソテーでAセットで」

「私も同じので!」


 おかげで注文はさっくり決まり、しばしの待機となる。店内に客は少ない。ちょうどいい時間帯だったとも言える。チェーン店とは違う、独特の雰囲気があった。


「ふふーん……」

「どうした。ニヤニヤこっちを見て」


 水を飲んでいた要は、そこで雫の視線に気付いた。目を細め、楽しそうに。要は見られていた。どうにも気になり、尋ねてみれば。


「え? いや、要兄ってさ。ちゃんとすると、やっぱりカッコいいなーって!」


  あっさりと、あっけらかんと、雫は。要の心に刺さるセリフを言い放ってきた。

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