5-7 夜更けのコンビニと買い物と軽口

 夜更けのコンビニは、人が少ない。店員も油断しているのか、やや眠たげである。昔は朝七時から夜十一時までだったと聞いたことがある。

 店舗の外観を見て、かなめはなんとなく考えた。


要兄ようにい、はやくー」


 入口の前で、しずくが呼んでいる。いくら日本の治安が良いからと言って、一人でのこのこ入ってしまうほどの不用心ではないらしい。流石に寒いのか、長ズボンにセーターという出で立ちである。髪はまとめて帽子の下だ。


「悪い、今行く」


 小走りで駆け付け、ドアを開け。そのまま入る。これは意志表示。この後に入る連れは、俺が見ている。そういう誇示だ。


「らっしゃーせー」


 バイトと思しき店員の、間延びした声。見た感じ、要よりも年上のようで。しかし次の来店者を見て、バツが悪そうにする。下心がうずいたのだろうか。ざまあみろ、と要は思った。


「おっかしっ、おっかしっ」


 タタッと菓子売り場へ向かう雫を横目に、要は夜食を求めて弁当売り場へ。夕食がカレーだったので、おにぎりやパン、あるいはカップラーメン辺りが理想だが。


「多いな、種類……」


 ちょうど搬入の後だったのだろうか、意外にも選択肢が多い。人間、存外選択肢が多いと。選べなくなる。迷ってしまう。要は売り場の前で立ち止まってしまった。

 シャケ……ツナマヨ……赤飯……高菜……。定番から変わり種まで、おにぎりだけでもバラエティに富み過ぎていて。


「要兄ー?」


 手にした買い物カゴいっぱいにお菓子を詰めた、雫に横から覗き込まれるハメになった。


「悪い、悩んで……って、多いぞ」


 要が目にした買い物カゴの中には、チーズケーキにコーヒーゼリー。どら焼きにチョコレートに爆辛ハバネロ。ポテトチップスにチョコスナック菓子。要が悩んでいたのが馬鹿らしくなるぐらいに、大量のお菓子が入っていた。


「ごめん。多くした方が削れるかなって」


 てへっと舌を出す雫。その姿は、あまりにも少女らしく。


「取り敢えずイロモノ系から返して来るね」


 再びタタッと戻って行く。要はそれを見送った後、プッと息を漏らして。


「少し多くてもいいか」


 シャケおにぎりにカレーパン、カップラーメン。ついでに自分の分のどら焼きまで買い込んだのだった。


「要兄も結局たくさん買ってるじゃない」

「いいんだよ、スナック菓子ばっかりじゃないから」


 そんな軽口を叩き合いながら、今度は二人で飲み物売り場へ。これもまた種類は多いけど。


「あ。スリーアローサイダー、新作出てる」

「お、このミルクコーヒーうまそう」


 こっちはこっちで、お気に入りの種類は決まっていて選びやすく。


「要兄は……お茶とコーヒーね」

「雫ちゃんはサイダーとホットのお茶か」


 そして案外知らないのが他人の好み。


「じゃ、今度土産に買うわ」

「え、いいの? やったー」


 約束を交わしながらレジに向かって、ワリカンで支払いを済ませて。


「ありやっしたー!」


 たくさん買われて嬉しいのか、あるいは殺伐とした夜のバイトに美少女がやって来て心が踊ったのか。来た時よりも弾んでいた店員の声に見送られて、コンビニを出る。ふとスマートフォンを見れば、三十分は店にいた計算になっていた。


「たくさん買っちゃったね」

「太るぞ」

「これでも、運動してるし?」


 軽口にわずかな本心を込めて、要は雫と言葉を紡ぐ。それは踊るように軽妙で。そして流れのようにサラサラと。しかしあくまで軽口で。往路の時のような重みは、どこにもなくて。


 ふと要は考えた。この少女は、どっちがホンモノなのだろうと。少女の顔と、女の顔。使い分けが出来るのは、後何年だろうか。


「要兄、どうしたの?」


 歩みが遅れた要に、雫が問うて。要はそれに、微笑みを返して、それから。告げた言葉に、雫は目を丸くした。



 第五話・完

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